【コラム・斉藤裕之】季節外れの話というわけではない。天気予報で毎年びくびくするのが大雪の予報だ。というのも、いつかの大雪の日に屋根から落ちる雪の塊がお隣のフェンス辺りに落下するのを目撃して、これはまずいと思った。そうでなくても雪の重さはバカにできない。雨樋が壊れる原因となる。
だから雪止め金具を付けたいとずっと思っていた。しかし、我が家の屋根は瓦棒(かわらぼう)と呼ばれる金属屋根なのだが、相応の雪止め金具がホームセンターで売っていないし、ここ数年は運よく雪が降らないことをいいことに、保留していた。というか、瀬戸内育ちの私はそもそも雪止めなどというものがあること自体知らなかった。
そこで今年こそはと、検索「雪止め金具」。すると、我が家の屋根にピッタリ合いそうなものがあったので、一つだけ注文してみた。
ここで助っ人を呼んだ。同じ大学の工芸科を出たマコト君。年もほぼ同じ彼はあらゆる材料、加工技術に精通している。木製の家具から金属加工、小さなものから大きなものまで、とにかく何でも作る頼りになる男だ。作れるもの、直せるもの、自分でできそうなことは、極力自分でやってきた。
ひとつの理由は興味、欲求から。作るのが好き。もひとつは安く上げるため。見よう見まねから始めることもあったし、教えてもらうこともあった。失敗したり、やっているうちに分かったり。いわゆる我流でやってきたことも結構ある。「器用ですね」と言われるが、とんでもない。
人から見れば、何でもできるように見えて不器用極まりない。失敗ばかり。それから何でもかんでも自分でやらないでときには、人に任してやってもらうことも大事であることも学んだ。「餅は餅屋」という言葉がある。マコト君はその餅屋のひとり。彼は何でもキッチリやる。工芸科と油画科の違い? 職人気質と芸術家気質との違い?
ところで、男1人になって果物をほとんど買わなくなった。しかし、珍しく冷蔵庫には杏(アンズ)がある。信州千曲市のギャラリーコクーンのかおりさんのお誘いで、今年も杏狩りに行ってきたのだ。昨年は食べられなかったハーコットという特別に大きな杏。お尻のようなところを半分に割って皮ごとほおばる。口の中に独特の香りと甘みが広がった。
このギャラリーには、マコト君が作った記帳用のテーブルが置いてある。オープンに際して、私がかおりさんに紹介した経緯がある。「今度はバターナイフとか簡単なカトラリーづくりのワークショップとかやってくれませんか」と、かおりさんに言われて、それならマコト君が適任だと推しておいた。
それにしても、マコト君からなかなか連絡がこない。梅雨に入ってしまったし、屋根の上は灼熱(しゃくねつ)になって登れなくなってしまう。ぎっくり腰をやったというから無理はいえないが…。私はかおりさんのもうひとつの依頼を思い出した。「できたらハーコットの絵を…」。危うく全部食べてしまうところだった。私はあわてて杏の絵を描くことにした。
追記。梅雨の晴れ間、無事に雪止めを設置。マコト君の自作の道具やちょっとした工夫で、作業を滞りなく終えることができた。しばし屋根を眺める。グッジョブ!(画家)