「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」
土浦市出身の作家、高野史緒(たかの・ふみお)さんの最新作で、土浦が舞台の青春SF小説「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」(ハヤカワ文庫)が、2月15日発行のSF読書ガイドブック「SFが読みたい!2024年版」(早川書房発行)国内編で第1位を獲得した。同書はSFファンの間で全国的に話題となり、聖地巡礼として小説に描かれた場所を訪れるファンもいるという。
同書は、別々の二つの世界に住む土浦二高の高校生、夏紀と、飛び級で大学に進学し量子コンピュータの開発に関わっている登志夫の男女2人が主人公。夏紀が生きる世界は、宇宙開発が進みながらもインターネットは実用化されたばかり、登志夫が暮らす世界は、宇宙開発は途上だが量子コンピュータの運用が実現した。二つの世界は関係を持ちながら物語が進む。
小説には、土浦市の亀城公園を始め、旧土浦市役所、料亭「霞月楼」のほか、現在は閉店した百貨店「小網屋」、ハンバーガー店「チャンプ」などが登場する。さらにつくば市のノバホール、筑波大学なども出てくる。
小説の題名になっている「グラーフ・ツェッペリン」は第2次世界大戦前の20世紀前半に世界一周を達成したドイツの巨大飛行船「ツェッペリン伯号」を指す。世界一周の途中の1929年、阿見町にあった霞ケ浦海軍航空隊に立ち寄り、当時は東京からも多くの見物客が訪れるなど大きな話題となった。
高野さんは1966年土浦市生まれ、90年に茨城大学人文学部人文学科を卒業し、地元出版社に勤務した。その後94年にお茶の水女子大学人文科学研究科修士課程を修了し、1995年「ムジカ・マキーナ」(新潮社)で作家デビューした。同書は「歴史改変SF」として高い評価を得ている。2012年には、ドストエフスキーの名作の続編という体裁をとった「カラマーゾフの妹」で第58回江戸川乱歩を受賞した。昨年のSFファンの祭り「日本SF大会」では、「カラマーゾフの兄妹 オリジナルバージョン」〈盛林堂ミステリアス文庫〉がセンス・オブ・ジェンダー賞の「SF初志貫徹賞」を受賞した。
高野さんの作品は海外を舞台としたものが多い。国内それも自身が青春時代までを過ごした土浦市を舞台にした作品は珍しい。
「SFが読みたいー」は早川書房が毎年2月に発行している読書案内で、国内外の年間SF作品のベスト30位までを発表している。順位は、SF小説界で活躍する作家、評論家、翻訳家83人が、2023年度の新作SF小説の中から、印象に残った作品を5点選び点数を付ける。高野さんの作品は231点を獲得し、1位となった。SFの通が、傑作と認めた形だ。2位は久永実木彦さんの「わたしたちの怪獣」で196点だった。
高野さんは「故郷土浦を舞台にした作品で1位になれて、こんなにうれしいことはない。うちは先祖代々高齢出産の家系なので祖父母がグラーフ・ツェッペリンを見ている世代。その時祖母は母を妊娠していた。そんなこともあって、ツェッペリンのことはいつも心にあり、いつか書いてみたいテーマだった。もう土浦を『聖地巡礼』して下さった読者も何人かいらっしゃる。これからももっと多くの方に読んでいただければうれしい」などとコメントした。(榎田智司)