火曜日, 11月 4, 2025
ホーム教育多文化共生 みんなの居場所に【広がる子ども食堂】1

多文化共生 みんなの居場所に【広がる子ども食堂】1

子ども食堂の数が近年、顕著に増えている。開設支援や食材確保の仕組みづくりなどに取り組む茨城NPOセンター・コモンズ事務局長で、「子ども食堂サポートセンターいばらき」(水戸市)の大野覚さん(43)によると、県内の子ども食堂は、5年前は20~30カ所だったが、昨年末は約150カ所と5倍以上に増えた。生活困窮世帯の子どもだけに利用を限定している食堂はわずかで「全体の8~9割が『地域の誰もが利用できるみんなの居場所』として広く門戸を開いている」という。

地域の大人が1食200円を先払い

下妻市の中心市街地に、午前11時から午後8時まで平日は毎日開いている子ども食堂「お茶NOMA」がある。国籍を問わず幅広い年代の人たちが気軽に立ち寄れるたまり場を目指して、市民団体「しもつま外国人支援ネットワークTOMODACHI」(小笠原紀子代表)が昨年5月にオープンした。高校生以下の子どもは無料で食べられる。約2200人の外国人が暮らす同市の住民同士が国籍や言葉の違いを認め、支え合って暮らす多文化共生社会に向けて活動を続けている。

「お茶NOMA」は、イベントが盛んな中心市街地の「まちなか広場」に面するコミュニティスペース「かふぇまる」の一角で営業している。午後4時を過ぎると下校した子どもたちの「ただいまぁ」という元気な声が聞こえ、白いかっぽう着を着けたスタッフが「お帰りなさーい」と応えるアットホームな雰囲気だ。

メニューは、おかえり定食(1,000円)と下妻かあちゃんカレー(800円)の2種類。1食分の料金のうち、大人が子どもの食事代を先払いする仕組みで、200円が「未来チケット」という子どもの食事チケットに充当される。子どもはカウンター脇のボードに貼られたチケットを一枚取ってスタッフに渡し、惣菜付きのこどもプレートを受け取る。お腹いっぱい食べられるよう、ご飯はお代わり自由だ。「元気に大きくなってね」など、大人からのコメントが書き添えられた未来チケットは地域の大人たちからの心のバトンと小笠原さん(54)は話す。

運営を担うボランティアスタッフは、「手伝いたい」と名乗りを上げた若いママからシニア世代までの約30人。別のグループが交代で朝の仕込みを担当し、閉店後の片付けまでを家事の隙間時間を活用したスタッフたちが担当する。「スタッフの報酬は食事という現物支給ですが、上下関係や利害関係がないから気持ちよく活動してもらっている」と小笠原さんはいう。一緒に遊んだり宿題を見てくれる中高生のボランティアも、子どもにとって頼れる存在になっている。

食材は農家やJAなどから寄付されるものを多く利用している。メニューはスタッフたちが生活の知恵を生かし栄養バランスを考えて決める。食堂のお母さんをイメージしてそろえたスタッフのかっぽう着30着も寄贈された。

オープンから9カ月。テストなど学校行事で入店が少ない日もあるが利用者は定着し、平日5日間で100人以上の子どもが訪れている。そのうちの1割が外国籍の子どもだ。大人メニューの売れ行きも順調で未来チケットは常に数十枚をストックできている。

子ども食堂「お茶NOMA」を支えているボランティアスタッフたち。前列中央が小笠原紀子さん

スリランカ人と隣り合わせがきっかけ

代表を務める小笠原さんが在住外国人と関わるきっかけは10年以上前。常総市で居酒屋を営み、スリランカ人が経営するレストランと隣り合った。人柄にひかれて役所の手続きや通院など日常の困りごとの相談に乗るようになり、スリランカの公用語シンハラ語を覚えていった。その後同国の食品を扱う店を開いたが、新型コロナの影響で店を畳んだ。

自身が暮らす下妻で外国人支援を考えていた時に、同市在住で、ブラジルで子供を出産した経験がある保育士の松本絵美さんと、ボリビアで青年海外協力隊として活動した保健師の中山美由紀さんに出会った。2人は「現地の人に助けてもらった恩返しをしたいし、外国人が安心して暮らせるまちづくりを」と思っていた。多文化共生を目指す仲間との出会いが2年前に会を発足させ、小笠原さんが代表に就いた。

発足以来、下妻公民館で外国人相談窓口などの支援を続けているが、いつでも気軽に相談できて日本人と仲良くなれる居場所づくりが必要と考え、子ども食堂なら自分たちでもできると運営に乗り出した。

食堂には外国人の子どもたちのほか、夕食を独りで食べていたり、共働き家庭でお腹を空かせて待つ日本人の子どもたち、子育てや仕事に疲れたひとり親、お茶を飲むのにふらっと立ち寄る高齢者など、幅広い世代が集うようになった。スタッフは、「最初、外国人と接した時は戸惑ったが今は普通にしゃべれるようになった」と自然体で交流している。

「外国人も日本人も両方が気軽に来られる場所になった」という小笠原さん。さまざまな年代の子が、ボランティアの中高校生や大人と一緒に同じ時間を過ごす。自然に多様な人との関わりを学ぶことが多文化共生社会の実現につながるとした上で「伸びてきた芽を大事に育てていきたい」と小笠原さんは話す。(橋立多美)

続く

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