親の病気や経済的理由、虐待などで実の親と暮らせない子どもを一般家庭で育てる「里親」を増やす取り組みが、茨城県でも進められている。子どもが育つ上で、特定の大人との安定した関係の中での養育が必要だとして、国は里親への委託を増やすことを方針として掲げている。より多くの人に里親制度に参加してもらおうと、県から委託を受けた事業所らが「里親登録1000人」を目標に活動している。(全3回)
大人のためではなく子どものため
5月、龍ケ崎市在住の恵さん(44)=仮名=の家に子ども用のタンスが届いた。間もなくやってくる里子のためだ。夫婦に子どもはいない。2人の暮らしが少しずつ変化していく。
恵さんは2年前、里親制度説明会の案内が載っていた行政の広報誌を偶然目にして、里親になることに関心をもった。20代のころに聞いた里親経験者や施設で育った知人からの話が心に残っていた。
里親制度説明会の会場となるのはつくば市高崎の「さくらの森乳児院」だ。社会福祉法人同仁会(塩沢幸一理事長)が運営し、県から委託を受けて里親制度の普及促進とリクルート活動を進めている。
「自分たちに子どもはいないが、虐待など子どもに関するニュースに触れるたびに何かできないかと考えていた」と恵さん。夫婦共に40代を迎え「里親になるのもいいかもしれない」と思っていた。一方で「とても大きな責任が伴うこと。うまくいかなかったからといって、簡単に『止めます』というわけにはいかない。本当に自分たちにできるだろうか?」と不安があった。「まずは話を聞くだけ、行ってみようと思った」と話す。
気軽な気持ちで参加した説明会で最も心に残ったのは、里親支援機関である乳児院の職員が強調した「里親制度は子どもが欲しい大人のための制度ではなく、子どものための制度」ということだった。同時に、里子になる子には虐待を受けて心に傷を負っている子が多く、里親に馴染むのに時間がかかるという話もあった。「覚悟がいるなと思った」と振り返る一方で、里親を支える仕組みがあることに勇気づけられた。
里親支える仕組みがある
里親が子どもの養育に悩んだとき、里親支援専門相談員という職員にいつでも相談することができるとの説明もあった。一時的に、他の里親に子どもを預けるレスパイトといった制度もある。定期的に開かれる里親サロンでは、里親同志の交流も生まれている。子どもを委託される前には、地元自治体の担当課や地域の福祉事業所、学校、保育所など、子どもに関わる人たちと顔合わせをする里親応援ミーティングも開かれる。手当ての支給もあり、経済的な負担も少ないことがわかった。「子どもにまつわる問題をチームで養育に当たるのが里親の養育」という話も、恵さんの背中を押した。
「問題を抱える子どもや思春期の子どもへの対応や、これまでの生活がどう変化するのか予想がつかず不安もあったが、それ以上にやりがいも感じた。でも、まずはやってみよう」と夫と話し合い、座学や児童養護施設などで6回の研修を経て、里親として登録をしたのが昨年10月のことだった。
その後、児童相談所から恵さん夫妻に里子の委託に向けた連絡があり、今年3月から里子を受け入れるために子どもが暮らす施設を週に2、3度訪ね、一定の時間を共に過ごしながら子どもとの関係を作るためのマッチングを進めている。
その間、施設職員から受けるサポートに「子育て経験がない中で、とても安心して子どもに向き合うことができた」と話す。順調に進めば、7月中に里子を委託される予定だ。「まだ不安も大きいが、楽しみもある。他の里親さんからのアドバイスもとても貴重でした。周囲に頼りながら子どもと向き合っていきたい」と話す。
続く