【コラム・斉藤裕之】日雇い先生の良さの一つは長い休みがあること。かといって特に計画があるわけでもないのだが、この春休みは、またパクを連れて山口に帰ろうと考えている。そこで気になるのが、このコラムの原稿のこと。気兼ねなく休みを満喫するために、前倒しで原稿を書いておくことにした。
さて、何のことについて書こうかと考えたが、これが出るころには桜の便りも聞かれて、私事としては信州千曲市での個展が半月後に迫っている。特に焦るわけでもなく、平熱で準備を進められているといいのだが、既に今の時点で、DM(個展案内のはがき)の原稿が出来上がってきた。この度お世話になるギャラリーのオーナーさんによるDMのテキストが、何とも私好みだったので抜粋してみたいと思う。
「牛久に音楽ライブを見に行って、併設のギャラリーの個展で一目惚(ほ)れしたのが斉藤裕之さんとの絵との出会い。優れた俳句のような絵っていうのかなあ。誰にでもありそうな親しみやすい日常に、すばやくさりげなくスポットをあててくれて、ハンパない画力が無駄なものを排して、小さなサイズに、十分な想像の余地のある世界というか、宇宙をつくってくれている。ふっと笑えるように、かろやかで楽しい。そして美しい。本展では長野や千曲市の風景も描いて…」
現代美術に関係したお仕事もされていた、オーナーの上沢かおりさん。故郷の千曲市に帰られて、一念発起。時間と手間をかけて、ご自宅を素敵なアートスペースに改装された。アートに対する深い造詣と美学をお持ちの上沢さん。美術に限らず、音楽やその他の表現の場として、また地域の交流の場としての役割も考えていらっしゃる。もちろん故郷への思いは特別なものだろう。
4月15日~5月1日、art cocoon みらい
そのオープン企画に抜てきされたことは、何とも光栄である。作家にとって、自分の作品を認めてもらうということは、この上ない喜びなのである。なにせ、日々ちまちまと描いてきた小さな絵だから。そんな私の絵を見つけてくれて、なおかつ、美術界特有の表現を一切排した上沢さん自身の、どストレートな言葉で作品について語っていただいたことに、平熱も上がり気味だ。
だから、ギャラリートークというものにあまり乗り気ではない私も、上沢さんとの掛け合いということを聞いて、二つ返事で引き受けることにした。
さて、当地は日本一の「あんずの里」として知られ、4月の上旬には雪をかぶった山々を背景に満開の花が咲き誇り、まさに桃源郷のごとき景色を楽しめるとのこと。ちょうどそのころ、こけら落としとして富田久留里さんの作品がギャラリーの壁を飾る。第2弾として私の個展「平熱日記in千曲」が4月15日から5月1日まで、千曲市の「art cocoon みらい」で開かれる。お忙しい方はネットでアクセスを! これも今の文化の在り方。(画家)