【コラム・瀧田薫】戦争と経済とは切っても切れない関係にある。戦争当事国の経済力は、ほぼその国の戦争遂行能力と一致する。ウクライナとロシアの経済力を比較すれば、両国の軍事力の差が把握できる。実際に、GDP、軍事費、そして軍事費の対GDP比―この3項目を取り上げて比較してみる。
具体的な方法としては、ロシアによるクリミア半島侵攻の年(2014年)以前の2013年度と、ロシアがウクライナ侵攻を開始した2022年度におけるそれぞれの数字を比較する。つまり、両国の平時と戦時で数字がどう変化するかを見る。(単位は100万US$。出典はGDPはIMF、軍事費は世界銀行。なお「グローバルノート」を参照)
数字は残酷なほどロシアとウクライナの経済力の差を示している。参考までに、ウクライナの軍事費と対GDP比について、侵攻前(2021年)と侵攻後(2022年)の数字を欄外に並べてみた。すると、侵攻が始まった年のウクライナの戦費は平時の約10倍に暴騰していた。米欧の軍事専門家の当時の心境は「てのうちはみつ 叶うべしとも思えず」ということではなかったろうか。
欧米の各国政府、特に米国はウクライナの窮状を救うために一つの原則を定めた。ロシアを追い詰めれば、プーチンは核の使用をためらわず、それが第3次世界大戦につながりかねない。したがって、NATO軍がロシア軍と直接干戈(かんか)を交えることは絶対に避けねばならない。その代わりに、ウクライナに対し武器、弾薬その他の物資を大量に供与し、さらに、ロシアを経済面から攻撃することにした。
制裁は「情報とネットワーク」重視
2022年2月以降、欧米各国は、ロシアに対する経済制裁を矢継ぎ早に打ち出した。「国際的な決済ネットワーク・SWIFTからロシアを排除」「ハイテク製品のロシアへの輸出禁止」「原油や鉄鋼製品などの輸入禁止」「ロシアの資産+オリガルヒの資産凍結」などである。
制裁の中味について注目すべきは、特に米政府において「モノや製品」よりも「情報、データそしてデジタルネットワーク」が重視されたことだ。最近、「武器化した経済」といった言葉をよく耳にするが、そこにも「情報とネットワーク」重視の感覚がある。
有り体に言えば、米政府はクライナ戦争を「武器化した経済」の実験場としている。開発の最終目標は、米中間の覇権争いの舞台にハイスペックな衣装をまとった「武器化した経済」を登場させることである。6月11日、ブリュッセルの主要7カ国(G7)が取り決めた「ロシア凍結資産の活用策」は「武器化した経済」のニューモードを予感させる。(茨城キリスト教大学名誉教授)