アルコール検知器を用いた酒気帯び確認に飲酒運転を防ぐ効果はなかった-とする研究論文が発表され、注目されている。筑波大学の市川政雄教授(医学医療系)らの研究グループは「事業用トラック運転者における呼気アルコール検査の義務化の飲酒運転事故への影響」を調べ、8月の日本疫学会誌に掲載された。
アルコール検知器による運転者の酒気帯び確認は2011年5月、旅客(バス、タクシー)・貨物(トラック)自動車運送業を対象に義務化された。1995年から2020年までに全国で発生したトラック運転者による交通事故のデータを調べると、2011年時点で飲酒運転事故の割合は0.19%になっていた。しかし、その後の10年間はずっと0.2%前後で推移し(グラフの黒丸)、アルコール検知器による酒気帯び確認の効果はなかったと推察できたという。
研究グループは、警察庁の交通事故データを管理する公益財団法人交通事故総合分析センターから入手したデータを分析した。バス・タクシー運転者では飲酒運転事故の割合そのものが低く、統計的な分析ができないため、今回はトラック運転者が起こした交通事故について調べた。
事業用トラックと自家用トラックの運転者それぞれについて、各年の飲酒運転事故の割合を計算し、その年次推移を分析した。事業用トラック運転者には酒気帯び確認が義務付けられており、自家用トラック運転者にはその義務がない。
統計的手法で年変化率を割り出すと、事業用トラックでは 2001年から12年までで13.5%減、自家用トラックでは2001年から11年までで14.9%減だった。2000年代初頭に行われた飲酒運転に対する厳罰化には大きな効果があった。
しかし、その後は減少傾向が続かず、事業用・自家用トラックとも、飲酒運転事故の割合は、いずれも大きく増減することなく推移していた。アルコール検知器による酒気帯び確認に効果があれば、事業用トラック運転者による飲酒運転事故の割合は下がるはずだが、下降は見られず、自家用トラック運転者との比較でも明確な差は認められなかった。
適用拡大にも合理的根拠なし
今年4月からは道交法の施行規則改正で、運送事業者以外のいわゆる「白ナンバー」の使用事業者の一部にもアルコールチェックが義務化され、10月からはアルコール検知器による酒気帯び確認が行われる予定だった。対象になった土浦市内の教育関係事業者は「アルコール検知器が品薄で延期になったと聞いた。機器自体はそう高いものではなく作業の負担が大して増すわけではない。統計的にあまり効果がないと言われても法律ならば従うしかない。事業者としては飲酒運転はなくしたいだけ」という。
市川教授は「アルコール検知器による酒気帯び確認はもとより、その適用拡大に合理的根拠はなさそう。交通政策の立案者には合理的根拠(エビデンス)に基づく政策の重要性について理解を深めてもらいたいと思う」としている。
飲酒運転を防ぐには別の対策を講じる必要があると市川教授。飲酒運転違反者に対して、呼気中に⼀定濃度のアルコールを検知するとエンジンがかからないアルコールインターロック装置の装備を義務付けている海外の例などをあげた。乗務の前後だけでなく、運転開始のたびに酒気帯び確認を行うことが有効であると報告されているという。(相澤冬樹)