土曜日, 2月 7, 2026
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当事者学生はどう見るか【LGBT法、つくば市議アンケート】下

NEWSつくばがつくば市議に行ったLGBT理解増進法関連施策に関するアンケート調査の結果を当事者はどう見るのか。筑波大生の木原里沙さん、同大学院生の澤田彬良さん、黒原澪さん(活動名)に話を聞いた。木原さんは、自分を男女の枠では認識しない「ノンバイナリー」かつ、性的にひかれることに相手の性のあり方は関係ない「パンセクシュアル(全性愛者)」、澤田さんはゲイである。2人とも、大学内のサークルや所属組織で、LGBT当事者学生や友人が集まる居場所をつくっている。黒原さんもLGBT当事者だ。

ー全議員の回答を見た率直な感想は?

木原 SNSではLGBTに対するヘイトが広がっているけれど、今回、ほとんどの議員が新たな法整備や学校での取り組みが「必要」「どちらかといえば必要」と回答し、何人かの議員は、具体的な施策や取り組みまで書いていて、うれしい。

黒原 パートナーシップ制度と婚姻制度の差を埋める施策について書いている議員は、当事者の具体的な困難に寄り添おうとしてくれていると感じる。今回の調査に書いたことを全部やったら、つくば市が変わると思う。

澤田 川久保皆実議員が「理解増進法をもとに、取り組んでいく」と書いている。理解増進法を、何もできない言い訳にするのではなく、具体的な取り組みをするための根拠として使おうとしてくれている。

ー反対に残念な回答は?

木原 「専門家の意見を聞く」との意見があるけれど、現実に困っている当事者の声は聞こうとは思わないのかな。

澤田 専門家の中でも意見が異なるから、誰を専門家として呼ぶかに既に政治性が強く出ると思う。当事者からも意見を聞かないと、偏った意見になりかねない。

黒原 高校の探求学習の授業に参加したとき、毎回、ジェンダーをテーマに選ぶグループがいくつかあり、子どもたちは大人が思う以上に考えている。今の子どもたちの現状を捉えきれているのか疑問。特に、数人の議員が制服の選択制について触れているが、スカートかスラックスを制度的に選べるからいいのではなく、本来やるべきは、スカートを履きたい生徒が、何の葛藤もなく、自由に選べる状況をつくることだろう。

ー今回、10人の議員が無回答でした。

木原 無回答の人は、議員としての責任を果たしているのだろうか。

黒原 理解しようとしてくれている議員は、深い部分まで考えている一方、最初から回答しない議員がいるのは残念。今は地域によっても、市民や議員の意識に差があるが、国として理解を進める法律ができたので、今後、足並みはそろうと期待したい。

澤田 議員として市民の生活をよくするなら、つくばに住むLGBT当事者の市民のことも考えないといけないはず。「難しいから」と何も回答しないのは、LGBTを市民として見ていないのかと思い、悲しい。

無回答の議員は、ほとんど自民党だ。無回答の議員の中には、本当は個人の意見として書けることがあるのに、政党の方針だからと回答しない人もいるのではないか。どの党派にいても、人権は保障すべきもの。市議会は市民の生活に直接影響するのだから、政党としての意見ではなく、1人の議員として回答してほしい。

ー今回の意識調査は五頭泰誠議長のSNSへの投稿が契機になった。アンケート調査の中で五頭議長は「自分のSNSを読んでほしい」と書いている。五頭議長は昨年2月、自身のX(旧ツイッター)に「LGBTを声高に主張する人。胡散(うさん)臭い」と投稿し、数日後に削除した。5月には、ツイッター投稿に関する釈明文を自身のフェイスブックで公開。五頭議長が読んでほしいと書いたのは、そのフェイスブック上の投稿だと思われる。

黒原 大学院進学を機に引っ越してきたつくばで、様々な国の出身者が自分らしく暮らす様子を見て、今まで自分の何気ない発言で、無自覚に傷つけてしまった人もいるかもしれないと反省した。五頭議長は自分の見たいようにしかLGBTを見ておらず、もっと様々な視点を持ってほしい。

澤田 大学の授業や研究では、今まで自分が持ってきた思い込みを捨てて、新しい考え方を既存の考え方に融合する作業を日常的に行う。自分の主張を持つことは大切なことだが、その主張に検討の余地があるかもしれないと気づいたときは、自分と異なる意見も取り入れて、新しい考え方を自分の中でつくっていく覚悟を、市議の人たちにも持ってほしい。

「声高に主張する人」という表現

澤田 五頭議長は(Xで『胡散臭い』と言及したことに対する)釈明文の中で「『声高に主張する人』は、LGBTの皆さんを利用している人」としている。しかし、LGBT当事者の中にも、自分たちの権利を社会に強く訴える人もいれば、そうでない人もいる。議長は権利主張をしない当事者の存在は認めるけれど、権利主張をする当事者は認めない、としているように思える。実際、釈明文で、法整備に肯定的な当事者の声は執拗なまでに書かれていない。

またX投稿後、当事者から「あまり騒がないでほしい」などの声が寄せられたことを、議長は釈明文の中で、自分への支持として紹介している。しかし、LGBTに対する差別がまだ根強い社会の中で、自分の性を隠さないと生きていけない当事者もいる。LGBTが社会で注目されることで、自分の性が暴かれ、今の立場が脅かされると思っている当事者が「そっとしてほしい」と言っているのだとしたら、その意見は、つくば市が当事者にとって安全ではないことの裏返しであり、議長への支持ではない。

木原 「マイノリティーは声高に主張する」とよく言うけれど、マジョリティーは特に声を上げなくても、比較的安全に暮らせる。マイノリティーは声を上げないと、存在が可視化されないから、声が大きくなるのは当たり前。声高に主張しなければならない当事者の背景を想像してほしい。

性犯罪に結びつけられるトランスジェンダー

澤田 議長は、性自認を女性とする人が女性更衣室で性犯罪等を起こした海外の事件を参照し、法整備により女性や子どもまでが危険にさらされると主張するが、五頭議長も指摘するとおり、トランス女性にもいろいろな人がいる。具体的な海外の事例を挙げるなら、膨大にある事例のうち、どの事例を引用し、その事件の犯人が本当にトランス女性だったのか、トランス女性と偽って犯行に及んだのかまで明記してほしい。

木原 多くのトランス当事者は周囲の人を驚かせないかを気にしながら、トイレを使っている。その中で、疑われるような性別のトイレに堂々と入る当事者がそんなにいるのだろうか。

澤田 性犯罪はトランスジェンダーだけの問題ではなく、多数派とされるシスジェンダー、異性愛者を含む犯罪者の問題。トランスジェンダーの権利を保障しないことで、性犯罪がなくなるわけではない。トランスジェンダーと女性を対峙させるのではなく、トランスジェンダーの権利を保障するのと同時に、性犯罪の取り締まりを強化する議論が必要だろう。社会的な弱者同士を対立させ、どちらかの権利を奪うのではなく、どちらの権利も守るための議論をしてほしい。

黒原 これまでも、女性たちは性犯罪に悩まされてきて、声を上げてきた。その人たちの立場は忘れてはいけないと思う。

澤田 性犯罪はトランスジェンダーだけの問題ではないけれど、LGBTを含めた社会に生きる全ての人の問題だから、LGBT当事者も性犯罪の問題に無関心でいてはいけないと一方で思う。

LGBTを含めた全ての人が生きやすい社会とは

木原 五頭議長は意識調査の中で、「トイレなどは今のまままでよいかと」と回答しているが、トイレは毎日使うので、ストレスが蓄積される。私は男女の枠に当てはまらないノンバイナリーなので、多目的トイレを使う場合もあるが、多目的トイレしか使えない人の迷惑にならないか、心配になる。性別に関係なく使えるトイレが増えれば、生きやすくなる人も増えるし、その変化で悪影響を被る人はいないのでは。

黒原 公衆トイレ以外でも、仕組みを変えることで、当事者の負担を減らせることがあるはず。例えば、今はほとんどの公的書類に性別欄があるが、性別を聞かれることがしんどい人もいる。統計調査など性別の情報が必須の時以外は、性別表記をなくしても誰も困らないと思う。

ー五頭議長の投稿以外でも、現在、SNSではLGBTに対する批判的な発言が飛び交っている。どう感じる?

黒原 SNSでどんな情報が流れてくるかは、人によって変わる。私はSNSでLGBTに肯定的な投稿ばかりに反応するから、似たような投稿しか出てこない。反対に、批判的な投稿ばかり見る人は「みんな、LGBTを批判している」と思ってしまうだろう。

木原 議長の釈明文は、「LGBTを声高に主張する人は胡散臭い」ことを主張するために、X上のいろんな人の投稿をまとめたと感じる。議長の投稿が、攻撃的なことを発信する人たちの後ろ盾になってしまうのは怖い。

澤田 ここ数年、今までLGBTに興味のなかった人たちが、ニュースやSNSで批判的な情報やデマに触れることで、LGBTに批判的な発言をする学生が自分の周囲でも増えた。当事者学生として、大学を含む身近な社会が安全でなくなってきたと感じている。だからこそ、批判的な情報を流してきた人たちも、今度は当事者の生きづらさを解消するための議論をしてほしい。

(川端舞)

終わり

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