【コラム・高橋恵一】公的年金の財政検証結果が厚生労働省から公表され、2057年度(33年後)の給付水準は、夫婦2人のモデル世帯で、その時の現役世代の平均収入月額41万8000円の50.4%(所得代替率)、21万1000円給付と試算され、現在の年金制度が前提としている所得代替率50%を確保できるとされました。
検証の前提は、実質経済成長率が-0.1%、合計特殊出生率が1.36(2023年は1.26)、会社員の夫と専業主婦のモデル世帯です。
まず、検証の前提ですが、実質経済成長率はこれまでの30年間の趨勢を採用し、今後は、女性、高齢者の労働参加と外国人の増加なのですが、いずれも現在の日本の低賃金層であり、所得に連動する保険料に対応する年金支給額ですから、低賃金を解消しない限り、給付水準は低下することになります。
さらに、低賃金構造の継続は、個人消費支出を押さえ、今後も経済成長の長期低迷が続くことになります。今回の、超高齢社会のピークを含むこれからの30年余を乗り切る年金財政検証は、楽観的な100年安心という政府公約のつじつま合わせに過ぎません。
検証では、給与所得以外の基礎年金(国民年金)のみの加入者世帯については、夫婦で10万7000円(所得代替率25.5%)と算出されました。支給年金から、住民税と後期高齢者医療制度の保険料、介護保険料などが差し引かれます。市町村などによって異なりますが、概ね各人2万円くらいになります。
モデル世帯に当てはめれば、夫婦の手元に残るのは6万円程度になります。単身だと3万円程度、1日1000円、とても生活できる額ではありません。
基礎年金については、年金制度として、現時点でも破綻していると言わざるを得なく、その対応策が提案されていますが、その多くは、厚生年金の加入条件を緩くして、厚生年金加入者を増やそうとする案です。厚生年金の第3号被保険者制度の撤廃もその1つです。しかし、年金の支給額は、加入期間と年金保険納付額に左右されますから、2057年度までの改善には間に合いません。
厚生年金の雇用者負担分は法人税に
近代国家において、高齢者と就労収入を得られないあるいは少ない人への年金支給は、医療、子供への教育と並んで、国家が責任を負う基本的な社会保障です。
社会保険料の天引き後の手取額が、生活保護費を下回る年金など、国民として多くの義務・役割を果たしてきた高齢者への社会保障とは言えません。基礎年金の保険料を所得税に切り替えるべきでしょう。加入者負担の保険料を合計して、所得税に振り替えれば他の財源に影響しません。
財政の大原則は、必要配分と応能負担。保険料負担を所得税負担にすれば、トータルの国民負担に変更はなく、負担が減額になる個人が出ますが、累進税率が公平に適用されていれば、不服のある人はいないはずです。つまり国民負担の増額にはなりません。同じ理由で、厚生年金の雇用者負担分は、法人税に振り替えたらよいと思います。(地歴好きの土浦人)