つくば市の産業技術総合研究所(産総研、石村和彦理事長)の地下室金庫に保管されているキログラム原器が重要文化財に指定される。文化庁の文化審議会文化財分科会(島谷弘幸会長)が15日、文科大臣に産総研所有のキログラム原器と関連の原器類を、重要文化財「メートル条約並度量衡(どりょうこう)法関係原器」に追加指定することを答申した。
1kgの重さ130年間伝える
質量の単位「キログラム(kg)」は、メートル法にもとづく最も基本的な単位の一つ。この定義のために、メートル条約の理事機関であるパリの国際度量衡委員会は、1キログラムの具体的な質量を定める「国際キログラム原器」を1880年代に製作した。白金90%、イリジウム10%の合金でできている。日本にはNo. 6と番号付けされた原器が割り当てられ、1890(明治23)年に到着している。
以来、明治、大正、昭和、平成、令和の5つの時代にわたり約130年間、質量の基準としての役割を担い、日本の近代化および産業発展に貢献した。戦時下の1944(昭和19)年には、空襲から逃れるため、東京・銀座の中央度量衡検定所から石岡市の中央気象台柿岡地磁気観測所(現在の気象庁地磁気観測所)に疎開させるなど、原器は先人たちの英知とたゆまぬ努力によって受け継がれてきた。
それでも物体の形では質量の変動が避けられないため、キログラムの定義は2019年、普遍的な物理定数「プランク定数」にもとづく定義に改定された。産総研の研究チームも参加する、国際プロジェクトによる改定作業だった。これにより国際キログラム原器としての役割を終えたが、お役ご免ではない。引き続き、非常に優秀な分銅(ふんどう)として、我が国の質量標準の維持・管理に役割を果たすことになった。
現在も1キログラムの分銅は、温度変化や空気中のほこりなどの影響を受けないように、二重のガラス容器に収められ、産総研計量標準普及センターが地下金庫で厳重に管理している。工学計測標準研究部門質量標準研究グループの倉本直樹グループ長は「先人から受け継いで大事に守ってきたもので、(重要文化財)指定は大変にうれしい」と語っている。当面一般公開の予定はないという。
今回、2019年のキログラム定義改定に伴うキログラム原器の役割変更をうけ、キログラム原器、キログラム副原器、貫原器および1889年に国際度量衡局が発行したキログラム原器に関する校正証明書についても、その歴史上および学術上の価値が評価され、「メートル条約並度量衡法関係原器」に追加指定されることになった。
メートル原器は2012年に重要文化財指定されている。県教育庁によれば、これまでに国指定文化財は県内に132件(国宝など含む)、つくば市内に8件を数えるが、産総研が所有する両原器ともこれに含まれていない。(相澤冬樹)