月曜日, 9月 15, 2025
ホームコラム常陸小田氏の土浦市展示に事実誤認あり 《ひょうたんの眼》47

常陸小田氏の土浦市展示に事実誤認あり 《ひょうたんの眼》47

【コラム・高橋恵一】今、土浦市立博物館で特別展「八田知家と名門常陸小田氏」が開催されている。5月8日まで。現つくば市内に城を構えた小田氏の祖・八田知家(はった・ともいえ)が大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の1人であることからも、注目されている。

八田知家の「筑後改姓」は誤り

特別展の説明では、「知家は、『八田』から『筑後』に名乗りを改め、その後、子孫は『小田』を名乗るようになります」とされている。これは、土浦市史(1975年刊)中の「八田知家が、『筑後守』任官を受けて苗字を『筑後』に改めた」という記述を受け継いでいるようだ。

土浦市史では改姓の論拠を、①吾妻鑑(あずまかかみ)に知家の子たちが「筑後六郎知尚」のように記されている、②知家が寄進したと伝わる梵鐘の銘に「筑後入道尊念」とある―などと書かれている。

鎌倉幕府が編纂した史書・吾妻鑑における人名の表記は、「苗字・官位(これがない場合は太郎などの通称)・実名」で記述され、高位の者は、苗字や通称を省略して官職で表記している(官職名で個人が特定できるからだ)。いずれも、筆者が人名表記のルールを踏まえて記述したものであり、本人が官職を苗字として名乗っていたわけではない。

鎌倉武士の本懐(ほんかい)は、本貫(ほんがん)の地を苗字として名乗ることであり、世襲でもない職名を苗字とすることはない。

知家の場合も、任官後は「筑後」「筑後入道(出家後)」と記述されており、知家の子息については「筑後守の子息」という意味で、苗字を略し、親の官職名『筑後』のあとに通称が記されているとするのが、一般的な読解である。例えば、「…13人」の中心人物、北条義時の場合、任官後は相模守や相州と記され、嫡子の北条泰時は相模太郎と記されている。

つまり、土浦市史の「筑後改姓」は吾妻鑑の誤読といえる。ちなみに、八田氏が筑後氏に改姓したといった記述は、土浦市史およびそれを根拠とする関連書の他には見当たらない。

引き継がれる市史記述の間違い

市史刊行時、郷土史の愛好者らは誤りに気付いたものの、専門家が編纂に加わった市史なので指摘するのを遠慮したのではないか。また、市史に「筑後改姓」の誤りはあるものの、知家が小田の地を本拠とし、小田一族が発展した流れに影響することはないので、いずれ修正されるであろうと放置されたのではないか。

しかし、誤った「筑後改姓」を受け継いで、八田(小田)氏は小田に本拠を置けず、4代時知(ときとも)まで小田氏を名乗らなかったとし、その本拠地を小鶴荘(現茨城町から笠間市辺り)や陸奥国(現東北地方)に求めるなど、「筑後改姓」先入観の下に研究が進められた。また、周辺の市町村史や出版物・展示なども、土浦市史の誤った記述に影響されることになった。

こういったことを踏まえ、特別展示の説明内容を訂正すべきではないか。誤読から派生している他の展示内容も直すべきだ。

知家と小田氏の評価に違和感

特別展では、知家を「下野武士…」「八田氏、常陸国へ入り込む」などと、出自のはっきりしない「よそ者」が、頼朝のご機嫌を取りながら、常陸大掾(ひたちのだいじょう)・多気義幹(たけ・よしもと)をだまして失脚させた、下妻広元(しもつま・ひろもと)や阿野全成(あの・ぜんじょう)を殺害した、常陸国での権益を獲得した―などと説明している。

この種の企画は、地元の主人公を引き立て、地元のイメージアップを図るのが普通である。ところが、今回の展示では、知家や小田氏をマイナーに脚色していないだろうか。

知家は、宇都宮神領(うつのみやじんりょう、現在の栃木県中南部・東部)を領した「八田宗綱(むねつな)」の子で、保元の乱では親子で源義朝に従って戦いに参じ、乱の後は京御所で北面の武士を勤めた。血縁の近い、小山氏、宇都宮氏、八田(小田)氏は連携し、初期から鎌倉幕府を支える一大勢力として存在していた。

知家が頼朝の信任を得られたのは、京都での所作や軍団運営に詳しく、神社や仏事にも通じていたからであろう。奥州合戦での捕虜扱いや朝廷使者の接遇などは、知家に任せていたことが、吾妻鑑に記されている。

15代・氏治は人気の戦国武将

小田氏は、有力御家人の大半が北条氏に排除される中、鎌倉末期まで常陸守護を務め、戦国末期まで同じ地方で勢力を保ち続けた。戦国武将「オタク」の間では、人気ベスト10の中に15代の小田氏治(うじはる)が入るそうだ。負けても奪われてもめげず、小田城を取り戻そうとするしぶとさが好評という。

氏治は結城氏に保護されて天寿を全うする。結城秀康(ゆうき・ひでやす)と小田氏治の娘の間の4男直基(なおもと)が結城松平氏として分家し、幕末は前橋藩17万石になる。氏治の娘の子孫が大名家の当主となっていたのだ。しぶとい御屋形様(おやかたさま)・小田氏治の面目躍如だ。(地図と歴史が好きな土浦人)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

11 コメント

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

11 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

TX県内延伸 3期目知事の作戦《吾妻カガミ》210

【コラム・坂本栄】9月7日の県知事選挙で大井川和彦氏が当選し、大井川県政は3期目に入りました。私はこの欄でTX(つくばエクスプレス)の茨城空港延伸(常磐線土浦駅経由)の必要性を度々取り上げてきましたが、空港延伸につながる土浦延伸が国の鉄道敷設計画にセットされるよう、3期目の知事が政治力を発揮することを期待しています。 主体性に欠ける運行会社 今夏開業20年を迎えたTXを運行しているのは首都圏新都市鉄道(渡辺良社長)です。7月31日に開かれた「TX長期ビジョン2050」発表記者会見(同日付記事参照)で土浦延伸について質問された渡辺社長は、県の延伸構想についてはコメントする立場にないと、その是非判断を避けました。沿線自治体を主な株主とする同社には鉄道敷設といった大型投資を決定する力がないようです。 これは土浦延伸に限ったことではありません。茨城、千葉、埼玉県、東京都の沿線自治体で構成される期成同盟会から要望が出ている東京駅延伸についても、①その経済・社会効果については外部に委託して調査してもらう②仮に東京駅延伸が決まっても自社が整備主体・運行主体になるのかどうか分からない―と、他人事のようなコメントでした。 同社の株主は、茨城県(18.05%)、東京都(17.65%)、千葉県(7.06%)、足立区(7.06%)、つくば市(6.68%)、埼玉県(5.88%)、台東区(5.3%)、柏市(5.3%)、流山市(5.3%)、千代田区(2.65%)が上位10ですから、主要株主に対しいろいろな配慮があるようです。 2028年が決着の正念場 土浦延伸に向けた大井川知事の作戦は明確です。新都市鉄道には筆頭株主として働きかけるにとどめ、鉄道政策を所管する国土交通省の交通政策審議会が「東京駅延伸+東京湾延伸」を決める場で、土浦延伸も決めてもらう同時決着のアプローチです。これであれば土浦延伸の費用も沿線自治体に分担してもらえるので、茨城県の負担は少なくて済みます。 この双方向延伸を実現させるには高度な政治工作が必要です。一つは、東京駅延伸で熱くなっているTX沿線自治体と国に土浦延伸の利点も理解してもらうこと。もう一つは、当初計画では守谷止まりだったTXをつくばまで強引に引っ張ってきた竹内藤男知事(就任期間は1975~1993)が「さらに延ばす場合、その費用は茨城県で持つ」旨の念書を1都2県の知事に渡しているため(つくば延伸を渋々認めさせる策)、これを白紙に戻す必要があります。 こういった工作が不調に終わった場合、茨城単独では負担が重すぎる土浦延伸は机上の構想で終わるでしょう。TX東京駅・湾岸延伸を決める国の交通政策審は2028年に開かれる予定と聞いていますから、大井川知事の3期目後半が土浦延伸決着の正念場になります。 改めて空港延伸も議論 面白いのは、茨城空港を利用する観光客と仕事客が今後大きく増加するとのリポート「茨城空港将来ビジョンー首都圏第3空港を目指して」を県が7月に発表、同空港の機能充実や施設拡大の必要性を打ち出したことです。 このリポートには「県が推進するつくばエクスプレス県内延伸構想に関しては、土浦延伸実現後、空港を取り巻く総合的な状況の変化などを見極めた上で、改めて茨城空港延伸について議論することにしていることから、同構想の進捗を注視しながら、将来における空港アクセスの充実について検討していく」と書かれています。 仮にTX土浦延伸が国交省の諮問機関で決まっても、完成はそれから10年ぐらい先になります。さらに茨城空港まで延伸するとしても、20年ぐらい先になります。大井川知事が何期やるか分かりませんが、故・竹内知事の5期途中辞職(1993年)からTX開業(2005年)まで12年かかったことを思い起こすと、交通インフラ整備とはそういった時間軸で進むものです。(経済ジャーナリスト) TX延伸関係コラム 青字部を押すと読めます。▽203=知事の県政報告(3月3日掲載)▽162=空港延伸も議論(23年7月18日掲載)▽155=土浦延伸を決定(23年4月17日掲載)▽147=延伸先に4候補(22年12月19日掲載)▽136=狭視野つくば市(22年7月4日掲載)

つくばエリアを広げても県立高は不足《竹林亭日乗》32

【コラム・片岡英明】つくばの高校問題は先の茨城県知事選挙でも争点になった。受験生・保護者にとって、つくば市の県立高不足は明白なのだが、県教育委員会は独自の考え方で対応しているため、議論はかみ合わず、私たちの声が届いていない。 県は2024年10月、「県立高等学校の今後の募集学級数・募集定員の見込みを試算」で2つの試算を発表。試算2で「中学校卒業者の増加がみられるつくばエリアの状況」として、つくばエリアの生徒増を取り上げた。今回はこのエリアの県立高は「足りているか否か」について対話を深めるため、県の試算2について考えてみたい。 過不足を論じる3つのアプローチ つくばの県立高の過不足を論じる3つの方法としては、以下の3つのアプローチがある。 ①収容率法(私たちの方法):県立高の県平均収容率68.2%を目標に、2024年の不足学級数と2030年までの不足学級数を算出。 ②入学見込み法(県の2019年改革プランや2024年試算の方法):2024年時点での不足は考えず、今後の生徒増減に注目し、これに各高校の市町村からの入学率を掛け、2024~2030年の入学見込み数を算出。当然、県立高が少ないつくばエリア地元高校への入学率は低くなる。 ③エリア拡大法(試算2の方法):2024年時点での不足は考えず、つくばエリアに土浦・牛久・下妻の3市を加え、拡大つくばエリアを設定。その入学見込みを算出して、高校定員の過不足を論じる。 これらで計算すると、①現在14学級不足+2030年までに7学級不足⇒計21学級不足、②現在は検討せず+2030年までに3学級不足⇒計3学級不足、③現在は検討せず+拡大エリア定員内に収まる⇒定員増必要なし-となる。 これらの方法による結論は大きく異なる。特に、③はつくばエリアの現在の14学級不足を考慮しないだけでなく、生徒が減少する土浦・牛久・下妻を拡大つくばエリアに加えて生徒増を圧縮。これに低い入学率を掛け、強引に定員増必要なしの結論に導いている。 「拡大つくば」でも14学級不足 そこで議論がかみ合うよう、試算2の拡大つくばエリアを①の収容率法で分析した。2024年のつくばエリアの収容率は県平均の68.2%に対し54.7%と低いが、土浦・牛久・下妻を加えた拡大つくばエリアでは60.0%に向上する。しかし、68.2%の県平均以下で学級不足であり、不足数は2024年つくばエリアと同じ14学級になる。 これは土浦・牛久・下妻3市の合計平均の収容率が68.5%と県平均に近いためで、つくばエリアと拡大つくばエリアの県平均への必要学級数は変わらない。さらに、定員の多い土浦を除いた第7エリアでも新たに2~3学級の学級不足が発生する。 ③の発想は、エリアを基本に募集定員を考えてきた改革プランのバランスを崩したようだ。県は、「エリアを基本に生徒数に応じた定員」を原則にして、つくばエリアの現状に向き合い、受験生・保護者の要望に応えてほしい。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会代表)

ウッディキャロット&モモコハウス《ご飯は世界を救う》69

【コラム・川浪せつ子】つくばの元市役所近くの住宅街にある「ウッディキャロット&モモコハウス」さん(つくば市谷田部)は、女性に人気のレストランです。創業は1981年と古く、オーナーさんは変わっている人とか。前々から行きたかったのですが、女友達を誘ってやっと実現しました。 お店の雰囲気は、「ピンクハウス」(東京都目黒のファッションブランド)や「下妻物語」(下妻市のロリータファッションが好きな女子高生の映画)の世界感。ドアを開けたとたん、別世界です。11時ごろ行きましたが、どうにか座れました。 お店のスタッフさんは、かわい過ぎました。フリルいっぱいの洋服に、お帽子っぽいのは「ヘッドドレス」と、ロリータファッション。結婚式に花嫁さんが頭につけるようなものですね。ベールはついてないけど、お人形さんのようです。 「これ全部食べるの、無理~!」 レモンバターのハンバーグをオーダー。メニュー見ただけでも、すごいボリューム。パンはクルミパンをセレクト。友人のご飯はハートの形になっていました。絵を描きたかったので、見栄えするようにケーキも注文。友人は「これ全部食べるの、無理~!」とのことで、1個頼んで2人で食べました。  初めに出てきた飲み物は、ベリーベリーソーダ。それも大きな「金魚鉢」入り! 中には、タピオカ?がたくさん入っていました。ケーキのときは紅茶がよかったのですが、この金魚鉢が見たかったので…。 実は5月に行ったのですが、今月9月のテレビの人気番組で紹介されていました。駅前で、タクシー運転手さんに人気のお店に連れて行ってもらう企画です。つくば駅からより、みどりの駅からの方が近いかなぁ。いずれにしても、つくば周辺のステキなお店は、車がないと行けないところが多いですね。 番組では、「どこから来ましたか?」との取材に、「埼玉県です」「千葉からです」というお客様に、ビックリ。テレビに出て、ますます混み合っているでしょうね。予約できるそうですから、女性ばかりでなく、男性の方でも体験してみてくださいね。ちなみに、このお店を紹介した運転手さんは、男性でした。(イラストレーター)

「透明人間じゃない」学校での付き添い 母たちによるトークイベント

20日 つくば 障害のある子どもが学校に通うとき、保護者に「付き添い」が求められることがある。役割は、学校生活に必要な介助。しかし実際には「待つだけ」の時間が長く、孤独や虚しさに押しつぶされることもあるという。 つくば市で20日、学校での「付き添い」を経験した保護者らによるトークイベント「『透明人間』になった私たちのお話」(つくば自立生活センターほにゃら主催)が開かれる。登壇するのは、写真集「透明人間 Invisible Mom(インビジブル・マム」を出版した都内在住の写真家、山本美里さん、つくば市内の小学校に通う娘を育てる堀玲さん、医療的ケア児の親の会「かけはしねっと」代表理事で市内に住む根本希美子さん。3人それぞれが障害のある子の保護者として孤独や葛藤に向き合ってきた。 教室の後ろで座り続けた 「学校での役目は、子どものトイレと階段の上り下り、それから物が落ちた時に拾うこと。それ以外は、教室の後ろで座っているだけだった」と堀さんは言う。 堀さんの長女は市内の学校に通う小学5年生。脳性まひによる障害から日常生活に車いすが欠かせない。幼稚園では、障害児を支える「加配」の先生が付き、堀さんは送り迎えをするだけだった。多くの友達に恵まれ、多目的トイレを1人で利用できるようになるなど、日々できることが増えていく娘の姿に「親の方が励まされた」と振り返る。だからこそ、「小学校も、地域の学校で」との思いは強かった。 しかし、入学要件として求められたのは「保護者による付き添い」だった。学校には「加配」に代わる「特別支援教育支援員」が各学校に配置されるが、当時、入学予定の学校では支援学級の児童が優先されていた。自身でノートをとったり、友人とコミュニケーションをとることができる娘は、普通学級で学んだため支援員の対象から外れた。「付き添い」は堀さんにとって辛い日々の始まりだった。6、7時間、会話を交わすこともなく、朝から下校時間まで椅子に座り続けた。 「体はガチガチに硬くなるし、それ以上に心が沈んでいく。周りに迷惑をかけないよう気を張っていたけれど、何もしないまま時間だけが過ぎていく虚しさに、どうしても耐えられなくなった。ただただ悲しかった」と話す。 学校と保護者が話し合える関係を 娘が2年生に進級したある日の授業中、無意識に涙が流れ出し止まらなくなった。3年生になるころには重度のうつ病と診断され、「すぐに学校に行くのをやめて夫に代わってもらい、休んでください」と医師から告げられた。 「明日こそ頑張ろうと思うと夜眠れなくなり、朝が来ると、学校に行くのが嫌で嫌でたまらなかった。起き上がることもできなくなった。親の私が登校拒否になってしまった」 市に掛け合い、学校の体制も変化し状況が好転する。学校がこれまでの対応を謝罪し、支援員の増員を決定。さらに階段に昇降機がついたり、トイレが多目的用に改修されたりし、付き添い時間も徐々に減っていき、現在は登下校の送迎のみとなっている。 「子どもが幸せに学校で過ごせるように、学校が、保護者と一緒に考える場所であってほしい。『これに困ってるんですが、どうすればできますかね?』と、遠慮せず話し合える関係を築いていきたい」と堀さんは言う。 求められた「存在を消すこと」 2023年に刊行された写真集「透明人間 Invisible Mom」。そこに写るのは写真家・山本美里さん自身だ。今年3月に亡くなった三男 瑞樹さんが通った特別支援学校に付き添った自身の日々を可視化した。 瑞樹さんは、生後間もなく先天性サイトメガロウイルス感染症と診断され、たん吸引や人工呼吸器を必要とした。入学した特別支援学校には看護師がいたが、当時、瑞樹さんが緊急時に使用する手動の人工呼吸器具「アンビューバッグ」は保護者しか学校で扱うことが認められなかったため、毎日学校に待機せざるを得なかった。「使用するのは年に一度あるかないか。いつあるかわからない緊急連絡をただ待つために、一日中、誰もいない部屋に待機していました」。学校で求められたのは「存在を消すこと」だったという。修学旅行には自費で付き添いながら、記録写真には写らないよう求められ、給食は出ないので弁当を持参した。つらい状況を変えようと、学校や教育委員会に相談するも、変化はない。次第に追い詰められて、適応障害を患った。 その中で始めたのが写真だった。通信制の大学に入り、卒業制作として取り組んだのが『透明人間』だ。教員や校長も被写体として巻き込みながら「付き添い」の現実を可視化した。 学校と保護者は一つのチーム 「本来、学校と保護者は一つのチームであるべき。お互いに話を聞き合って、歩み寄って、ウィンウィンの関係でいられることが大事。先生方が作品に参加してくださったことで、『この状況を一緒に変えられるかもしれない』と感じられたのは、大きな救いだった」と振り返る。 写真集にしたのは「障害のある子の親は外出すら難しい。本にすれば、必要な人に家の中で見てもらえる」からだ。読者からは「これは私の話かと思った」「自分だけじゃなかった」との声が寄せられた。「医療的ケア児の親は少ないし、付き添っている親も少ない。障害によって状況も異なる。周りに似た状況の人がいないと、不満を抱くのは私がおかしいんじゃないか? みんな受け入れてるのにできないのは私の問題なんじゃないか?などと考えてしまう。本音も言えずにいる人は多い。だから『透明人間』を見て、自分の思いを言葉にしてもいいんだと思ってもらえたらうれしい。そういう橋渡しをするのが今の私の役目なんじゃないかなと思っている」と話す。(柴田大輔) ◆トークイベント「『透明人間』になった私たちのお話」は、9月20日(土)午後1時から午後3時30分まで、つくば市研究学園のつくば市役所コミュニティ棟で開催。定員60人、手話通訳あり。参加申し込みは専用サイトへ。申込締め切りは15日(月)。会場では、山本さんによる写真展「透明人間 Invisible Mom」の写真展も開かれる。展示は同会場で午後6時まで。問合せは、「つくば自立生活センターほにゃら」電話:029-859-0590、ファックス:029-859-0594、メール:cil-tsukuba@cronos.ocn.ne.jpへ。