世界的な建築家、磯崎新さんによるポストモダン建築の代表作といわれるつくばセンタービル(つくば市吾妻)で、同市が南側の室内を改修し市民活動拠点を整備する工事が秋にも着手されるのを前に、市民団体「つくばセンター研究会」(冠木新市代表)が25日、室内意匠の保持と広場活性化に関する要望書を五十嵐立青市長と小久保貴史市議会議長宛てに提出した。
同会は昨年、同ビルのセンター広場にエスカレーターなどを設置する計画を見直すよう求める要望書を2回出しており、今回、3回目となる。市による市民活動拠点の実施設計が終わり、9月6日にも工事の入札が実施されることから要望書提出に至った。
要望書によると、室内意匠の保持について、秋から工事が始まる市民活動拠点の整備では、土浦学園線に面するつくばセンタービルの正面玄関の通路に、机やいすを約100席並べ中高生らの学習スペースにしようとしているが、この大通路は建築の顔であり、そこにおびただしい数の机やいすが並ぶのは場違いであり品位が疑われるなどとしている。
正面玄関の通路は、松見公園の展望台まで一直線に伸びる筑波研究学園都市の骨格を形成する都市軸としてつくられたとされ、磯崎さん自身が著書で「この軸線は、コンサートホールのエントランスに重なるが、ここも何ものでも受けずに、通り抜けさせる」(「建築のパフォーマンス」)と記している。
要望書はその上で、余裕あるノバホールのロビー空間でもあるのに机やいすが並べられれば、ノバホール1階のロビー空間は二度と活用できなくなるとしている。さらに1階の市民活動拠点室内について、壁で仕切られた部屋が大幅に増え、狭小な部屋が密集する設計となっており、文化的ゆとりがあった磯崎さんのオリジナルの空間からかけ離れ、公共空間に不可欠な空間的豊かさが無いなどと指摘している。室内に設置予定の机やいすの数からみて、当初想定の1日200人より多い300人以上が想定されており、玄関通路に机やいすを並べなくても足りるなどとしている。
広場の活性化に関しては、市がつくばセンタービルのリニューアルを2020年6月に公表した際、そもそもの目的としてセンター広場の活性化を謳っていたとし、センター広場でイベントを開催する際に荷物を搬入・搬出できるルートを確保するため、実施設計にある1階事務室などの壁の位置を1メートルほど変更するよう求めている。
さらに、市が筆頭株主の第3セクター、つくばまちなかデザイン(内山博文社長)が、1階東側を貸しオフィスやコワーキングスペース(共同仕事場)に改修した際、センター広場東側の出入口を閉鎖してしまったことから、市が同社に対し、東側出入口の開放を強く指導するよう求めた。要望書では、1階室内からセンター広場に行き来する7カ所の出入口のうち、2008年の筑波大芸術学系鵜沢研究室の調査で68%が東側出入口を利用していたこと、21年のつくばセンター研究会調査では58%が東側出入口を利用していたとして、一民間企業の独断で東側出入口が閉鎖されたことでセンター広場を自由に利用する市民の権利は大きく損なわれたとしている。
ほかに西側の既存のエレベーターについて、視認性を高めるため、磯崎さんの建築のオリジナリティーを損なわないで、外壁の一部を透明な壁に変更するよう求めている。
代表の冠木さんは「つくばセンタービルの40周年が来年に迫っており、会では、意匠を大切にセンタービルのイメージをアピールするイベントを計画しているので、室内の意匠も守ってほしい」と話している。
要望書提出に同席した、建築意匠に詳しい筑波大学の鵜沢隆名誉教授は「つくばセンター研究会の過去2回の要望書でエスカレーター新設などは無くなった。では室内は自由に変えて差し支えないのかというと、安易な改修をすると文化的価値を失うことにもなりかねない」と語っている。
南側の市民活動拠点は、今秋、室内改修工事に着工し、2024年4月に完成する予定。(鈴木宏子)