【コラム・坂本栄】つくば市は洞峰公園の維持管理を県から押し付けられましたが、県立高校問題では県の施策にはまりました。本来は県が負担してしかるべき費用を市の予算案に盛り込んだからです。この半年の間に、市民は知事の巧みさと市長の拙さを相次いで目撃したことになります。
遠距離通学に年間3万円補助
つくば市は2月1日に発表した来年度予算案に、土浦市、牛久市、常総市、下妻市など、遠距離の高校に通う生徒にバスや鉄道の通学費用を補助する予算を挿入しました。1億6152万円を計上し、通学に年間10万円以上かかる生徒には3万円を補助するという内容です。
この善政について、市は「急増する市内在住の高校通学者数と市内立地の高校定員数との不均衡により生じる遠距離通学負担に対して、経済的負担の軽減を図る」と説明しています。簡単に言うと、市内の県立高不足のために市外の高校に通学しなければならない学生の持ち出しを少し軽くする施策です。
つくば市は、学生数と定員数の不均衡を解消する策として、市内に県立高を新設するよう県に要求してきました。しかし県は、県全体の少子化・人口減を理由に、県全体の傾向とは逆に人口が増えているつくば市での県立高新設にも消極的です。
そして、(A)市内にある既存県立高の学級増(高校経営予算の節約)、(B)近隣市の県立高への通学奨励(広域化による問題解決)―の2代替策で、高校新設を見送ろうとしています。
市長は新設実現を諦めたわけではないと言っていますが、遠距離通学補助によってTX沿線エリアに県立高を新設せよという声が弱まらないか心配です。
高校新設<既存高活用+広域通学圏
県の考え方(新設を渋る理由、代替策、高校教育の目玉)を整理すると、こういうことです。
▼少子化・人口減で県内の高校入学者は減っており、県立高は統合・廃止で減らす。
▼県全体の傾向とは逆のTX沿線についても県立高の新設は極力避ける。
▼これで生じる学生数と定員数の不均衡は既存高学級増と通学圏広域化で乗り切る。
▼上位の既存県立高については中高一貫併設によって学生のレベル・アップを図る。
県がこういった県立高経営の枠組みにこだわるのであれば、市が通学補助の窓口業務を代行するとしても、その費用は県に出してもらうべきです。県の仕掛け(B)に追随していると、県立高不足問題の解決は既存高学級増と通学圏広域化で進みます。
新設までの暫定措置として県ないし市が遠距離通学費を補助するにしても、年3万円では少な過ぎます。実際にかかる費用の3分の1以下ということですから。県に送る請求書は、少なくとも1億6152万円✕3=4億8456万円にする必要があるでしょう。
通学補助を大幅増⇒県に請求書送付
高校生徒数と定員数のミスマッチ解消は、人口が増えているTX沿線市の重要課題です。それなのに、県も市も目先の対策でごまかそうとしています。生徒に遠距離通学の時間的負担を強い、保護者には経済的負担を強いるのを放置し、微々たる通学補助金を出す「善政」で取り繕うとする市長も困ったものです。
市議会は来年度予算案を否決し、総額4億8456万円の修正案を出し直させ、県に同額の請求書を送らせる議案を決議すべきでしょう。研究学園市=高校過疎地では「世界に笑われるまち」TSUKUBAになってしまいます。(経済ジャーナリスト)
<参考>
▽記事「…市の新年度予算案 過去最大を…連続更新」(2024年2月1日掲載)
▽コラム139「上り坂の市と下り坂の県のおはなし」(2022年8月15日掲載)
▽コラム118「つくば学園都市は公立高の過疎地」(2021年10月18日掲載)