【コラム・高橋恵一】マイナンバーカードを取得すると、2万円相当の「ポイント」が付与されるので、早く取得するようにと政府は躍起になっている。取得率の高い市町村には、地方交付税を増額するという。商品やサービスの販売促進のために、ポイント付与がまん延しているが、「おまけ商法」の色彩が濃くなってきているのではないか。
つまり、必要の無いものをおまけで釣って、売りつける商法であり、景品表示法で規制されている取引である。意地悪く言えば、価値のないもの、粗悪なサービスを、景品(ポイント)で目くらましをして、販売していることになる。
前にこのコラムで、高田保の「ブラリひょうたん」に出て来る「奈良の旅館・日吉館」の紹介をしたことがある。多くの古美術研究者が贔屓(ひいき)にしている旅館に、学生たちが「米」だけは背負って来たから安く泊めてくれと言ったら、宿の主人は「50円でよろしい。その代わり、他の客より1時間早起きをして、できるだけ沢山観て廻(まわ)りなさい」と応じたという話だ。
戦後の間もない時期だが、大赤字に違いない。古都の奈良美術を誇りとしている宿屋の気概が見えて、いかにも小気味よい。現代のポイント付与もこうあってほしい。
しょせん、IT関連業界の「もうけ」話?
マイナポイントは、国の重点政策遂行のための手段だろうが、現金に代わる「おまけ」で釣り、市町村を叱咤(しった)してまで推進する「マイナンバーカード」の取得は、古都奈良の美術ほどに貴重な制度で、美術学生に役立つほどに国民生活が便利になるのだろうか? そう国民に理解されているのだろうか?
今日も、政府(デジタル庁、総務省、厚生労働省)が新聞全面広告で、2万円分のマイナポイントがもらえるから、9月末までに申請するようにPRしている。しかし、マイナンバー制度の内容も、国民の具体的メリットも、政府のメリットも書かれてはいない。マイナンバーカードの具体的な取り扱い方もわからない。
常時携帯しなくてはいけないのか? 反対に、紛失したり、悪用されたりしないために、金庫などに保管しておかなくてはならないのか? オレオレ詐欺にあったらどうするのか?至近の報道では、「旧統一教会」が信者の資産状況を事細かに調べ上げているそうだが、個人情報が大量に流出してしまうことは無いのか? 中国では、同様の国のデータから10億人分が流出し、取り引きされているという話もあるが、大丈夫なのか?
先の全国民への10万円給付の際、マイナンバーカードで申請すれば、早くもらえるという触れ込みだったが、マイナンバーと住民基本台帳がリンクされておらず、世帯員の扱いが手作業になってしまって、紙申請より給付が遅れてしまった。要するに、システムの準備が出来ていないのだ。大丈夫なのか?
マイナンバー制度に限らず、日本のデジタル化、IT化は、世界に後れを取っているといわれるが、大きな要因に、国の制度、政府の所管するシステムなのに、制度設計から維持管理まで、外部委託してしまっているからではないのか? しょせん、IT関連業界の「もうけ」になってしまうのではないか?
このような、国の中枢を担う制度の設計と管理は、政府が自ら責任を持って、細部まで練り上げることが必須だ。(地図好きの土浦人)