一昨年来のコロナ禍で東京から茨城に移る人が増え、つくば市の住宅需給は「バブル」状態と知り、県南を中心に不動産業を展開している一誠商事の五十嵐徹社長にその実態を聞いた。予想通り、今6月期決算は売り上げ・利益とも過去最高になり、売上高は初めて100億円(グループ4社合計)を突破するという。コロナは飲食業や観光業にはマイナス要因だったが、TX沿線の不動産業にはプラスに働いたようだ。
改修戸建てを相場以上の5000万円で販売
インタビューでは、好収益の背景にある数字を2つ例示してくれた。不動産ビジネスの柱ともいえる賃貸と売買に関する数字だ。
「コロナ特需」によって、コロナ前は10%だった賃貸アパートやマンションの空室率が、今期(2021年7月~2022年6月)は7%に下がったという。一誠が管理する部屋数は2万4000室あるから、空室率が3%ポイント改善すると、賃貸料が入る部屋が700室強増え、一誠の手数料収入がその分増える。
競売で落とした、地元相場では2千万円台の中古平屋(つくば市内、敷地330平方メートル、ガレージ付き建物150平方メートル)をリフォーム。5000万円で売りに出したところ、東京の会社員が飛び付いた。在宅の仕事が増え、つくば市への移住を考えていたこの人、それでも東京に比べ安い住宅に感激。「ああ安!」と言ったそうだ。
空室が埋まり、相場が強い背景について「TXに乗れば、つくばから東京まで1時間そこそこ。テレワークが進み、通勤時間や距離など住宅選びのこれまでの基準が、コロナで変わった。住まい選びで、プライベートで過ごす時間の優先順位が高くなり、自然環境や教育環境が好感されていることも大きい」と語る。
1億7千万円の駅前マンションも大人気
「バブル」は賃貸室や戸建てだけでない。つくば駅近くの旧西武裏手に建設中の分譲マンションは「即完売だったそうだ。最上階=広さ140平方メートル、バルコニー100平方メートル=は1億7000万円で売れ、それも10本以上の申し込みがあったと聞く」。その隣りに建設中のマンションの第Ⅰ期販売も即完売だったという。
つくば駅周辺の公務員宿舎跡の開発はこれから本格化する。人気マンションの買い手は、自分の居住用だけでなく、貸して家賃を稼ぐ投資用が20~30%。そういった空き室の借り手探しや、売りに出た部屋の買い手探しが増えると、地元物件に強い一誠の売買仲介の仕事も増えそうだ。
TX駅周辺には住宅用の土地がない
つくばの住宅「バブル」の背景は、強い買い(需要増)だけでなく、物件の不足(供給減)にもある。「住宅用地もめちゃくちゃ売れており、最近、不動産業者が顔を合わせると、『売り物、何か出た?』が合い言葉になっている」。宅地が極端な供給不足になっているからだ。
TX沿線の土地は県あるいはUR都市整備が開発。それを住宅メーカーなどが払い下げてもらい、宅地用に分譲してきた。ところが、「駅周辺の分譲はほぼ終わり、区画整理区域に宅地がない」。コロナが収まり需要が落ち着いても、宅地不足は簡単に解決されそうにない。公務員宿舎跡の順次放出はあるものの、静かな「バブル」はまだ続きそうだ。
【いがらし・とおる】1975年、土浦市生まれ。県立土浦一高、法政大経済学部各卒。2003年、父が1979年に創業した一誠商事に入社。2011年から代表取締役。現在、(公社)土浦法人会・つくば地区青年部会長。つくば市在住。本社はつくば市竹園、グループ従業員は320人。
【インタビュー後記】営業店は県南10店+水戸1店。1年前、千代田区岩本町に東京支店を開設。都内や千葉に賃貸・売却用のビルを建設中。住宅の賃貸・売買を主とする「まちの不動産店チェーン」から、住宅のほかビル・工場・倉庫も扱う首都圏の「総合不動産会社」に変わりつつある。アグレッシブな2代目社長の話を聞くと、地域の不動産事情がよく分かる。(経済ジャーナリスト・坂本栄)