木曜日, 12月 11, 2025
ホームスポーツ五輪スイス選手団をコロナ禍サポート 筑波大生たちの「熱い夏」

五輪スイス選手団をコロナ禍サポート 筑波大生たちの「熱い夏」

東京オリンピックを共に戦った筑波大生の「熱い夏」が終わった。事前合宿からスイス選手団のサポートに当たった学生スタッフたちだ。新型コロナの感染対策からソーシャルディスタンス以上の距離を保ちながら、選手とのコミュニケーションを取り続けた。スタッフの一人は「競技に出たい人、サポートをする人がいて初めて実現されたオリンピックであることを身をもって実感した」と振り返った。

「精力善用」「自他共栄」の理念で

筑波大学では7月14日から8月2日の約3週間、オリンピックに出場するスイス選手団の事前合宿のサポートをしてきた。受け入れた競技は、マウンテンバイク、柔道、陸上競技。指導者やトレーナー含めて約50人が筑波大学を訪れ、学生のサポートを受けながら、五輪本番前の最終調整を行った。

スイス柔道チームは、女子52キロ級と男子73キロ級の選手各1人と監督、トレーナー含め、計10人が7月に来日。当初は学生が練習相手を務める想定だったが、新型コロナ感染防止対策から「受け」と呼ばれる稽古相手も一緒に来日していた。大学武道館内の道場や学内ループ、中央体育館のトレーニングジムで汗を流した。

大学側のサポートスタッフは、オリンピック・パラリンピック推進室の職員を中心に学生を加えた計13人だった。7月14日から1週間にわたって、毎日5人ほどで交代しながらサポートを務めた。大学柔道部からは、石本結菜さん(19)とアマンダ・コスタ・ドレッザさん(29)ら3人がスタッフとして選ばれた。感染防止対策でスイス選手団とは常に2メートル以内には近づかず、必ずマスクを着用しなければならなかったが、最低限のコミュニケーションをとる必要から、ドイツ語や英語を話せるスタッフとして加わった。

スイス選手団をサポートしたアマンダさん(左)と石本さん=筑波大学武道館

柔道場には、柔道の父、嘉納治五郎の肖像が唱えた理念「精力善用」「自他共栄」の額と共に掲げられている。大学の前身である高等師範学校の校長で、アジアで初の国際オリンピック委員会委員も務めた。この理念がコロナ禍のサポートにも通じる心得になった。

主なサポートは、道場などの練習場所の消毒と掃除。柔道場ではスイスチームの使用前後に1時間ずつ掃除をした。選手団らが通行可能な道や使用可能なトイレなども限られていたため、道案内なども行った。

選手の飲み物は、基本的にホテルで用意されたものを持ってくるようにしていたが、足りない時などは選手からお金をもらいスタッフが武道館内の自販機に買い出しにいくこともあった。選手たちが飲むスポーツドリンクには好みがあり、一度に3本頼まれたこともあったそうだ。

選手団は毎日、スタッフはサポートの頻度によって毎日から週に1回、PCR検査を行っての事前合宿となった。石本さんによると、そのような厳重な感染対策を講じながらのサポートを受けた選手団の中には、「安心して練習できた一方で、もっと日本の人と交流したかった」ともらす選手もいたそうだ。

きめ細やかなサポートへの感謝の気持ちを表すかのように、選手らはスタッフに対して距離を保ちながらも気さくに話しかけてくれただけではなく、サインまで快くしてくれたそうだ。筑波大での柔道チームの最後の練習日には、道場で集合写真を撮り、スイス選手団からは大学での最終日に、スタッフ全員に傘がプレゼントされた。

アマンダさんは「スタッフに選ばれたときはうれしい反面、不安もあったが、柔道という同じスポーツを通してオリンピック選手やほかのスタッフと関わることができ、将来に活きるいい経験になった」と話した。(武田唯希)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

3 コメント

3 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

11年ぶりのお色直し つくばエキスポセンター H2ロケット

つくば駅前の中央公園に隣接するつくばエキスポセンター(同市吾妻)で、同センターのシンボルであるH2ロケットの全面塗装工事が始まった。ロケットは実物大模型で高さは約50メートル。11月25日から足場の組み立てが進められており、来年3月30日に完了する予定だ。底辺部から先端部分まで全面的にお色直しする。1990年の設置以来、ほぼ10年ごとに塗り替えを行っており、今回は2014年以来11年ぶりとなる。 エキスポセンターは、1985年に開かれた「科学万博つくば’ 85」の第2会場として建てられ、万博閉幕翌年の1986年に科学館として再オープンした。当時、世界最大だったプラネタリウムをはじめ、万博関連資料が展示されているほか、最先端の科学技術をわかりやすく紹介している。 今回、お色直しされるH2ロケットの模型は、初の純国産大型ロケットして1994年に1号機が打ち上げられた「H2」を模したもの。1989年の横浜博覧会で展示された模型を1990年6月にエキスポセンター屋外展示場に移設した。以来、つくば市中心地区のシンボルとして、長く市民に親しまれている。 今回の塗り替えについて、エキスポセンターを運営するつくば科学万博記念財団広報の小堀安奈さんは「2014年の塗装後、塗装落ちなどが見られたため調査を行った結果、全面塗装を行うことになった。色やデザインの変更はない。来春には塗装を終え足場を取りはずしますので、市民の皆様にはぜひ完成を楽しみにお待ちいただければ」と語った。 作業の進ちょくは、つくばエキスポセンターのホームページなどで知らせる予定だ。(柴田大輔)

原因は強い太陽フレア 低速自動運転車の接触事故 つくば市

乗客を乗せてつくば市が実証実験を実施していた低速自動運転モビリティ(車両)が11月12日、つくば駅周辺でスロープの手すりに接触する事故を起こし運行を中止している問題で(11月13日付)、同市は10日、接触事故の原因について、事故当日に発生した強い太陽フレアによる通信障害により、GPSを受信して車両の位置などを測定する衛星測位精度が低下し、車両の位置情報の誤差が大きくなったことと、強い太陽フレアの発生などに備えた車両側面の範囲を検知する接近センサーの不備が原因と考えられると発表した。 市科学技術戦略課は今後の対策として、①強い太陽フレアが発生した場合に備えて車両側面の接近センサーを追加搭載し最適化する ②運行ルートに応じて安全を確保するために設けるゆとりの範囲を見直す ③衛星測位精度が低下した際はさらに低速で運転したり停止するなど車両の動き方を見直すーなどを実施した上で、13日から16日の4日間、乗客を乗せないで、実証実験のルートと同じつくば駅前からつくばカピオ前まで、公道のペデストリアンデッキで試験走行を実施するとした。 試験走行では①車両側面の範囲を検知する接近センサーの搭載台数と配置の最適化、②障害物接近時における減速や停止など車両挙動の確認などを検証する。 接触事故は、低速自動運転モビリティが、同市竹園1丁目のイベントホール、つくばカピオの敷地内に設置されているスロープを時速3キロで走行し方向転換した際、スロープの手すりに接触する事故を起こした。事故時、運転手と一般の乗客2人の計3人が乗車していた。 当初計画では来年1月15日から26日にも一般市民を乗せて実証実験を実施する予定で、同課は、13日~16日の試験走行の検証結果をみて、運行を再開するか否か検討したいとし、「原因究明結果を真摯に受け止め、再発防止に努めると共に、今回の調査で得られた知見と経験を今後の事業運営に反映し安全な運行の確立に取り組んいく」としている。

どう発信しどう対処? 一部誤情報と共にSNSで拡散 中学校の不審者情報

つくば つくば市内の中学校が作成した不審者情報が、一部誤情報と共にSNSに投稿され拡散した。教育委員会事務局の同市教育局は、保護者の間に不安を引き起こしているなどとして不審者情報を一部修正し再度、保護者に通知した。SNS時代に、どう発信し、どのように対処すべきなのだろうか。 不審者情報は、11月5日、同市内で、女子中学生が自転車で登校途中、年齢20~30代くらいの外国人風の男性3人が乗る車が停車しているのを確認、そのうち2人が降りてきて女子中学生に近寄り、車が自転車に横付けされたが、近くを通りがかった人が中学生に声を掛け、男性らは車に乗ってその場を立ち去ったーなどの内容。この情報は、スマートフォンアプリを使ったデジタル連絡ツールで翌6日、周辺の各学校から保護者に文字情報で伝えられた。 同月18日、今回の不審者情報が匿名でSNSに投稿された。「誘拐未遂事件が発生」と一部事実でない投稿文が書かれ、中学校が作成した「不審者情報連絡票」の画像が添えられた。連絡票は、学校や市教育局など関係部署間でやりとりするための内部文書だった。連絡票に書かれた情報は、6日に保護者に伝えられた文字情報と同じ。 外国人差別のコメントも SNSでは「外国人による女子中学生誘拐未遂事件」という誤情報の形で拡散した。投稿に対し、外国人に対する差別や偏見とみられるコメントも書き込まれた。SNSでの拡散後、市教育局には保護者や市民から数件、問い合わせがあった。 こうした事態を受けて同市教育局学び推進課は2日後の20日付で、今回の不審者情報の正確な経緯と児童生徒の安全確保の対応について、改めて保護者に通知した。SNSで拡散された内容の一部に誤りがあること、保護者の間に不安を引き起こしていることを「深く憂慮している」と表明した上で、連絡票に書かれた不審者情報の表現が「いろいろな捉え方をされてしまっている」として、表現を一部修正した。 修正箇所は、連絡票の不審者情報が男性3人を「外国籍」と断定していたのに対し、「外国人風」と修正した。男性らが車で立ち去った経緯を連絡票は「車に乗って逃げ、(生徒は)事なきを得た」と表現していたが「車に乗ってその場を去った。生徒は無事だった」に改めた。 同課の小野尚文 学校教育政策監はSNSで拡散した不審者情報連絡票の画像について「内容自体は外に出してもいい情報だが、公文書なので画像になって拡散されたことはまずい。問題意識をもっている」とし「各学校に公文書の扱いについてもう一度指導を徹底したい」としている。内部資料の画像をだれがどこで撮影し投稿したかは分からないという。 学校が不審者情報を発信する必要性については「不審者情報の発信は子どもの安全を守るためで、二次被害を防ぎ、近隣の学校にも注意喚起するため連絡は迅速に行わなければならない」とし「学校や家庭で、知らない人から声を掛けられるなどがあったら、小さい子なら防犯ブザーを鳴らしたり110番の家に駆け込むといった対応方法を教え、子どもが危ない目に遭わない、安全な行動をとれるような指導につなげている」とした。 保護者「怖い気持ちはある」 今回の不審者情報を学校からのデジタル連絡ツールで確認したという市内に住む高校1年と小学6年の姉妹の母親(39)は「まず、怖いと思った」と語り、SNS上で事実と異なる「外国人による女子中学生誘拐未遂事件」として拡散されていることについて「すべての外国人が悪いわけではないので、よくないこと」と言う一方「実際に外国人風の男性に子どもが声を掛けられることはあるので、怖い気持ちはある」と語った。 受け取る側も冷静に 筑波大 秋山助教 今回の問題について、国籍や移民問題、国際社会などをテーマに研究する筑波大学人文社会系の秋山肇助教に話を聞いた。 公文書の画像が拡散を担保 ―外国人風男性の不審者情報がSNSで投稿されたことについてどう思われますか。 秋山 まず大きな問題点として、最初の「不審者情報連絡票」の画像がどういうプロセスで外部に出たかということがある。そもそも内部文書がSNSにアップされたこと自体が問題だ。SNSに「誘拐未遂事件発生」と投稿されたが、「不審者情報連絡票」とされる画像からは事実と確認できないにもかかわらず、「誘拐未遂事件」がSNS上で独り歩きするのを担保してしまったのが、公文書である連絡票だったと思う。 投稿者の文字情報だけだったら『これって本当?』って思う人がいたかもしれない。連絡票の中身を読めば誘拐未遂事件でないことはわかるはずだが、画像の文章まで読まない人もいる。SNSの投稿文だけを読んで「誘拐未遂事件が起きた」と受け取ってしまう人もいる。 そのため「不審者情報連絡票」とされる画像が投稿されることで、外国人による女子中学生誘拐未遂事件が起きたという話が独り歩きしてしまった。尾びれ背びれが付いて、本当に起きているのか分からないことがSNSで広がる怖さはある。 2点目として、つくば市教育局が一部表現を変えて11月20日に保護者宛に二度目の発信をしたことについては、市教育局が、SNSで拡散した内容の一部に誤解を生む表現があったとして「連絡票」に書かれた不審者情報の表現を書き直している。SNSで投稿されている「連絡票」には「外国籍の男性」と書かれているが、本当に外国籍なのかどうかは、本来パスポートなどを確認しなければわからないため正確ではないと思われる。ただ、その場で緊急で不審者情報を聞き取って内部文書を書く場合は、内容が必ずしも正確でないこともある。しかし保護者などの外部に情報を出す時、内部文書と同じ記載で良かったのかというのがもう一つの論点としてあると思う。 人は負の感情に強く反応 ―SNSの投稿に対するコメントで、「外国人が怖い」といったコメントがありました。外国人差別ではないでしょうか。 秋山 子どもを守る立場にある子育て世代などが、心配事が生じた時に「外国人」に不安を覚えるのは仕方のない一面もあるだろう。子育てをしている状況では、子どもは弱い存在だという前提があるので、親からすると子どもを守らないといけない。子育てをしている状況は余裕がない状況ともいえる。人はリスクがあることから逃げたいもの。子どもを守らないといけないと考える親からすると、外国人にリスクがあると考えたら近づかないというのは、本人にとっては合理的ともいえる。「怖い人」は本来、日本人にも外国人にもいるが、「外国人が怖い」と思っている人に、それが外国人差別だと伝えても理解されるのは難しいかもしれない。しかし社会全体への影響を考えると望ましくないだろう。 人は負の感情に強く反応し、「怖い」という気持ちに強く反応してしまうことも認識しておくことが大切だ。「外国人が怖い」というネガティブな感情がある人に「差別すべきではない」といった「べき論」は効果的とはいえない。強い負の感情が拡散しやすいのはSNSの特徴でもある。 ―では「外国人が怖い」という人にはどう対応すればいいのしょうか。 秋山 次の論点になるのは、子どもたちを守るために何が必要なのかということ。外国人でも怖いことをする人はいるが、日本人であっても怖いことをする人はいる。ただ、どういう人が怖いことをするかは現実的に明らかにするのは困難なので、「外国人が怖い」というラベルを貼るのは、恐怖から逃れようとすると合理的かもしれない。そんな中で、外国人が怖いと思っている人に「差別だ」と言ってしまうと、こうした人たちは恐怖からの逃げ場がなくなってしまう。ただ「外国人が怖い」という言葉の「外国人」には、犯罪を犯さない外国人も含まれている。それでいいのか、きちんと考える必要がある。 ではどうすればいいのかということになるが、情報を出す側が誤解のない情報を提供すること、情報を受け取る側が情報をうのみにせずにその正確性を考えることが大切だ。情報を受け取る側は、外国人かどうかに限らず、「怖い」という情報には尾びれ背びれが付くことがあると認識した上で、情報に接する際は「本当は違うかもしれない」という視点を持つことが必要だ。だから、情報を出す側も慎重であるべきだが、受け取る側も、これはどういう情報なのか、冷静に考えなくてはいけない。(伊藤悦子)

武器を持たない勇気と知恵《ハチドリ暮らし》56

【コラム・山口京子】11月中旬、利根町役場のホールで「平和のつどい利根」講演会が開かれました。講師はイスラエル生まれの元空軍兵士で、現在は埼玉県で家具作家をしているダニー・ネフセタイさん。テーマは「武器を持たない勇気と知恵」でした。 イスラエルには徴兵制度があり、高校卒業後、男性は3年間、女性は2年間、兵役に就くそうです。「軍隊がなければ周りの国から攻撃され、生きていけないと思い込まされ、軍隊はすばらしいという価値観を自然に身に付ける。自分もそのように思っていたが、退役後、アジアを旅して日本で暮らすようになり、考えが変わっていった」とのことでした。 そして、「過去のゆがみに縛られるより、今からどうしていくのか、共に生きるのか、共に死ぬのか。共に生きるには、武器を持たない勇気と知恵が求められる」と。 ダニーさんは、戦闘機に乗った若き自分の写真をパワーポイントで映しながら、「これを見てどう感じますか? カッコイイと思う人いますか?」と尋ねます。そして、「戦闘機はある目的のためにだけ優れている。それは物を破壊し、人を殺すこと。その目的って、カッコイイことなのか?」。 「テロは武力では止められない。武力を行使すれば、さらなる憎しみが生まれる。武力によって生まれるのはさらなる武力。憎しみによって生まれるのは憎しみでしかない。戦争は最大の人権侵害であり、環境破壊でもある」 武器が商品に、戦争が商売に 日本の防衛費は年間8兆8000億円。この額を、365日、1日、1時間、1秒に換算すると、1日241億円、1時間10億円。とんでもない金額です。その出所は国民の税金。軍事費に使われるほど生活にしわ寄せが来ます。 ダニーさんは14年前、「原発とめよう秩父人」を立ち上げ、反戦や反原発を訴える講演を各地で行っているそうです。「‘敵’概念はヒトのDNAにはない後天的産物であり、話し合いで解決できないという思い込みは、捨てないといけない。‘敵’とは国が設定するものであり、あおりや脅かしに振り回されないで、お互い、よく見て、よく聞き、よく話すことが必要だ」 東京新聞に「世界の軍需企業24年販売額最高」という記事(12月2日付)が出ました。ストックホルム国際平和研究所によると、上位100社の軍需関連販売額は前年比5.9%増え、6790億ドル(約106兆円)と、とんでもない金額です。武器が商品になる、戦争が商売になる―おかしくありませんか? (消費生活アドバイザー)