【コラム・松永悠】ここ1年くらい、電車に乗れば必ずと言っていいくらい、外国人観光客の姿が目に入ります。コロナによる制限がなくなって、さらに円安も手伝って、来日する海外の方が急速に増えていると実感しているのは私だけじゃないはずです。
実は、病院の中でも同じように、コロナ禍前よりも外国人患者が増えています。観光と違って、病気の治療は一刻を争うものです。がんや難病と診断された中国人患者が、藁(わら)にもすがる思いで日本の病院に来ています。
日本の医療機関で中国人患者がどんな治療を受けているかというと、例えば先端医療である陽子線治療、重粒子治療、手術支援ロボットダヴィンチなどを使って行う高度な手術などです。どれも医療機器が最先端だったり、熟練な技が必須だったりするものばかりで、今の中国では同じレベルの治療が難しいのが現状です。
医療通訳という仕事柄、私は日頃から日本の医師と中国の患者に接していて、どちらの気持ちも感想も最前線で見て、感じています。たくさんの不安を抱えながら、日本の医師にていねいに診察・治療をしてもらって、元気になって帰っていく患者もいれば、なかなか見ないケースに奮闘して、一生懸命治療法を考える医師もいます。
私の父が内科の医師でしたので、小さい頃から父からいろんな病気の話を聞いて育ちました。医師というのは人の命を救うのがもちろん仕事ですが、医学への探究心から難病や難しいケースと出会ったとき、絶対助けてあげるという仁の心と、研究したい、経験を積みたいという気持ちもたくさんあると言います。
観光地が混む、マナーが悪いと言ったインバウンドビジネスに対するマイナス意見も出ている中、病院内まで外国人が入って来たら嫌だ!という声も聞こえてきます。正直に言うと、このような意見を耳にするとき、いつも複雑な気持ちになります。
外国人患者がありがたくなる日
医療通訳を介して診察するため、どうしても診療時間がかかってしまうのは事実です。そのため医師が通常通りの診察ができず、日本人患者に割り当てられる時間が減ってしまい、一定の影響があるのは否定できません。
しかし一方で、少子高齢化が進む今、今後、患者の数も減っていくと容易に想像できます。そうなると、病院の経営も厳しくなりますし、病例の数も減っていきます。若手の医師になかなかチャンスが回って来ず、件数をこなさないと上達できない検査や手術もいっぱいあります。そうなってしまうと、医療水準が低下してしまうリスクも出てくるのではないでしょうか。
ここで考え方を変えて、しっかり外国人患者の受け入れ体制を作って、医療通訳もたくさん養成すれば、人を救いながら医師も成長して、さらに病院の経営にも一役を担うと言う流れができたら、外国人患者はありがたい存在になる日も来るかもしれません。
少なくとも、私は養成講師として、これからも良い人材を見つけて、良い医療通訳を送り出したいと思っている今日この頃です。(医療通訳)
<参考> 医療通訳の相談は松永rencongkuan@icloud.comまで。