全国的な整備士不足に直面する自動車業界で、自動車販売店を県内に15店舗展開するホンダ茨城南(本社つくば市花室、黒田敏之社長)が今年6月から、整備士の身体的な負担を軽減するアシストスーツを全店に計56台導入している。
同つくばみどりの店で整備士として勤務する深谷笑加さん(22)が身につけるのは、アシストスーツ「マッスルスーツソフトパワー」。定期点検などの日常業務で行うタイヤの上げ下げや中腰での作業は腰に負担がかかる。深谷さんは「日常的な負担が減った。疲れが残りにくくなった」と話す。
製品は東京理科大発のベンチャー企業イノフィス社(東京都八王子市、乙川直隆社長)による人工筋肉を応用したもの。イノフィスの担当者によると、ホンダ茨城南で導入されたアシストスーツはサポータータイプのもので、430グラムと軽く動きやすいのが特徴。東京理科大の小林宏教授が介護関係者と考案したのをきっかけに、2013年に製品化し、14年に発売を開始した。腰への負担が大きい入浴時の介助者への負担軽減を目的に、水場でも利用しやすい、電力を使わず空気圧を利用したゴムチューブによる人工筋肉のアシストスーツを開発した。背中に人工筋肉を使ったゴムが入っていて、肩と足にバンドで装着する。かがんだ時に伸びた背中のゴムが、起き上がる際に体を引っ張り上げる仕組みだ。肩と足に力を分散させることで腰への負担が軽減される。現在は介護職以外にも、重量物の持ち運びが伴う建築現場や、中腰や前傾姿勢での作業が多い農・林業でも導入が進み、累計3万台を販売しているという。
若者の車離れ、整備士資格の受験者半減
国交省物流・自動車局自動車整備課が今年3月に発行した「自動車整備分野における人材確保に係る取組」によると、自動車整備専門学校の入学者数は過去18年で約47%減少している。少子化の中で同期間の高校卒業者数が約21%の減少であることを踏まえると、減少率の高さが際立っている。自動車整備士資格の受験者数は過去20年間で、約7万人だった2004年をピークに減少傾向にあり、22年は3万5000人と半減している。一方で平均年齢は上昇傾向にあり、将来的な自動車整備士の確保が課題となっている。
アシストスーツ導入を担当したホンダ茨城南の鈴木宗高執行役員(52)は「以前は車やバイクが好きな人が集まる業界だったが、若者の車離れが進む中で専門学校が定員割れするなど、成り手不足が進んでいる。同業各社の間で人材確保が大きな課題になる中で、せっかくなりたくて整備士として入社した社員が、体への負担から辞めたくないのに辞めざるを得ないケースがある。長く仕事を続けてもらいたいという思いで、アシストスーツを全店に導入することを決めた」と話す。
さらに「けが防止の観点だけでなく、体力勝負の現場で整備工場に冷暖房を完備するなど、会社として社員のためにできることはやるというメッセージを発信し、同時に働きやすい環境づくりに努めているという自動車業界としてのアピールにつなげたい」と思いを話す。(柴田大輔)