投票箱を積んだワゴン車が高齢者や障害者などの自宅前まで出向いて、住民に車内で模擬投票をしてもらう実証実験が23日から27日までの5日間、高齢化率が高い筑波山麓のつくば市筑波地区と臼井地区で実施されている。ワゴン車は実際の選挙で「移動期日前投票所」となる。市は今年秋の市長選・市議選で導入を目指している。
今回の実証実験は、内閣府の先端的サービスの開発・構築に関する調査事業に採択された。市は東京海上日動火災保険、KDDIなどと共に、今年秋の選挙での実現に向け技術的検証に取り組む。
26日は、同市臼井・六所地区区長の柳原敏明さん(68)の自宅前に移動投票車のワゴン車が来て、柳原さんは車内で模擬投票を行った。車内には投票箱が設置され、公職選挙法で定められた投票立会人については、1人が立ち会ったほか、分身ロボット「オリヒメ」が立会人に加わった。オリヒメは本投票所とつながっていて、カメラを通じて遠隔から投票の様子を見守る。また移動投票車は、車いすの障害者や高齢者が後方ドアから車内に入ることが可能なつくりになっている。
両地区住民には今月9日、封書が届き、模擬投票の参加者はそれぞれ、スマートフォンや電話で予約をしていた。①自宅まで移動投票車が来るサービスと➁自宅から移動投票所までの送迎するサービスと2つの実証実験が用意され、車が駐車できるスペースがある住民の自宅前にはワゴン車が出向いた。自宅前に車が停められない人には送迎車が準備され、送迎車を利用しての模擬投票も行われた。
柳原さんらの模擬投票に先立って26日は、記者向け説明会が実施された。五十嵐立青市長があいさつした後、市政策イノベーション部科学技術戦略課の前島吉亮課長が概略を説明。運営にあたるスパイラルの甲木空さん、KDDIの阿部英孝さんが詳細を説明した。国家戦略特区のスーパーシティを担当する内閣府地方創生推進事務局の菅原晋也参事官と、東京都荒川区の選挙管理委員会も視察に訪れていた。
市科学技術戦略課の前島課長は「スーパーサイエンスシティ構想の中に、インターネット投票というのがあり、本来はそれを目指したいが、まだ実現に至っていない。今回、住民サービスの一環として、誰一人取り残さない社会の実現を目指しており、市内でも人口減少が続き、高齢化率の高い筑波・臼井地区での実証を行うことになった」と話した。
模擬投票をした区長の柳原さんは「高齢化が進む地域なので新しい試みは歓迎したい。ただスマートフォンなど高齢者はあまり慣れていなかったりするので、参加の方法はもっと検討してもらいたい」と述べた。送迎車を使った模擬投票に参加した臼井地区の木村嘉一郎さん(94)は「選挙には家族に送迎してもらって行っていたが、自宅まで来てもらえればありがたい。秋の選挙には使えるようになれば良い」と語った。
同市は、2024年の市長選・市議選でインターネット投票を導入することを看板に掲げ、22年にスーパーシティに認定された。しかしネット投票に対しては、なりすましや強要などの課題が指摘される中、今年秋の選挙では実施できない。代わって市は、ネット投票導入につながるステップだと位置づけ、秋の選挙で移動期日前投票所を導入したい意向だ。これに対し公職選挙法を所管する総務省は、昨年7月の国家戦略特区ワーキンググループのヒヤリングで、今回の実証実験について「(ネット投票と)切り離して議論していく必要がある」という認識を示している。(榎田智司)