水曜日, 12月 10, 2025
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恐竜の星《短いおはなし》29

【ノベル・伊東葎花】

眠れないのかい? そうだよね。窓の外はいつも真っ暗だ。
朝か夜かもわからない。宇宙旅行とは、そういうものだ。
どれ、父さんが話をしてあげよう。
いつかお前に話そうと思っていた話だ。

これは、ある星の話だ。
恐竜と人間が共存する、不思議な星の話だ。
ずっとずっと大昔に、地球の恐竜が絶滅した。
神様は、絶滅前に何頭かの恐竜を他の星に移住させた。
このまま絶滅させては可哀想(かわいそう)だと思ったんだろう。
共食いをされては困るから、草食恐竜ばかりを選んだ。

自然豊かなその星で、恐竜は穏やかに暮らした。
やがて人間が誕生して、暮らしも進化していった。
しかしその星の人間は、恐竜の領域を侵すことはしなかった。
先住民である恐竜を敬い讃(たた)えていたのだ。
また恐竜も、人間の暮らしを脅かすことはなかった。
お互いに、上手(うま)く共存していたんだ。

たくさんの時代を超えて、科学は進化した。
そしてその星に、地球人がやってきた。
地球人は驚いた。
絶滅した恐竜が、そこにいたからだ。
地球人は、恐竜を何頭か譲ってくれないか、と頼んだ。
しかしその星の住民は断った。どんなに大金を積まれても断った。
恐竜にとって、この星を出ることは幸せではないと思ったからだ。

地球人は諦めた。
しかしひとりだけ、どうしても諦められない男がいた。
恐竜が大好きな研究者だ。
男は恐竜の生息区域に忍び込み、卵を盗んだ。
そして何食わぬ顔で地球に帰ったのだ。

男は自分の研究室で、卵を大切に育てた。
やがて見たこともない恐竜が生まれた。
大変高い知能を持った恐竜だ。人間の言葉を理解し話すことができた。
恐竜も進化していたのだ。

男は、まるで我が子のように恐竜を可愛(かわい)がった。
恐竜も男を父親だと思った。
男にとっても恐竜にとっても、それは楽しい日々だった。
しかし恐竜は、どんどん大きくなった。
まだ1年足らずで男の背を追い越した。このままではいずれ天井に届いてしまう。
食べ物だって、あの星ほど豊富ではない。
研究室で育てるには、限界がある。

男は、自分の愚かさに気付いた。
愛(いと)しい。とても愛しいけれど、恐竜を故郷に返すことにした。
これ以上大きくなったら船に乗せることができなくなる。
だから急いで出発した。
最愛の息子と、最初で最後の宇宙旅行だ。

「お父さん、もしかして、その恐竜がボクなの?」

「ああそうだ。お前はやっぱり賢い子だな」

「もう一緒には暮らせないの?」

「暮らせない。父さんは罪人だ。罰を受けなければならない。ごめんよ。お前には本当に悪いことをした」

「でも、ボクはお父さんが好きだよ」

「ありがとう。さあ、もうすぐ到着だ。少し眠りなさい」

愛しい息子は、ざらついた舌で、私の涙をそっと拭った。

(作家)

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武器を持たない勇気と知恵《ハチドリ暮らし》56

【コラム・山口京子】11月中旬、利根町役場のホールで「平和のつどい利根」講演会が開かれました。講師はイスラエル生まれの元空軍兵士で、現在は埼玉県で家具作家をしているダニー・ネフセタイさん。テーマは「武器を持たない勇気と知恵」でした。 イスラエルには徴兵制度があり、高校卒業後、男性は3年間、女性は2年間、兵役に就くそうです。「軍隊がなければ周りの国から攻撃され、生きていけないと思い込まされ、軍隊はすばらしいという価値観を自然に身に付ける。自分もそのように思っていたが、退役後、アジアを旅して日本で暮らすようになり、考えが変わっていった」とのことでした。 そして、「過去のゆがみに縛られるより、今からどうしていくのか、共に生きるのか、共に死ぬのか。共に生きるには、武器を持たない勇気と知恵が求められる」と。 ダニーさんは、戦闘機に乗った若き自分の写真をパワーポイントで映しながら、「これを見てどう感じますか? カッコイイと思う人いますか?」と尋ねます。そして、「戦闘機はある目的のためにだけ優れている。それは物を破壊し、人を殺すこと。その目的って、カッコイイことなのか?」。 「テロは武力では止められない。武力を行使すれば、さらなる憎しみが生まれる。武力によって生まれるのはさらなる武力。憎しみによって生まれるのは憎しみでしかない。戦争は最大の人権侵害であり、環境破壊でもある」 武器が商品に、戦争が商売に 日本の防衛費は年間8兆8000億円。この額を、365日、1日、1時間、1秒に換算すると、1日241億円、1時間10億円。とんでもない金額です。その出所は国民の税金。軍事費に使われるほど生活にしわ寄せが来ます。 ダニーさんは14年前、「原発とめよう秩父人」を立ち上げ、反戦や反原発を訴える講演を各地で行っているそうです。「‘敵’概念はヒトのDNAにはない後天的産物であり、話し合いで解決できないという思い込みは、捨てないといけない。‘敵’とは国が設定するものであり、あおりや脅かしに振り回されないで、お互い、よく見て、よく聞き、よく話すことが必要だ」 東京新聞に「世界の軍需企業24年販売額最高」という記事(12月2日付)が出ました。ストックホルム国際平和研究所によると、上位100社の軍需関連販売額は前年比5.9%増え、6790億ドル(約106兆円)と、とんでもない金額です。武器が商品になる、戦争が商売になる―おかしくありませんか? (消費生活アドバイザー)

和訳 ときどき「みすゞ飴」《続・平熱日記》187

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6年ぶりに常陸大宮で農村歌舞伎《邑から日本を見る》189

【コラム・先﨑千尋】少し古い話題だが、常陸大宮市で10月25日に行われた「西塩子(にししおご)の回り舞台」を紹介する。 西塩子地区は常陸大宮市にある山間部の小さな里山集落で、戸数は50戸ほど。戸数は減り、高齢化も進む。ここで、江戸時代から地域の娯楽として農閑期の田んぼなどで農村歌舞伎が演じられ、住民らに親しまれてきた。しかし1945年を最後に行われなくなり、道具類は地域の倉などに納められていた。 1991年、当時の大宮町歴史民俗資料館の石井聖子さんらが調査に入り、同地区の組立式舞台が江戸時代後期の文政年間のものと判明した。現存する日本最古の組立式農村歌舞伎舞台で、回り舞台もある本格的な舞台だ。現在は県の有形民俗文化財に指定されている。 舞台は公演後には解体されてしまう。94年に回り舞台保存会が結成された。97年に隣県の歌舞伎伝承者らに指導を仰ぎながら、半世紀ぶりに公演を復活させ、原則3年おきに公演が行われてきた。これまで、定期公演の他に「ふるさと歌舞伎フェスティバル」など多くの催しに出演し、「サントリー地域文化賞」などを受賞している。 前回の公演は2019年。その後、新型コロナウイルスの拡大が活動を直撃した。さらに保存会メンバーの高齢化による担い手不足や資金集めなど課題が重くのしかかり、延期が続いた。 伝統の灯は消えなかった しかし、地域文化の伝統の灯は消えなかった。「ふるさとの伝統文化をなんとか残さなくては」と、有志の市民や茨城大学の学生らでつくるNPO法人が支援の輪を広げ、6年ぶりの公演再開が決まった。昨年10月には再開を支援するためのシンポジウムも開かれた。クラウドファンディングも実施された。 真竹や木材約500本で組み立てられる舞台は、間口、奥行き20メートル、高さ7メートルで、壮麗なアーチ型が大きな特徴。地元の竹林から竹を切り出し、屋根は「いぼ結び」という独特の結び方を駆使して作られる。今回は、高齢化や人手不足により、建設業者やとび職人の手を借りて約1カ月かけて作られた。学生たちも竹の伐り出しや桟敷席の設営などの手伝いをした。 そうして迎えた公演当日。あいにくの小雨模様だったが、客席は満員。午前10時半から子ども歌舞伎を地元の大宮北小の3~4年生が、常磐津「子宝三番叟」と「白波五人男」の稲瀬川勢揃いの場面を演じた。午後は、友好関係にある栃木県那須烏山市の山あげ保存会芸能部会が歌舞伎舞踊「蛇姫様」を演じ、続いて、市内の常磐津伝承教室で小学生が学んだ常磐津「将門」を披露した。 トリを務めたのは、西塩子地区の若手住民と大宮北小の児童らでつくる地芝居一座「西若座」で、「太功記十段目 尼ヶ崎閑居の場」を演じた。観客から拍手や喝さいが沸き起こり、「おひねり」も飛びかった。 保存会の大貫孝夫会長は「高齢化が進み、復活へなかなかやる気が起きてこなかったが、多くの方々に後押しされ、歩み出せた。地域の宝を残すために今後も続けていきたい」と話している。この取り組みはNHKテレビの「小さな旅」でも、11月30日に「常陸大宮市〝西塩子の回り舞台〞復活に向け奮闘する人々の物語」として全国放映された。(元瓜連町長)