【コラム・松永悠】最近、実はタイ古式マッサージにハマっています。通い出して2カ月ほどですが、すっかり虜(とりこ)になっています。全身をほぐしてもらって、施術が終わると、体が軽くなってとても楽になります。
楽しく思う一方で、少し歯がゆい思いもしています。マッサージをしてくれるお姉さんとすっかり仲良くなって、仲良くなれば当然会話も増えますが、タイ人のマッサージ師は片言の日本語しかできませんので、話の幅が狭いだけでなく、ニュアンスもなかなか伝わりません。
私が日ごろ筋トレをしている関係で、割と筋肉があって、太ももなど硬い部分もあります。先日太ももをマッサージしてもらっていたとき、雑談のつもりで「私、筋肉あるから太もも硬いでしょ?」と言いました。すると「はい、硬いです。凝っていますね」と言われました。「硬い」は「硬い」でも、「凝っている」という意味で言ったのではありませんが…。
医療通訳の仕事をするとき、体の部位名、各器官系の仕組みはもちろんのこと、病気のことも知る必要がありますから、そこそこ難しいです。しかしマッサージの雑談レベルでも、外国人がこんな勘違いをするのだと気づきました。
異なる言語を話す人の間に入って、円滑なコミュニケーションが取れるようにお手伝いする仕事をしている関係で、「コミュニケーションが取れる」状態が私にとって当たり前です。だからこそ、このときはハッとしました。日常生活の中で、外国人と交流できるのは当たり前ではなく、「外国人とうまくコミュニケーションが取れない」状態が圧倒的に多いでしょうね。
「易しい日本語」を使う活動
今、医療現場では「易しい日本語」を使う活動が推進されています。日本人患者にとっても、医療用語や体の部位名は難しいものです。専門用語を避けて、分かりやすい単語や説明を使うことによって、患者に自分の病気のこと、これから受ける検査や治療をしっかり理解してもらうのが目的です。
インフォームドコンセント、つまり「知る、理解する、同意する」の3ステップを踏むことが義務付けられている今、医療従事者がさまざまな工夫をして言い方を変えながら、うまく患者とコミュニケーションを取っています。
専門的なことを誰もが分かる言い方で説明するのは、実は簡単なことではありません。日本語力が限られている外国人相手なら、なおさらです。そもそも語彙(ごい)だけでなく、文法が間違っていることも多いので、日本人患者よりもっと簡単な言い方じゃないと通じない、ということになってしまいますが、限界があります。
マッサージで「わたし、うんどうだいすき。だから、あしがかたい」と言えばニュアンスも正しく伝わったかもしれませんが、医療現場では時間の制限や内容によってどんなに頑張っても、このレベルまで落とすことができません。改めて医療通訳は必要不可欠だと感じたエピソードでした。(医療通訳)