【コラム・間宮孝】便秘、誰もが一度は経験があるのではないでしょうか。あのつらさは一度味わうと、もう経験したくないと思うものです。みなさんも原因をいろいろ考えてみたり、健康食品や生活習慣などで予防されている方も多いと思いますが、ここでは最近の便秘治療についてご紹介します。
便秘とは
医学的には「本来排泄(はいせつ)すべき糞(ふん)便が大腸内に滞ることによる兎糞(とふん)状便、硬便(こうべん)、排便回数の減少や、糞便を快適に排泄できないことによる過度ないきみ、残便感、直腸肛門の閉塞(へいそく)感、排便困難感を認める状態」と定義されています。
すこし難しいですね。簡単に言うと、ただ便の回数が少ないだけでなく、そのことによって困っている状態という認識です。これらの状態により、生活に支障をきたすと便秘症と診断されます。
なぜ治療が必要なのか
もともと便秘は生命予後に影響を与えないと考えられてきました。しかし、近年の研究により、便秘症がある人とない人を15年追跡すると、便秘症の人の生存率が20%悪化したという報告がありました。便秘症の人は便秘のない人より生存率が低かったという内容です。
そのほかにも、血栓症や慢性腎不全のリスクになるという報告もあり、積極的に治療を行うべきと考えられています。死亡率上昇の理由については様々な説がありますが、排便時のいきみの際に血圧が急上昇し、心血管イベント(心筋梗塞や脳梗塞などに代表される心血管系の病気)を起こすと推定されています。
一方でこれらは観察研究が中心で、便秘治療を行った結果、寿命が延びたという介入研究の報告はないため、正確な評価には今後のさらなる研究が必要です。
便秘の分類
便秘は大きく4つに分類されます。
①器質的狭窄(きょうさく):大腸がんなどにより物理的に便の通過が困難な場合。
②薬物性:多くの薬剤が腸管の蠕動(ぜんどう)低下をもたらすことが知られており、それが便秘の原因となる場合。具体的には、抗コリン薬、向精神薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、化学療法薬、循環器作用薬、抗不整脈薬、利尿薬、制酸剤、鉄剤、吸着薬、制吐剤、止痢薬などです。
③他の病気の影響:甲状腺機能低下症、糖尿病、慢性腎不全、パーキンソン病、強皮症など、便秘をきたす疾患の場合。
④機能性便秘症;①~③以外の場合。
治療薬の進歩
便秘の治療は以下のフローチャートのように原因の精査から治療を行っています。まず大腸がんなどの器質的疾患が無いかを調べ、次に止められる薬がないかを調べていきます。そして、いよいよ治療薬を処方しましょうということになります。
便秘の治療は近年急激に選択肢が増えています。2012年に30年ぶりに新薬ルビプロストンが発売、2017年にリナクロチド、ナルデメジントシル酸塩、2018年にエロキシバット、ポリエチレングリコール(PEG)、2019年にラクツロースが発売になっています。下の表で種々の薬剤を簡単に紹介します。
それぞれの薬には特徴がありますが、直接比較の試験は少なく、一般的に若年者には酸化マグネシウム製剤、そのほかにはルビプロストンから開始し、腹痛など過敏性腸症候群の疑われる人にはリナクロチド、蠕動低下も疑われる際にはエロキシバット、難治の場合にはPEG製剤などを併用しています。それぞれの薬に特徴があるので、自分に合う薬を主治医の先生と相談してみてください。
便秘を防ぐ3つの習慣
最後に生活習慣についても、少しだけ触れさせていただきます。便秘を防ぐには、①十分な水分摂取、②1日3食を食べる、③便意を感じたら我慢しない―これらを習慣にしましょう。「たかが便秘、されど便秘」と言われ、人々のQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を妨げてきた疾患です。今後の生活や治療などに少しでも参考になれば幸いです。(筑波メディカルセンター病院 消化器内科診療科長)