水曜日, 7月 16, 2025
ホーム暮らしメタン削減の水稲栽培研究 米ゲイツ財団から5億円規模の助成

メタン削減の水稲栽培研究 米ゲイツ財団から5億円規模の助成

茨城大学農学部・西澤教授らのプロジェクトを支援

温室効果ガス、メタンの水田からの排出抑制をめざす茨城大学農学部の西澤智康教授を代表者とする研究プロジェクトに、米国のビル&メリンダ・ゲイツ財団から約383万ドル、日本円にして約5億円規模の助成が決定し、8月からインド、コロンビア、ドイツの大学・研究機関との取り組みがスタートした。

プロジェクトは英語の頭文字をとってM4NCO、「微生物が介するメタン排出緩和と窒素循環最適化」の取り組み。今後3年間の計画で、植物生育促進効果のある微生物をイネの栽培体系に導入することによるメタンの排出削減や窒素の土壌への貯蔵に係る効果を、アジアやラテンアメリカの多様な条件下で実証する。技術の普及を図ることで、世界全体のメタン排出量を3%以上削減(二酸化炭素換算で年間2400万トン)することを目標にしている。

西澤智康農学部教授=茨城大学提供

課題を解決するとして注目される微生物はイネの根と相互作用するKH32Cというバクテリア株。西澤教授とともにプロジェクトに取り組む同農学部の迫田翠助教らが阿見町の農学部付属国際フィールド農学センター内に設置した水田ほ場で研究してきた。

KH32Cを接種したイネ種子を栽培すると、水田土壌のメタン生成(メタン生成古細菌)とメタン消費(メタン酸化細菌)の群集構造が低メタン生成・高メタン消費型へと変動することが確認できた。肥料を施さない無施肥と窒素施肥の条件下でイネの収量を維持したまま栽培した結果、メタン排出量をそれぞれ約20%削減することが確認されたという。

昨年12月に開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)では、気候変動対策の強化とともに、食料・農業分野の持続可能な発展に向けた協力が呼び掛けられた。温室効果ガスの一つ、メタンは、気候変動に与える影響リスクが同量の二酸化炭素の約27倍とも言われ、生態系から発生するメタンの約4割は水稲や畜産などの農業分野から排出されている。

東南アジア、南アジア、ラテンアメリカなど地域の小規模農家では、メタンの大きな排出源となるような伝統的な水稲栽培が盛んに行われている。気候変動の対策に向けては、これらの地域で品種改良や高度なかんがいシステムなど、新たな技術の導入が必要だが、コスト面などから困難な状況となっている。

助成を決めたビル&メリンダ・ゲイツ財団は、マイクロソフト元会長のビル・ゲイツ氏とメリンダ夫人によって2000年に創設された。世界最大の慈善基金団体で、保健衛生と開発支援を中心に多額の資金提供を行っている。西澤教授らが日本国内とアジアの稲作への技術転換と実装を模索していたときに、研究が財団の目に留まって研究助成に至ったという。

プロジェクトでは今後、技術導入の簡便さ、接種微生物が土壌で増殖しないことによる環境への負荷の少なさなどの確証に努めて、若い研究者・技術者の育成も進めながら技術の普及を図ることにしている。

西澤教授は「支援により、私たちが目指す温室効果ガス排出量削減の実現に大きく近づくことになった。世界中の研究から科学的なイノベーションの種を見つけ、社会の進展のための高度なエビデンスの生成を支援する財団の取り組みに、感謝と敬意を示したい」と話している。(相澤冬樹)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

3 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

3 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

戦後80年 資料と空中写真で知る測量と地図作成の歴史 国土地理院

TX開業20周年展も 太平洋戦争の終戦から80年を迎えるのを機に、国土地理院(つくば市北郷)内の「地図と測量の科学館」で15日から、企画展「地図と測量に見る戦災からの復興」が始まった。軍港や軍事工場など軍事施設が削除された戦時中の地図、ポツダム宣言受諾決定後に行われた重要書類の焼却から地図を守るために奔走したある軍高官の歴史資料ーなど、明治から始まる国による国土の測量と、戦前から戦後に至る地図作成事業などの歴史を知る展示になる。会場では、今年8月に開業20周年を迎えるつくばエクスプレス(TX)沿線の変化を地図や写真から見る「つくばエクスプレス開業20年 地図・写真から見る沿線の変化」が同時開催されている。 展示されているのは、戦前から残る国土地理院が保管する資料や、空中写真、地図などが掲載されたパネルなど約60点。同院広報広聴室の染谷亨さんは「(土浦やつくば周辺など)私たちが普段暮らしている地域の変化を知ってもらう機会にもなる展示。空中写真などから大きく変わった風景を見ながら、親子で今と昔の変化を話し合う機会になれば」と企画への思いを話す。 「地図と測量に見る戦災からの復興」では、1869(明治2)年に近代測量を行う機関として明治政府により設置された、国土地理院の前身である「民部官庶務司戸籍地図掛」からの歴史資料が地図の変遷とともに展示されている。戦災を逃れた地図の銅原版、戦後のGHQによる測量・地図制作の様子など、現存する資料をもとに作成されたパネルが展示される。 また、国土地理院が保有する豊富な空中写真をもとに、各地の戦中から戦後の復興の様子を知ることができる。県内では土浦、水戸、日立の写真が展示されている。 TX沿線の変遷を地図と空中写真で 「つくばエクスプレス開業20年 地図・写真から見る沿線の変化」では、つくばや研究学園、守谷、八潮、秋葉原などTX7駅周辺の変化がわかる、30年前から10年ごとの空中写真と地図が展示されている。ほかに、TX開業時に先頭車両に取り付けられたヘッドマークや、「葛城」「島名」「萱丸」など仮の駅名が掲載された開業前に作られたパンフレットなどの関連資料も展示されている。 染谷さんは「写真や地図を大きく用いており、視覚的に時代の変遷がわかると思うし、お子さんも楽しめるつくりになっている。今回二つの展示を通じて日本が歩んだ戦後の復興に思いを寄せるとともに、TXによって沿線が進化する様子を感じてもらえたら」と話す。(柴田大輔) ◆企画展「地図と測量に見る戦災からの復興」と「つくばエクスプレス開業20年 地図・写真から見る沿線の変化」はつくば市北郷1、国土地理院・地図と測量の科学館2階特別展示室で9月21日(日)まで開催。開館時間は午前9時半〜午後4時半。月曜など休館。入場無料。詳細は、同ホームページへ。

夏のボーナスを出す会社 今年も高水準を維持 筑波総研調査

夏のボーナス支給を前にして、筑波銀行グループの筑波総研(本社土浦市、瀬尾達朗社長)は茨城県内の同行取引先341社から支給額などについて聞いた。アンケート調査は6月上旬~下旬。7月上旬に集計したところによると、今年も支給すると回答した会社は全体の78.3%と、昨夏に比べ1.1ポイント低下した。 この微減について山田浩司 上席研究員は「昨年を下回ってはいるものの、物価高や人手不足に対応するため、賞与を出す企業の割合は依然として高水準」と述べ、特に問題はないと判断している。 平均支給月数は、「1.0カ月以上1.5カ月未満」と回答した企業の割合が31.6%と最も多く、「1.0カ月未満」29.3%、「1.5カ月以上2.0カ月未満」25.1%の順だった。調査対象は製造業、サービス業、建設業、運輸業など多岐にわたるが、山田氏は支給月数について「春の賃上げで基本給が引き上げられたことにより、全体として高水準にシフトしている」と言う。 また、ボーナス支給に際して重視する項目についても調査。それによると「従業員の志気高揚」(47.5%)と回答した企業が最も多く、「現在の企業全体の業績」(39.9%)、「前年の支給実績」(34.6%)と続いた。昨年夏との比較では「現在の企業全体の業績」の割合が最も増え、「人材の引き止め」の割合が最も減った。 回答企業からは①ボーナスは利益増による支給というよりも志気高揚や従業員確保のためだ、②しかし会社の利益率が下がってきており、今後は慎重にならざるを得ない―といった声が出ており、山田氏は「コスト上昇など厳しい経営環境下で各社はボーナスを判断している」と分析している。(坂本栄)

ALS患者のためのデザイン《デザインを考える》22

【コラム・三橋俊雄】今回はALS(筋委縮性側索硬化症)の方のお話です。ALSは、筋肉を動かす運動神経だけに障害が生じ、徐々に全身の筋肉が動かせなくなっていく、進行性の病気です。 1998年、京都で、あるお医者さんから紹介されたのがALSのTさんでした。彼は88年の秋に発病。ろれつが回らない、飲み物が喉を通らないという症状が、この病気の始まりでした。翌年、運動神経の異常もあらわれ、91年には自立歩行が困難に、94年には気管切開を受けて人工呼吸器をつける状態になりました。 食事は、鼻からチューブを挿入して栄養剤を注入する経鼻経管栄養が用いられ、唾液(だえき)、痰(たん)の吸引はこまめに行われることに。また、関節が硬くなるのを防ぐための鍼灸(しんきゅう)マッサージ師による治療や、ヘルパーによる週1回の手浴・足浴・清拭サービスも受けているとのことでした。 このような状況でも、Tさんは時間を無駄にしないように1週間のメニューを作り、規則正しい生活(月:絵画制作、火:医師の診察、水:絵画制作、木:気功治療、金:診察、土日:絵画制作と休養)を心掛けていました。 一方、Tさんの意思伝達方法は、目の動きに合わせて奥さんが透明板の文字を読み上げる(上の写真)というもので、私も挑戦してみましたが、経験を積めばうまくやれそうに感じました。また、通常の私との会話は、少し時間はかかりますが、下唇の微細な動きでマイクロスイッチを作動させながらパソコンを操作して発信するというものでした。  しかし、Tさんがパソコンに向かって仕事をしていると、唾液が首、肩、背中に回り、一晩に2、3回パジャマを着替えることも珍しくないとのこと。そこで彼からの提案もあり、自力で唾液を吸引できる装置のデザインを検討することになりました。 自力唾液吸引装置のデザイン 唾液吸引用チューブは口腔内に留めたまま使用するため、シリコーン製の医療用カテーテルを用い、①チューブ先端部が口内を傷つけない形状に、②唾液を吸引しやすい穴径と穴の数を検討、③吸引中にチューブの穴が内壁に吸い付かないこと、④チューブの太さが口にくわえて違和感がなく、かつ、粘液性の唾液が通りやすいこと、⑤チューブ洗浄のため吸引器との着脱が容易であることなどを考慮しました。スイッチのオンオフは、眉のわずかな動きを利用しました(上図)。 その結果、Tさんは下唇でワープロ操作をしながら、同時に眉の動きで唾液吸引作業を行えるようになり、特に夜間のワープロ作業中など、3~4時間、奥さんを起こさなくても済むようになりました。(ソーシャルデザイナー)

空き地をとにかく草刈り つくばの会社員 伊東応樹さん

仲間とお助け隊結成 つくば市在住の伊東応樹さん(48)は、会社員として働きながら土日や祝日など休日を利用してつくば、土浦、阿見、水戸などの空き地の草を刈ったり、木を切ったりして整備している。 空き地の草を刈ることで、土地の持ち主や地元の人が感謝してくれるのがうれしいという。「いろいろな人と知り合いになれるのも空き地の草刈りの魅力」だと語り「とにかく草を刈るのが好き、機械を扱うのが好きでやっているので土日の休日を使うのはまったく苦にならない」と話す。 県民会議から表彰 空き地をきれいにした後、新しい使われ方をするのを目の当たりにするのも喜びだ。つくば市北条、昭和初期の近代和風建築、旧矢中家住宅がある「矢中の杜」近くの稲荷神社に続く、小道周辺の空き地を草刈りしたところ、見通しが良くなったため散歩をする住民が増えた。小道は、近所の保育園に通う子どもたちの散歩道にもなった。さらに小道沿いにアジサイを植える人が出てくるなど、「住民がきれいになった土地を意識し始めたのを実感する」と話す。 荒れた竹林を伐採した際は、刈った竹を捨てるのがもったいないと「無煙炭化器」を入手し、竹炭を作ることにした。竹炭は土壌の通気性や保水性を高めるなど土壌改良効果があるとされることから、畑にまいたりしている。筑波山神社隣りの大御堂に生えているスダジイの根元にまいたこともある。竹が地域に循環していることを感じると話す。 これまでの活動が評価され、今年5月には「環境保全茨城県民会議」(事務局・県庁環境政策課内)から表彰された。 きっかけはつくばマラソン 草刈りを始めたきっかけは、つくばマラソンで他のランナーがつぶやいた言葉だ。2017年、つくばマラソンで市内を走っている最中、沿道の落書きされた壁や伸びた雑草を見た他のランナーが「何だか街が汚いね」と話しているのを聞き、ショックを受けた。 街がきれいだと言ってもらうために自分にできることは何かと考え、草刈りを思い付いた。市役所の許可を得て2018年9月から、道路の縁石から伸びている雑草を勝手に刈り始めた。最初は鎌を使って手作業で草を刈っていた。 次第に、伊東さんの活動を知った土地所有者などから空き地の草刈りを依頼されるようになった。19年4月からは筑波山の林業ボランティア団体に加入し筑波山でボランティアをしながら、個人でも草刈り活動を続けた。依頼が増えたことで手作業では追い付かなくなったため、刈払機とチェーンソーの使い方を教わる安全講習を受けた。 仲間増え5人に 伊東さんは自身の活動をSNSで発信。SNSを見た人や、たまたま通り掛かり活動の様子を見掛けた人などが仲間に加わり、2021年3月、「空地フィールダーズ」という団体を作成した。現在メンバーは伊東さんを含め男性2人、女性3人の5人で、年代は20代から40代だ。 当初はボランティアで空き地の草刈りをしていたが、依頼主から「申し訳ない」という声があり、仮払機の燃料代やメンテナンス代、現地までの交通費などがかかることから現在は有料としている。料金は土地の面積や時間に関係なく、5~11月は1回7000円、12~4月は5000円、年間を通して空き地を管理する場合は年間2万円などだ。 利用の提案できるように 伊東さんは「空き地や緑地の手入れを一緒にしましょう、というスタンス。活動の楽しさを広げていきたい」と思いを話し、「高齢化などで空き地の手入れが出来なくなり困っている人はたくさんいると思うので、活動範囲を広げていきたい。土地の利用方法の提案もできるようになりたい」と意気込みを語る。(伊藤悦子) ◆「空地フィールダーズ」は一緒に草刈りをやりたい人や空き地を整備してほしい人を募集している。問い合わせは伊東さんのFacebook、「空地フィールダーズ」のInstagramのDM(ダイレクトメール)へ。一言メッセージを添えて連絡してほしいそうだ。