水曜日, 11月 4, 2026
ホームつくば居場所を求め続けた想い つくばから双葉へ 谷津田光治さん㊤【震災12年】

居場所を求め続けた想い つくばから双葉へ 谷津田光治さん㊤【震災12年】

つくば市並木の公務員宿舎に、福島県双葉町の役場機関である「双葉町役場つくば連絡所」がある。東日本大震災の後、2011年12月に設けられた。同町から避難した人々に向けて住民票などの申請手続きや、町からの連絡事項を伝えるとともに、避難者による自治会活動や地域との交流の拠点になるなど、避難生活を支えてきた場所だ。

福島県内外に避難する双葉町民が、つくばの公務員宿舎へ入居するきっかけを作り、連絡所の設置を進めたのが、元双葉町議の谷津田光治さん(81)。自身も双葉町で被災し、現在、妻の美保子さんと宿舎で生活している。震災から12年がたつ3月末、谷津田さんは宿舎を離れ、故郷に近い南相馬市へ転居する。つくばと双葉の人々を結びつけてきた谷津田さんにとって、12年の時間はどのようなものだったのか。

つくば、公務員宿舎へ入居する

「ここは、見渡すと樹木が多い。双葉の家も周りが山だったから違和感ないんです。なんとなく、双葉を思い出せるんですよ」谷津田さんが自室の窓越しに、敷地に繁るクヌギの木々に目を向ける。谷津田さんが暮らすつくば市並木の公務員宿舎には、以前は48世帯が入居していた。今はそれぞれ別の場所へ移るなどし、4世帯が生活をする。2022年3月の時点で、つくば市には437人の福島からの避難者が暮らしている。その中で双葉町の人々は、最も多い112人。

つくば市並木の国家公務員宿舎

双葉町は、福島第一原発事故による放射能汚染のため町全体に避難指示がだされ、全町民が避難生活を余儀なくされた。震災直後、1400人あまりが埼玉県に一時避難するなどし、先の見えない暮らしに不調をきたす人も多かった。そんな中、当時、町議を務める谷津田さんが耳にしたのが、つくばにある公務員宿舎のことだった。

「知り合いが、『茨城のつくばに空いている公務員宿舎がある。取り壊してるところもあるけど、まだ住めるところもあるから、見てきたらどう?』って言うもんで、見にきたら、びっくりするくらい部屋があったんですよ」つくば市には1970年代、筑波研究学園都市で働く研究所職員らに向けた公務員宿舎が約7800戸建てられた。その後、老朽化などを理由に、国は段階的に住宅の廃止を進めている。

「埼玉では、学校の教室に寝泊まりしていましたし、仮設住宅も長く暮らすには大変なんです。それが、つくばにこれだけまとまった家がある。多くの町民が1カ所で生活できるわけですよ。役場の事務作業だって少なくなる」

「みんながまとまって暮らすのが一番」と考えていた谷津田さんは、各地に避難する人たちに声をかけて下見に訪れ、役場とも交渉し、その後、2011年7月までに希望者の入居が始まった。

連絡所の設置

震災後、双葉町は、集団移住先の埼玉県加須市に役場機能を移転した。しかし、避難者は各地に散らばっていて必要な連絡が行き届かない。町は、避難者の多い場所に、支所や連絡所を置き事務機能を分担させていた。それを見た谷津田さんは「連絡所をつくばにも」と町に掛け合った。「情報があっちこっちすると、間違いが起きる。直接、連絡が来るのが一番だと思ったんです」

並木地区の公務員宿舎につくられた「双葉町役場つくば連絡所」

また、つくばには、生活に必要な支援物資が届いていなかった。「当時、支援物資は加須の役場に行かないと受けとれなかった。でも、個人で行ってもなかなかもらいにくいんです。みんな困ってるのは同じだけど、物をもらうっていうのは気が引けちゃう。だから、私らがライトバンで加須に行って、役場に話をつけて受け取ってきたんです。周りの人に『何かいるのあっかな?』って聞いてまわって。連絡所があれば支援の拠点になれる。そういう考えもありました」

妻の美保子さんは「これだけみんながバラバラになって、知らない土地で心細い中にいて、何かひとつだって町から届けば『見捨てられてない』って思えたんですよね」と連絡所ができたことで覚えた安心感を話す。

始めたグラウンドゴルフ

つくばでの新しい地域づくりが始まった。そこでは避難者同士だけではなく、つくば市民とのつながりも生まれた。

谷津田さんらは毎週火曜日、近所の公園でグラウンドゴルフを楽しんでいる。12年前から欠かさない、大切にしている交流の場だ。今では避難してきた人だけでなく、地域住民も参加している。終わった後のお茶会も楽しみとなっている。

運動の指導などを通じて避難者と交流し、学生にも交流の機会を設けてきた筑波大学名誉教授で体操コーチング論が専門の長谷川聖修さん(66)は「交流の場として、私たちにとっても貴重な場です」と話す。また長谷川さんの活動を通じて谷津田さんたちと知り合い、6年前から毎週グラウンドゴルフに参加している筑波大大学院の松浦稜さん(27)は「いつも楽しみにしてきました、ここに来ると、まるで実家にいるような気持ちになります」という。

グラウンドゴルフを楽しむ美保子さん(右)と参加者たち

グラウンドゴルフの始まりは、当事者同士の気遣いからだった。谷津田さんは「最初は、ばあちゃんの引きこもり防止だったんです。『あそこのじいちゃん、ばあちゃん、部屋から出てこないから』って。週に1回でも引っ張り出してっていうのがあったんです。何をやるにも、48世帯に声かけてやってました」と話す。

震災の月命日もそうだった。「みんなどこにも頼るところがないし、『月に1回、みんなで集まっか』って意識があった。その後も、年に1回、3月11日に慰霊祭を続けていました」

市内に借りた畑にもみんなで行った。「なんでも作りましたね。白菜からキャベツ、じゃがいも、里芋。収穫する時は、双葉の人、近所の人にも声かけて、弁当持って行ったんです。みんな喜んで、ピクニックみたいにね」

互いの様子を気遣いながら、共に暮らせる場所を作っていった。美保子さんは「つくばに来て、何もないところからの始まりだったんです。同じ双葉でもそれぞれ違うところに住んでいたので、双葉にいたら顔を合わせることもなかったかなって思います。その人たちが、ここで親しくなったんですよね。みなさん本当に親切にしてくれて。自分の家族のような人もできました」と振り返る。

今年3月末で、谷津田さんは、双葉町にほど近い南相馬市に建てた自宅に転居する。12年暮らしたつくばを離れる日が近づいている。つくばでの人とのつながりが、福島への転居をためらわせていたと美保子さんは言う。(㊦につづく、柴田大輔)

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