つくば「ラスカル・ファニチャー・ファクトリー」
畑が広がるつくば市若栗の集落に、家具工場「ラスカル・ファニチャー・ファクトリー」を訪ねた。主の高橋伸治さん(50)は大学卒業後、華やかなアパレルの仕事に従事したが、ものづくりの世界に魅了されて家具職人に転身した経歴の持ち主。オーダーメード家具の製作から修理、リメークを行っている。
顧客がついて安定した経営に、影を落とすのが新型コロナ、家具のリメークの注文が増えたものの、木材価格の高騰に見舞われている。心身ともにタフな高橋さんは現状にめげず、独自の規格による定番商品を実現しようとしている。
工場は、かつて鉄骨造の牛舎だった。専門業者に依頼して壁を施工した工場はテニスコート2面分に相当する約500平方メートルの広さで、木材加工の大型機械10基が設置されている。
アパレルからの転身
高橋さんは秋田市生まれ。父親の仕事の関係で中学生の時から横浜で暮らした。大学卒業後、ファッションデザイナー、芦田淳(1930ー2018)が創業したアパレル会社に就職した。
転機は入社から1年半後。高品質の既製服作りに専念する芦田の姿が輝いて見え、思いを形にする「ものづくり」への願望が湧きあがった。少年期、わくわくしながら木箱や木製の小物入れを作ったことを思い出し、家具職人になる道に踏み出した。
最初に、埼玉県の飯能職業訓練校木工工芸科で基本的な木工技法や機械の操作技術を習得した。「中高時代はよく授業をサボったけど、訓練校の授業は楽しくて1日も欠席したことはなかった」と当時を懐かしむ。
その後、家具工房やアンティーク家具ショップなどで経験を積みながら修理と経営スキルを磨き、人脈もできた。独立資金をためて35歳で独立した。以来、注文に応じて打ち合わせからデザイン、製作、納品まで一貫して1人で行っている。
高橋さんの家具づくりのコンセプトは「使い手のライフスタイルに寄り添い、次世代に引き継がれるシンプルな家具」。家具をどう使いたいか希望を聞き取ってデザインを提案するという。また「変化する生活スタイルに対応できるよう余白をとって製作している」と話す。
木で作られていたら直せないものはない
日々向き合う木材については「触ると優しくて温かいが、鉄のように丈夫で手をかければ応えてくれる万能の材料。経年変化で風合いがでるのも魅力。木で作られていたら直せないものはない」。
新型コロナの流行をきっかけに、今ある家具を素材として新たな家具を作るリメークの相談が増えたという。外出自粛で「おうち時間」が増え、身の回りを見つめ直したことが要因では、と高橋さんはいう。ところが、コロナ禍をきっかけに「ウッドショック」と呼ばれる木材価格の高騰が起こり、家具製作にも影響を及ぼした。以前と同じ価格で製作するのが難しくなったそうだ。
家具職人は0.1ミリ単位の精密な作業を行うための集中力と手先の器用さが要求される一方、重い木材を運んだり長時間立ち続けるなどの体力も必要とされる。今年50歳になった高橋さんは精神的にも肉体的にもタフで、制作意欲に陰りは見えない。
「温めてきた計画を実行に移したい」と高橋さん。流行に左右されないテーブルや椅子など独自の定番商品作りで、そのために家具職人を増やし、オーダーメード家具製作との両立を目指すプランだという。「これからも長く人に寄り添い、どこか懐かしくて温かみのある家具を作っていきたい」と力強く語る。(橋立多美)
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