金曜日, 9月 13, 2024
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かや葺き屋根の家で老子を学ぶ《邑から日本を見る》166

【コラム・先﨑千尋】石岡市八郷地区在住の中島紀一さんから、「7月にかや葺(ぶ)き屋根の民家で古代中国の思想家・老子の勉強会(懇話会)を開くので、参加しませんか」と声がかかった。中島さんは有機農業研究の第一人者。しかもご自分で実践しておられる。私の同志の一人だ。

このかや葺き屋根の所有者は、2017年に八郷地区で新規就農した山田晃太郎・麻衣子さん夫妻。山田さんたちは自然と共にある農業を志し、「いのち育む水辺を目指す田んぼ」「草原を目指す畑」「里山復活を目指す落ち葉集め」「人がつながる農園へ」を柱とし、4年前に譲り受けた築百年のかや葺き屋根の家を拠点として「やまだ農園」を開き、有機農業に取り組んでいる。

中島さんは山田さんたちの茨城大学での恩師に当たり、中島さんが主導した耕作放棄地での農と自然の再生活動に参加したことが有機農業への道につながった。この茅葺き屋根の家は「八郷・かや屋根みんなの広場」として、いろいろな集まりに利用されている。

茅葺き屋根の葺き替え作業

老子は、古代中国、春秋戦国時代の思想家。中国が秦に統一される前だから、約2500年前の人。孔子や孟子などと並ぶ思想家だ。インドではブッダが生きていて、仏教のもとを開いた。西洋のギリシャ・ローマ文明の時代も同じころで、キリストはその少し後の人。老子は、宇宙の根源を「道」や「無」と名づけ、これに適合する「無為自然」への復帰を人間のあるべき姿、と説く。

中島さんによると、老子の時代の古代中国は経済も社会も政治も既に成熟していた。しかし、暮らしの基盤は田んぼだった。山田さんや中島さんたちが昔ながらの手植えで田植えをしながら、ふと老子のことを考えた。老子の思想と生き方が、ひょっとしたら山田農園のやっていることとつながるのではないか。そういうことで今度の勉強会が企画されたようだ。

といっても、参加者は10人。筑波大学で中国古代文学を研究されていた松本肇さんの話を聞きながら、老子の時代に思いをはせた。

「いいね、老子」

この日に開かれた懇話会は、松本さんが用意した「老子の人生観」という『老子』(岩波文庫版などがある)から引いた15の言葉の説明を受けながら進められた。その言葉は「上善水の如し」「無の効用」「(孔子の)儒教道徳反対」「あるがままに生きる。欲を減らす。文明を否定し、自然に帰る」「ほどほどで満足する。ちょっと立ち止まってみる」「人間万事塞翁(さいおう)が馬」、「生への執着を捨てるのが養生の秘訣」など。

松本さんの話を一通り聞いたあとで、それぞれが感想を述べ合った。私は、「老子が言っていることは現代社会の真逆。政治も経済もすべて『今だけ、カネだけ、自分だけ』の考えがまかり通っている。山田さん夫妻がしなやかにこの地で実践していることはまさに老子の思想に通じるのではないか」と話した。

この日、私の頭の中をさわやかな風が通り過ぎていった。(元瓜連町長)

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