2015年9月の鬼怒川水害で、常総市の住民が甚大な被害に遭ったのは国交省の河川管理に落ち度があったためだなどとして、同市住民が国を相手取って約3億5800万円の損害賠償を求めた国家賠償訴訟の控訴審が9日、東京高裁で始まる。
一審では、鬼怒川沿いで堤防の役目を果たしていた砂丘の管理方法、堤防改修の優先順位の妥当性などが争われた。2022年7月水戸地裁は、国の河川管理の落ち度を一部認め、国に対し、原告住民32人のうち9人に約3900万円の損害賠償を支払うよう命じる判決を出した(2023年7月22日付)。原告住民20人と被告の国の双方が控訴していた。
「水害は人災だった」
控訴審を前に2日、原告住民ら8人による説明会が常総市内で開かれた。原告団の共同代表を務める高橋敏明さん(70)は「水害は、国が対策を怠ってきたことによる人災」と厳しく批判した。
高橋さんは同市内で、観賞用の花や植物を扱う花き園芸会社を営んできた。2015年の水害では16棟あった温室が高さ1メートルの泥水に浸かり解体を余儀なくされ、「我が子のように丹精込めて育ててきた」花や植物10万株が流出するなど被害を受けた。高橋さんは「この地域は砂丘が自然の堤防となっていた。今回の水害の前年、ソーラー発電業者が砂丘を掘削していたのを国交省は止めず、十分な補修もしなかった。砂丘が存在していたならば被害を抑えることができた。砂丘を守れなかったのが悔しい」と声を震わせた。
水害から5カ月後に死亡した妻が災害関連死に認定された赤羽武義さん(84)は「妻の死の原因がどこにあったのかをはっきりさせたい。国には誠意ある回答を求める」と訴えた。
鬼怒川水害では、豪雨により常総市内を流れる鬼怒川の堤防決壊や越水があり、市内の3分の1が浸水した。同市の被害は、災害関連死を含め死亡15人、住宅被害は全壊53軒、半壊5120軒、床上浸水193軒、床下浸水2508軒に及んだ。
2018年8月、同市若宮戸地区と上三坂地区の住民約30人が、被害を受けたのは国の河川管理の問題だとして国を相手取って損害賠償を求める訴訟を起こした。
一審で原告住民は①若宮戸地区で自然の堤防の役目を果たしていた砂丘林が、太陽光発電パネル設置のために採掘された場所は、国が「河川区域」に指定し開発を制限すべきだった。②上三坂地区で決壊した堤防は、堤防の高さが低く他の地区に優先して改修すべきだったのに、国はそれぞれ対応を怠ったことが水害につながったなどと主張した。
水戸地裁は、若宮戸地区の砂丘が「(同地区の)治水安全度を維持する上で極めて重要であった」とし、国は砂丘を維持するために「河川区域として管理を行う必要があった」と国の責任を一部認める判決を出した。一方で、堤防が決壊した上三坂地区については、堤防の高さだけでなく、堤防幅も含めた評価を行う必要があるなどとし、「国の改修計画が格別不合理であるということはできない」などとして、住民の訴えを一部退けた。
一審判決についてで原告住民は「国の瑕疵(かし)を認めたことは歴史的」としながらも、敗訴した部分もあることから控訴していた。
一審で住民の訴えが退けられた上三坂地区の争点となっているのが、住民側が主張する、堤防改修の優先順位だ。住民側は決壊した堤防が、高さや幅が不十分な状態に置かれており、改修が後回しにされていたことが決壊につながったと主張した。
これに対し国は、堤防の高さと質を含めた機能評価として行った「スライドダウン評価」を根拠として反論した。
原告団共同代表の片岡一美さん(71)は「スライドダウン評価」では実際の治水安全度を正確に判断できないとして、判断基準の是非を問うことで「一審判決は間違いだったことを説明したい」とし、「国は国民の生命財産を守る意思がないと感じる。国には堤防の決壊を最優先で防ぐことを求める」と訴える。
控訴審の第1回口頭弁論は9日(月)午前10時半から東京高等裁判所101号法廷で開かれる。終了後、衆議院第2議員会館第2会議室で報告会が予定されている。(柴田大輔)
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