【コラム・浅井和幸】相談を受けていて、問題解決をしてはいけない時期があると感じる今日このごろです。相談に来られた悩める人が解決できると思う手法が、必ずしも解決にならないと感じることがあります。また短期的な解決が、中長期的な事態の悪化につながることもあります。
例えば、人間関係のトラブルで、嫌な相手に仕返しをすれば気持ちが収まり楽になる。例えば、ひきこもっている自分の人生がつらいのは親が自分を生んだせいだから、親に暴力をふるい賠償金を支払わせる。例えば、今の住まいが過ごしにくいところがあるから、とにかく急いで別の場所に引っ越す。
支援の中ではニーズをとらえることが大切だという言葉が飛び交います。ですが、仕返しをしたり、安易に住まいを変えたりすることが、さらなるトラブルや住みにくさを招くことがあります。強迫性障害を持つ方が、鍵が閉まっていることを確認すればするほど苦しくなっていく、アルコール依存症の人が、アルコールを飲めば飲むほどつらくなっていく―ことに似ています。
現状がつらいとき、人は隣の芝生が青く見えます。なので、今と違うところに行けば幸せになれる、少なくとも今よりも楽になれると考えるのです。
確かに、今の生きづらさは減ることは多いのですが、次の場所でさらに別の苦しさが待っている可能性もあります。さらには、今と同じ種類の生きづらさが、さらに上乗せされてしまうこともあります。静かな環境に引っ越したと思ったら、道路工事が始まってうるさいというように。
生活に好循環を起こす支援
物事は様々な要素がそろったときに起こります。一つの要因を取り除いても、総合的な物事が必ずしも自分の都合のよいように変化するとは限らないのです。支援者も、本人が言っているのだから、その言っていることだけ手伝って、その後は支援者には関係ないから言うとおりにしてしまえ、というのはあまりにもお粗末です。強い言葉でいえば、消極的な人権侵害ともいえるかもしれません。
マーケティング用語を使えば、それは「ニーズ」なのか「ウォンツ」なのかと言えるかもしれません。この用語はインターネットで調べてもらえると良いかなと思います。
支援者は被支援者に寄り添う必要はあります。しかし、辛さに直面している被支援者と全く同じ感覚になってしまうと、今だけ乗り切ればいいという安直な支援になってしまいます。
あまりにも辛いときは、休養も必要でしょう。緊急避難も必要です。しかし、長期的に見て生活が好循環を起こすにはどのような支援が必要なのかを考え、被支援者に伴奏できることが大切です。短期的な考えだけで問題解決をしてはいけないのです。(精神保健福祉士)