治水・利水で東京大都市圏の命脈となる一級河川、荒川の縮尺50分の1の模型がつくば市旭の国土技術政策総合研究所(国総研)の敷地内に出現し、6月から水を流しての本格的な実験がスタートした。
東京大都市圏守る「荒川第二・三調整池」整備へ
国総研の屋外にある河川模型実験施設で始まったのは、荒川第二・三調整池の水理模型実験。国交省関東地方整備局荒川調節池工事事務所(さいたま市)による。
東京湾の河口から約40キロ以上さかのぼる、さいたま・川越・上尾3市にまたがる中流域約10キロの河川部を延長200メートル、平均幅35メートルで模型化した。実験区域は7000平方メートルの広さがある。航空測量などに基づき、堤防や川底の高低差も50分の1スケールでモルタル施工により形成された。2022年のほぼ1年間をかけて整備された。
荒川中流域の左岸に続く河川敷は、国内きっての広さのあることで知られ、運動公園や農耕地などに幅広く利用されている。50分の1で35メートルの川幅は実尺では1750メートルに相当する。広さ15ヘクタールの同実験施設の中でも他を圧倒するスケール感がある。
この広さの特性を活かした調節池を整備することにより、特に人口や建物などが集中している埼玉県南部と東京都区間の荒川流域を洪水から守る事業が進められている。河道と河川敷の間に囲繞堤(いぎょうてい)を設け、増水時に水を河川敷側に越流させことで調節池機能を持たせようとする。
下流で接続する荒川第一調節池は2004年に完成、広さ約580ヘクタール、洪水調節容量は約3900万トンあり、2019年に東日本に甚大な被害をもたらした台風19号では約3500万トンの洪水を貯留し、下流の洪水氾濫の防止に役立った。第二・三調節池の整備により、荒川調節池群の洪水調節容量は約2.3倍の約9000万トンとなる。線状降水帯の発生などで近年多発する豪雨・洪水被害から荒川、東京大都市圏の治水安全度の向上が図られる。
模型で水理解析モデルの答え合わせ
上流の第三調節池側には支流の入間川が合流していて、合流地点から下った地点の囲繞堤の高さを下げる形で越流堤とする。合流地点では2河川の水位や水量の違いから澪筋(みおすじ)と呼ばれる水の勢いのある流れの変化がたどりにくく、越流堤では水量や流れ出る方向に応じて設けるプール(減勢工)の適切な設計などが技術的課題となる。
これらはコンピューターを使ったシミュレーションで水理解析モデルが出来ているが、模型で実地検証を行い、必要なら施工に反映させる。荒川調節地工事事務所によれば、第一調節池造成のころはコンピューターの性能から、模型に多くを頼ったが、今はコンピューターの精度が上がってきているという。
現在、実際には毎秒4000トンに相当する毎秒1トンの水を模型に流し、水位や水量と越流の方向を計測するなどしている。実験用の水は、国総研が雨水などを貯留した水を循環利用している。ほぼ1年をかけて模型実験を続け、来年度以降、越流堤の施工に取り掛かる。荒川現地では囲繞堤の造成が進んでおり、事業全体は2030年の完成を目指している。(相澤冬樹)