【コラム・冠木新市】つくば市の市章は、科学と自然を意味する青色と緑色の二つの「つ」の字を組み合わせ一つにしたもので、明るいイメージが広がり私は気に入っている。
映画の世界にも、2作品が組み合わさって相乗効果を上げているものがある。『仁義なき戦い 代理戦争』と『仁義なき戦い 頂上作戦』(映画探偵団22)や『ゴッドファザー』と『ゴッドファザーPARTⅡ』がそれである。1本でも面白いが、もう1本加わると内容が一層深まり面白さが倍増する。
2本の『マッドマックス』
ジョ一ジ・ミラー監督の『マッドマックス フュリオサ』(2024)を映画館で見た。自宅に戻ってすぐ、前作『マッドマックス 怒りのデス・ロ一ド』(2015)のDVDを見た。何度も見返してきた作品だが、これまでよりも理解が深まり一層面白く感じられた。
『フュリオサ』は『怒りのデス・ロ一ド』の前日譚(ぜんじつたん)の設定で、同じく核戦争後の世界を描いている。2作品はフュリオサを主人公にして話はつながっているのだが、2本は全く違うアプローチで作られていて、別物語と言ってもいい。
『フュリオサ』は、15年間の物語を5章仕立て2時間28分で、フュリオサが独裁者ディメンタスに母親を殺され、その敵をとる追跡の旅路を描いている。『怒りのデス・ロ一ド』は、3日2晩の物語を2時間で、フュリオサが亡き母と約束した故郷「緑の地」に戻るため、独裁者イモ一タン・ジヨ一から逃亡する旅を描いている。
フュリオサが関わる2人の独裁者の性格が異なる。ディメンタスは、亡き子どものクマの人形を肌身離さず身に付け絶望感にとらわれているが、陽気で屈折した複雑な性格の持ち主である。各派閥のバイカ一集団を組織しているが、管理能力はあまり高くなく、目先の戦略にはたけていても展望力はない。
一方で、イモ一タン・ジョ一は放射能に汚染されていない水を確保し「砦」を管理、救世主を名乗り部下に階級制を導入し支配している。
フュリオサは核戦争後の2人の独裁者の下で「緑の地」の秘密を胸に収め生きていく。フュリオサは「緑の地」という希望を持っているが、ディメンタスは絶望感しかない。同じく肉親を亡くした2人は、似た者同士だが全く生き方は異なっている。
『怒りのデス・ロ一ド』を見たとき、フュリオサが信じる「緑の地」などあるわけ無いと思えたが、『フュリオサ』を見ると、亡き母との約束を果たそうとの思いが強かったのだと分かってくる。「緑の地」とは「母親」そのものだった。
『フュリオサ』は、娘が母との約束を果たそうとする物語であり、ただの敵討ちではなかった。またフュリオサは、ラストで絶望感にあふれたディメンタスを殺さず、別の希望の形で生かす方法をとる。
つくば市:科学と自然
購入したパンフレットを読んでいたら、なんと『怒りのデス・ロ一ド』に暗い沼地が出てくるのだが、実は、そこが「緑の地」であると書いてあった。その沼地で一本の木を倒すシ一ンが描かれる。これが『フュリオサ』のラストの意味につながる。いやはやなんとも恐れ入った。
筑波山の麓に人工都市としてつくられた筑波研究学園都市つくば市は、一般的には科学都市で知られている。30年前つくばに移転して来たとき、緑にあふれた場所で気に入った。きっとこの地には科学よりも自然の緑を愛するフュリオサが育ってきているに違いないと感じている。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)