【コラム・川端舞】一度読んで、大好きになった絵本がある。2019年、アメリカのヘンリー・ホルト社から出版され、今年4月にエトセトラブックスより日本語訳が発売された『じぶんであるっていいかんじ:きみとジェンダーについての本』。トランスジェンダーの子どもを持つテレサ・ソーンの優しい言葉と、トランスジェンダー当事者であるノア・グリニのぬくもりのある絵が、子どもたちの心に寄り添っていく。
成長する過程で、子ども自身が自分の中に感じる性のあり方を性自認という。絵本には、出生時に周囲の大人が判断した性別が、その後の本人の性自認と合っていたシスジェンダーの子どもも、出生時に判断された性別と性自認が違っていたトランスジェンダーの子どもも登場する。
性自認が男性である子どもも、女性である子どもも、どちらでもない子どもも登場する。そんな全ての子どもたちに「きみは、きみとして生きていけばいい」と優しく語りかける。大切な人が新しい命を授かったときに贈りたい絵本だ。
作中の登場人物のひとり、JJは「自分は男の子でも女の子でもない」と感じている。性自認が男女という枠に当てはまらない、幅広い性のあり方を「ノンバイナリー」という。JJは、同じくノンバイナリーであるアレックスや、トランスジェンダーの女の子ルーシー、シスジェンダーの男の子ザビエルと、広場に遊びに行く。
実は、絵をよく見ると、JJだけ車いすに乗っている。しかし、文章の中で、JJが歩けないことには全く触れていない。リュックを背負っているかどうか、犬を連れているかどうかと同様に、車いすかどうかは取るに足らない、些細(ささい)なこととして描かれている。
トイレより、遊ぶ方法で悩める社会に
おそらく現実世界ではそうはならない。車いすで広場に行くためには、その近くに車いすが入れるトイレがあるか、そこまで向かうためのバスがバリアフリーかどうかを確認する必要があり、車いすで広場に行く過程だけで物語ができてしまう。一方、トランスジェンダー当事者が出かけようとすると、男女どちらのトイレを使うかという、どうでもいい大論争が起こってしまう。
それは、車いすユーザーや、男女の枠に当てはまらない人たちの存在を無視して、この社会がつくられているからである。機能障害の有無や性別に関係なく使えるトイレが当たり前にあれば、どこのトイレを使うかなど、考えなくて済む。
トイレ問題よりも、「どうやって遊べば、もっと友達と仲良くなるか」という難題に、子どもたちが存分に挑戦できる社会になってほしい。(障害当事者)