【コラム・先﨑千尋】今月初め、日立市立中里小中学校を訪ねた。この春に中里地区の小学校と中学校が一緒になり、新しい木造校舎で学ぶということを知り、是非この目で確かめてみたいと考えていたからだ。太平洋に面する日立市の中で同地区は、山を越えた飛び地のような位置にある。日立鉱山の公害を描いた新田次郎の小説『ある町の高い煙突』の舞台となった場所だ。
この小中学校は2011年に小中一貫教育に移行し、翌年に小規模特認校に指定された。この指定により、市内のどこに住んでいても入学、転入できるようになった。9年制になった今年からは義務教育学校になり、9年間を通した独自のカリキュラムを組むことが可能となった。コミュニケーション科(英語、ことば)を設け、9年かけて子どもたちのスピーチやディスカッションの能力を高める授業に取り組んでいる。
さらに、外部講師を呼んで、落語や能楽なども体験している。田植えや稲刈り、リンゴ栽培の手伝いなど、地域の人たちとともに実りを実感できる活動や、地域主催の行事にも参加している。
新しい校舎は山と清流に囲まれ、子どもたちは、森の木々の彩り、草木のざわめき、川のせせらぎ―など、四季の変化と豊かな自然を感じ取ることができる。敷地の南側を流れる里川に沿った円形の校舎は、風景と調和するようにすべて木造。1階には職員室のほか、多様な授業やランチルーム利用などの多目的に使える、マルチスペース「きららホール」や、校舎の中央にある昇降口付近に図書室を配置しているのが特徴だ。2階にある普通教室は、廊下との間仕切りがないためオープンな教室となり、多様な学習形態に対応できる。

同校では校長が対応してくれ、学校の特色やどのような授業を行っているのかなどをお聞きし、教室を案内してもらった。現在の生徒数は53人で、そのうち地元は13人。他は市内の他地区からスクールバスなどで通学している。わずか3人の学年もあり、1人1人がきめ細かな教育を受けることができる。廊下で会った子どもたちの目はキラキラ輝いていた。
学校は村の文化のシンボル
30年前、私は瓜連町長のとき、瓜連小学校の一部を木造で改築した。「日本は木と紙の文化の国」という岩國哲人出雲市長の言葉を聞き、山林資源の多いわが町、校舎を木造で建てたいと考えたからだ。文部省(当時)も、21世紀を担う子どもたちにうるおいとぬくもりのある教育環境をと、木造校舎の建設を奨励していたこともあった。
今では考えられないが、かつて学校は、村の文化のシンボルであり、村人の交流の場だった。寄付を募り、材料を出し合い、労力奉仕で子どもたちの未来のために学校を建てたのだった。
私が木造校舎を建てることを考えたときのコンセプトは、①学びとふれあいの場、②子供たちのふるさとになる愛される学校、③みんなのほこり、まちの顔になる学校―の3つだった。
今度、新装なった中里小中学校をわが目で見て、日立市の教育関係者や設計担当者も同じことを考えたのではないかと思いをはせた。同校の設計は瓜連小と同じ水戸市の三上建築事務所だった、というのも奇縁だ。(元瓜連町長)