【コラム・三橋俊雄】S町では、日常の「いとなみ」の中に、自然とともに人びとが長い年月をかけて育てあげてきた町の「光」があり、それらの「光」を絶やさず守り磨いてきた人びとの姿がありました。
S町は「名人」の町
コラム7(4月16日掲載)で紹介したシナ織のHKさんの他にも、八幡祭りを盛り上げるために子ども御輿(みこし)や笹川民謡流しを考案したTSさん、名勝笹川流れの案内が得意のWHさん、地元で採れる魚の売り口上なら誰にも負けないOMさん、昔ながらの木船作りが村で一番のTHさん、フグちょうちんやサザエ人形作りが得意のTNさん、盆栽・サツキ作りのSSさん。
郷土料理のアワ笹巻・筍(タケノコ)巻き作りが上手なSIさん、町に伝わる民話の語り手HTさん、マタタビざる・スゲ笠作りのKSさん、馬沓(まぐつ=馬のわらじ)・雪沓(ゆきぐつ)作りのTYさん、コクワヅル細工のSRさん、ベテラン海女のTIさん、笹川流れのカキ採り名人HYさん。
米俵・民具作りのSTさん、杖(つえ)作りに励むSHさん、南部地区の歴史に詳しいSTさん、磯見漁の名人WSさん、昔ながらの桶(おけ)・結婚式用の角樽(つのだる)作りのISさん、陶器で「カッパ」を製作しているAKさん、色紙を用いた切り絵細工のNMさん、祭りに使われる梵天(ぼんでん)を製作するTMさん。
S町は様々な「光」を発信する名人たちの町でもありました。
町民が発見した「光」
11月には恒例の「S町産業祭」が盛大に開催され、その一角で「豊かな観光地づくりを語る町民の集い」が催されました。その集いは、町民がどのような「光」を自らの地域に見い出しているかを一堂に会して議論し、今後の観光開発の方向を具体的に見定めていくために開かれたものでした。
会場に集まった町民たちからは、町の観光開発に向けた具体的な提案が200件も寄せられました。
それらを整理すると ①山北町の身近な自然に関連した「日本海に沈む夕日写真コンテスト」「海・山のキャンプ村づくり」②集落の歴史・生活文化にかかわる「八幡宮奉納相撲イベント」「集落対抗味噌づくり合戦」③日常の暮らしを学ぶ「ハサかけ体験」「シナ織体験」「海辺のなりわい体験」④S町住民との触れ合いを中心とした「碁石海岸での囲碁大会」「河川敷での大芋煮会」―など、いずれも町に内在する自然的・人工的環境資源、産業的資源、生活文化的資源に着目したアイデアでした。
すなわち、S町の人びとにとっては、「身近にある豊かな自然」「集落の歴史・生活文化」「日々のなりわい」「町民との触れ合い」そのものが、観光開発のための貴重な資源であるということでした。私たちは、この「町民の集い」に寄せられた具体的な提言を貴重な資料としながら、S町における観光開発基本計画を立案していくことが肝要であると感じました。(ソーシャルデザイナー)