【コラム・先﨑千尋】米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐり、政府は昨年12月28日、工事の設計変更を沖縄県に代わって承認する「代執行」を行った。これは地方自治法に基づき国が代執行する初の事例。国交省が防衛相沖縄防衛局に承認書を渡す、即ち国が国の行為を認めるという異例の処置だ。
同局は今月12日にも軟弱地盤がある海域の工事に着手するが、工事が完了するのは早くても12年後。これに対して沖縄県は、代執行を認めた福岡高裁沖縄支部の判決を不服として最高裁に上告した。
この問題は、1996年に日米が、市街地にあり、「世界一危険な」普天間飛行場を返還し、辺野古沖に新たな飛行場を建設すると合意したことが起点だ。建設事業は2014年から始められ、予定地の南側は埋立てがほぼ完了した。しかし、北側の大浦湾の埋立て予定地が軟弱地盤であることが分かり、防衛相は沖縄県に工事の設計変更を求めてきた。
政府はこれまで、普天間飛行場の返還のためには「辺野古移設が唯一の解決」との姿勢を示し続け、実質上、県との対話を拒否し続けてきた。一方、同県では、この問題をめぐって建設阻止の声が強く、知事選では、阻止派の翁長、玉城を選び、県民投票でも「辺野古移設に反対」が7割を超えている。
代執行後の記者会見で、玉城知事は「代執行は、沖縄県の自主性および自立性を侵害し、多くの沖縄県民の民意に反する。民意こそ公益だ」と、反対の姿勢を続けることを表明した。
小指の痛みは身体全体の痛み
一般には「代執行」は耳慣れない言葉だ。代執行とは、自治体の仕事のうち、旅券発行や選挙管理など国から委ねられた法定受託事務の執行を怠ったり、法令に違反したりした場合に、国が代わって行うというもの。他に解決手段がなく、そのままにすると著しく公益を害するケースが対象になる。
今回の代執行は、2000年の地方自治法改正により「国と地方の関係は、上下・主従から対等・協力」になって、初めてのケースだ。「辺野古移設は国益」という政府と「建設阻止」という民意が、正面からぶつかっている。
見出しに使ったタイトルは、昨年12月29日の『茨城新聞』のもの。「国と自治体の関係は『対等・協力』とする地方分権の理念を揺るがす異例の事態」と書いている。『沖縄タイムス』は、同月26日の社説で「パンドラの箱があいた」と、代執行により対立と混迷が深まることを憂いている。
『毎日新聞』は「代執行という制度は、権利救済を求める一般私人が使うためのもので、国の機関が使うのはおかしい」と沖縄県の訴えを紹介したあと、「地方自治体がやることについて国が気に入らない時には代執行の手続を進め、裁判所は追認する。国と地方が対等という地方分権改革の意義はなくなってしまう」と、早稲田大の岡田正則教授の話を載せている(12月29日)。
「小指の痛みは身体全体の痛み」という言葉がある。今回の代執行は、沖縄だけのことではなく、私たちの身の回りのことにも影響が出るかもしれないことを示している。東京電力福島第1原発の汚染水の海洋放出でも、政府が被害を受ける漁民の反対を押し切って実施していることは、その一つだ。(元瓜連町長)