国立科学博物館(東京・上野、篠田謙一館長)の筑波研究施設(つくば市天久保)で10日、館長と副館長が直に収蔵庫を案内するバックヤードツアーが行われた。8月から11月にかけ実施されたクラウドファンディングの寄付に対するリターン(返礼品)の一つで、午前と午後の2回、合わせて10組20人が化石標本などのコレクションが収められた自然史標本棟の奥深くに足を踏み入れた。
化石世界最深部まで
同博物館の500万点以上に上る登録標本・資料数のほとんどを保管しているのが、つくば市の収蔵庫。2011年に完成し、科学技術週間などのオープンラボで一部が公開されているが、今回はこれらの機会でも見せたことのない化石世界の最深部に参加者を案内した。
古生物学が専門の真鍋真副館長がガイド役を務めたのは、恐竜化石標本を収蔵した収蔵庫。ロッカーの扉を開け、首長流のフタバスズキリュウやトリケラトプスの歯など骨格化石を取り出して見せ、肉食から草食に至る恐竜の進化のスタイルをたどった。ステゴサウルスの前肢、ボリューム感ある上腕骨の化石は触ることもできた。
同博物館は8月7日から11月5日に1億円を目標にクラウドファンディングを実施した。新型コロナの影響で入館料収入が落ち込む一方、光熱費の高騰などを受けて国内最大規模の動植物の標本や化石などのコレクションを収集・保管する資金が危機的な状況にある、として協力を呼びかけた。
すると初日にいきなり目標額を達成し、最終的には7万人以上から約9億2000万円を集める異例の展開になった。同館では複数のバックヤードツアー(寄付金5万円)を含む40種類以上のリターンを選定していたが、館長&副館長コースには定員を超す応募があり、今回を含む3日間計6回の開催に拡大して行われることになった。
静岡市の会社員、西雅彦さん(32)は小学生のころからの「科博ファン」。夏休みや企画展のたびに上京していたという。クラウドファンディングには初日早々に応募し、つくばには友人と連れ立ってやってきた。
横浜市からきた櫻井美涼さん(28)もクラウドファンディング初日の応募組、複数のメニューで応募した。「夫との初めてのデートが科博だった。それまでまったく関心のなかった科学にがぜん興味が湧いて、今日は夫をつくばまで連れてきた形。スペシャルなツアーにとても感激している」と語る。
つくば市の収蔵庫は空調など温度・湿度管理を厳格に行っており、光熱費の高騰は特に大きな痛手となっていた。その現状を見てもらえるバックヤードツアーの意義は大きい、と篠田館長は持続的な支援を呼びかけた。今回の支援金のうち、約3.2億円を間接経費(返礼品など)として支出し、約6億円を事業経費として活用していく中で、つくばの収蔵庫の増築も計画していくという。(相澤冬樹)