【コラム・奧井登美子】
「処方箋をいただきます。お薬手帳はお持ちですか?」
「内科の手帳なら家にあります。でも、今日は花粉症がひどくて、ひどくて、耳鼻科を受診しました」
「お薬手帳は、大事な健康データなので、医院が違っても、科が違っても、むしろ違った時こそ、普段どんな薬を飲んでいるか分かりますので、大切なのです。今日の薬は印刷した紙をお渡ししますので、その手帳にお貼りください」
お薬手帳はひとり一冊。医療データの記録が大事なので、薬の記録のほかにも医者に言われた大事なことは忘れないように手帳に書いておくこと―と、口をすっぱくして言っているのに、まだ、よく使い方が分かっていない人も多い。
薬というものは、有効性も、副作用も、個人差が大きい。医者、薬剤師、医療従事者―誰が見てもわかるように記録しておかないと、その人にふさわしい医療が成立しない。
和紙や和布で表装してみた
お薬手帳を大事にしすぎて、バッグから取り出すのに時間のかかる友達がいた。私が透明なプラスチックのカバーに、ものすごく派手な柄の和紙を両面テープで張り付けてプレゼントしたら、とても喜んでくれた。
高価な牛革の立派なケースを買ったけれど、持って歩くのに、バッグが重くなってしまって、どうしたらいいか困ってしまっていたという。
和紙や和布なら軽いし、バッグを開けた時にどこに入っているかが、すぐ色でわかる。私は自分のお薬手帳をコピーして、1冊は「緊急脱出用薬袋」の中に入れてある。持ち歩きのお薬手帳カバーに、亡くなったおばあちゃんが大好きだった紫色の羽織の端切れを張り付けてみた。
おばあちゃんは天国にいるけれど、いつも、いつも、働き過ぎだった私の健康を気遣ってくれていた。「登美ちゃん。飛び回っているけれど、けがしないように神様に祈っている。3人の子育て、薬局の仕事で忙しい。おじいさんの介護は私がするから大丈夫よ」(随筆家、薬剤師)