つくば市北郷の国土地理院が、2019年からウェブ地図「地理院地図」で公開している「自然災害伝承碑」の登録数が、今年8月時点で全国1500基に近づいている。東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、北海道胆振(いぶり)東部地震といった大地震、大津波、土砂災害、河川氾濫に対して、過去の知見を見直そうという各地域の人々の関心が高まってのことだ。9月1日の防災の日を前に、自然災害伝承碑の地図記号制定(19年3月)から3年の土浦、つくば地域の現在を取材した。
土浦、つくばは登録なし
茨城県内においては、10市で35基が登録・公開されている。桜川と霞ケ浦の氾濫の歴史を持つ土浦市や、小貝川、桜川といった一級河川の流域に面したつくば市でも、水害の経験伝承は行われているはずだが、現時点では自然災害伝承碑の登録がない。ただ、地理院への打診はなされており、今後登録される可能性がある。
自然災害伝承碑の概略は、国土地理院が公開を始めた直後にNEWSつくばでも紹介している(2019年6月20日付)。どのような仕組みで登録や公開がなされるのか、国土地理院応用地理部に聞いた。
「伝承碑の情報収集は全国の地方公共団体等の関係機関に協力していただき、それに該当する石碑、モニュメントについて、国土地理院が策定した『自然災害伝承碑に係る調査業務実施の手引き』に基づき市区町村より申請を行ってもらうプロセスをとっています。国土地理院と各市区町村は、それぞれの地域住民から伝承碑になりえるのかどうかの相談を受け、条件に合致すれば正式に申請へと動きます」
国土地理院応用地理部地理情報処理課の宮下妙香課長補佐は「すべてのスタートラインは、地域の人々による自然災害記憶の継承機運が高まるところから始まるのです」と付け加える。
自然災害伝承碑は、それ自体が過去に被災した人々が後世に向けて記録を遺すという機運によって、何かしらの形で碑文を刻んだもの。国や自治体の指示指導によるものではないという。この過去からのメッセージが活かされたケースもあれば、存在自体が知られていても関心が薄く再発した災害の犠牲になった事例もある。
国土地理院が、埋もれた碑文に自然災害伝承碑という新しい価値観を見出し、地図記号もその他の記念碑とは分けて新規デザインした目的は、自然災害の記憶を現代につなぐことで、教訓を踏まえた的確な防災行動による被害の軽減や将来の避難計画策定に役立てることにあり、情報のデータベース運用や提供にある。事実、全国レベルで見れば3年間で1500基近くの相談・申請・登録が行われており、先人の記録を活かそうとする動きは活発だ。
土浦、つくばでは現時点で伝承碑の登録がないことは想像していなかったが、宮下補佐は「現時点で伝承碑が掲載されていない地域では、市区町村から掲載希望の連絡を受け申請の手続きをしている場合や伝承碑として採用できるかどうかの条件を満たさない場合もありますし、可能性がある碑そのものが、さまざまな事情で立ち入り禁止とされている場所に眠っていることも考えられます。また、その石碑が何を記しているのかがわからなくなってしまっている場合もあると思われます」と説明する。
現代において、災害伝承は速報から始まるニュース情報と、それを記録したアーカイブという仕組みになり替わっている。あるいは地域の口伝で事足りていたのかもしれない。(鴨志田隆之)
続く