金曜日, 12月 9, 2022
ホーム つくば 追憶の「筑波日記」 詩人・竹内浩三との幻の接点を綴る【戦後76年】

追憶の「筑波日記」 詩人・竹内浩三との幻の接点を綴る【戦後76年】

筑波から激戦地のフィリピンに渡り23歳で戦死した詩人・竹内浩三が、終戦から76年目の今年、生誕100年を迎えた。竹内は、青年期にある自身の気持ちを等身大の言葉でみずみずしく表現した詩人で、戦後、その作品群が詩集「戦死やあわれ」にまとめられるなど、たびたび注目されてきた。竹内は戦争末期の1年3カ月あまりを、今のつくば市作谷にあった西筑波陸軍飛行場の滑空部隊で訓練を積んだ。その日々を「筑波日記」と題した日記に記録した。

冊子「ないはずの記憶 竹内浩三がいた北条にて」

竹内とつくばの関係を再考する冊子にまとめたのは、つくば市北条で洋品店「とり文」を営む土子隆輝さん(78)。タイトルは「ないはずの記憶 竹内浩三がいた北条にて」、一昨年に刊行された。

竹内が北条を頻繁に訪れていたことを知ったのが、冊子作成のきっかけになった。冊子では、同時代を生きた父の日記を併記させ、生後間もない土子さん自身の記録とともに、そこにあったかもしれない竹内との接点を「ないはずの記憶」として表現した。

竹内浩三と北条

「戦死やあわれ 兵隊の死ぬるや あわれ 遠い他国で ひょんと死ぬるや」

1945年フィリピン・バギオで戦死した竹内浩三が22歳で入営する直前に詠んだ代表作「骨のうたう」の冒頭の一節だ。竹内はこの詩で戦争の虚しさだけでなく、戦後を想像し、復興の中で世間から忘れられゆく戦死者の心も詠んでいた。

竹内は大正10年(1921)、呉服屋の長男として三重県で生まれた。18歳で上京し、日大芸術学部で映画監督を志すが、戦時体制強化の中、夢半ばで大学を繰り上げ卒業し陸軍に入営する。

竹内が筑波に転属したのは1943年9月。所属部隊が置かれた西筑波飛行場は、1940年10月に現在のつくば市作谷と吉沼にあたる地域に開設され、竹内が所属した滑空部隊の他に陸軍士官学校西筑波分教場が置かれていた。

翌年元日から書き始める日記は、周囲の目を盗み毎晩トイレにこもり書いたもの。手札ほどの大きさの手帳に、以降1日も欠かすことなく筑波での日々を書き綴った。厳しい検閲を逃れるため、分厚い本の一部をくり抜き手帳を隠し、三重の姉に届けた。

土子さんは筑波日記を読み、北条にあった「伊勢屋旅館」など身近な名前が登場することに驚いた。日記には、竹内が休日によく足を運んだ場所として、つくば市吉沼の書店「十一屋」などがあがる。近隣の宗道など下妻市内の地名や店名も頻出している。

父が書き残した日記 つくばとの接点

土子さんが生まれたのは、竹内が筑波に転属する前月。初めての子を得た父親は、喜びとともに息子の成長を日記に書き記した。北条をたびたび訪れた竹内は、土子さんの自宅前を行き来していたことが筑波日記から読み取れる。土子さんの実家は当時、竹内の生家と同じ呉服店を営んでいた。同業者である竹内は、店先で幼い土子さんを見かけると声かけ、その頭を撫で、家族に代わって胸に抱いたこともあったのではないか。筑波日記を読む土子さんは竹内との接点を想像した。

土子隆輝さん。明治36年創業の北条「とり文」の三代目

竹内の魅力を土子さんは、子どもに向ける優しさと、戦時下でも失わないユーモア、率直な感情表現にあるという。その豊かな才能は、「呼吸をするように詩が生まれた」(竹内浩三作品集)という言葉にも表れている。

現存する筑波日記は1944年7月まで。それ以降の記録は残っていない。「竹内なら、外地のことも含めて、その後も記録したはず」と土子さんは考える。冊子は150部作成し、知人を中心に配布した。竹内の地元・三重県伊勢市の竹内に縁がある人々とのつながりも生まれた。「歴史の中で、竹内の物語が北条と繋がったというのは貴重」と話す。

戦争への思い

冊子作成を通して親近感を持った竹内との縁は、互いが学生時代を過ごした町でも繋がった。

「竹内が学生生活を過ごした同じ地域で、私も学生時代下宿していたんですよ。竹内が過ごした20年後のことでした。戦争の前後で、大きな時代の違いを実感しました」

「生きていれば、映画、漫画、詩、様々な分野で才能を発揮したはず。(竹内は)ひょんと死んじゃったんですよね。惜しい人を殺してしまった。こういう殺し方をした戦争というのは、するものではないとつくづく思う」土子さんはそう話す。

三重県庁公報によれば、陸軍上等兵・竹内浩三は1945年4月9日、フィリピン・バギオ北方1052高地で戦死した。享年23。遺骨は、今も見つかっていない。(柴田大輔)

4 コメント

特定候補や特定政党等をおとしめたり誹謗中傷するコメントは公選法や刑法に抵触する恐れがあり、削除します。

4 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

阿見町のツムラ漢方記念館 《日本一の湖のほとりにある街の話》6

【コラム・若田部哲】医療用漢方製剤の国内シェア8割超を販売し、漢方業界をけん引する株式会社ツムラ。その国内最大の生産拠点と国内唯一の漢方記念館が、霞ケ浦の豊富な水資源を背景に、阿見町に設立されていることをご存じでしょうか? 今回はそのツムラ漢方記念館の瀬戸館長に、奥深い漢方の世界についてご紹介いただきました。 医療関係者を中心に漢方の歴史や製造工程を伝え、漢方への理解を広めるために設立されたこの記念館は、阿見町のツムラ茨城工場や研究所のある敷地内に位置しています。来館してまず驚くのが、敷地内に入るとその場に満ちる漢方薬の香り。 期待とともに記念館に足を踏み入れると、正面奥には漢方薬の原料となる生薬がぎっしり詰まった透明な円柱が建ち並んでいます。植物・動物・鉱物など、自然由来の原料生薬はアースカラーのグラデーションをなし、さながら美しい現代アートのよう。 ところで「漢方」と聞いて「中国医学」と思う方も多いかもしれません。ところが実は漢方とは、5~6世紀頃に中国より渡来した医学をベースに、日本の気候風土・日本人の体質に合わせて発展した、日本独自の伝統医学。 漢方医学は考え方が西洋医学と異なり、病気の「原因」を探しそれを取り除くという西洋医学に対し、患者全体を診て自然治癒力や抵抗力に働きかけ、体全体のバランスを整えるという考え方から成っています。 また漢方薬は、自然由来の生薬を原則2種類以上組み合わせてつくられます。西洋薬は、一つの病因の解消を図るのに対し、漢方薬は多成分の生薬を複合させた薬であるため、一つの薬で複数の症状に効果を発揮することもあります。

無償譲渡受け市管理も選択肢の一つ 洞峰公園問題でつくば市長

つくば市長定例会見が8日開かれ、同市二の宮にある県営の都市公園、洞峰公園(約20ヘクタール)にグランピング施設をつくるなどのパークPFI事業について、五十嵐立青市長は「グランピング施設とバーベキュー施設は望ましくないという考えに変わりはない」と述べ、県から無償で公園の譲渡を受け市が管理することも選択肢の一つだとする考えを述べた。 洞峰公園のパークPFI事業をめぐっては、大井川和彦知事が1日の定例会見で、年明けにもグランピング施設などの建設許可の事前協議を開始したいと発言し、さらに、つくば市が自ら管理するのであれば洞峰公園を無償で市に移管したいなどと述べている(12月2日付)。8日の市長会見では、知事発言について記者から質問が出て、五十嵐市長が答えた。 一方で五十嵐市長は、無償譲渡について「簡単に『はい』と言えるものではない」とも述べ「(市として維持管理費などを)精査しているわけではないので、そもそも維持管理費がいくらかかるか分からない。市の他の公園規模と比べてどうかなど、検討するにしても細かい情報は必要になる。無償移管を検討するのであれば(県から)細かいデータをいただかないと市民にも議会にも説明できないし、今の段階で何をどうするかはまだまだ分からない」とも話した。 県は8月の説明会などで、洞峰公園の維持管理費用として、指定管理料が年約1億5000万円、来年度から2027年度までの大規模修繕費用として3億5600万円かかるとしている。 五十嵐市長はさらに、プールやテニスコートなどの利用料金値上げ要望に対し、大井川知事が1日の会見で「利用者の中の一部にだけ負担を押し付けるやり方でバランスが非常に悪い」と否定し、さらに協議会設置要望についても「協議会の位置付けや性格が不透明」だと市の要望をいずれも否定したことについて、「値上げ案は県が当初より代替案として示していたもの。そういう代替案に対して『バランスが悪い案だ』というのは、いささかとまどっている」と不快感を示し、さらに「(県は)『協議会の必要性が分からない』という話だが、(協議会は)話し合っていく素地を作るためには必要なものと思っている」と反論した。 その上で五十嵐市長は「つくば市への回答をちゃんと文書で示していただいた方が、お互いのミスコミュニケーションはないと思っている。はっきりと県の方向性が決まったら文書でお示しいただいて、それをもとに県と協議していきたい。協議が整わない中で(グランピング施設建設の事前協議が)申請されることはないと思っている」と改めて述べた。

「5時に夢中」の岩下さんの見せる「文化」《遊民通信》54

【コラム・田口哲郎】 前略 東京メトロポリタンテレビジョンの月~金曜日夕方5時からの番組「5時に夢中」を楽しく視聴していることは、以前書きました。「5時に夢中」は東京ローカルのワイドショーという感じですが、コメンテーターが多彩で、サブカルチャーの殿堂のようです。 私が好きなのは、木曜日の中瀬ゆかりさんと火曜日の岩下尚史さんです。中瀬さんは新潮社出版部部長で、文壇のこぼれ話を巧みな話術で披露して笑わせてくれます。岩下さんは新橋演舞場勤務から作家になった方で、東京のいわゆるハイ・カルチャーをよくご存じの方で、こちらも話術が巧みで笑わせてくれますが、ひとつひとつのお話に含蓄があるというか、うなずくことが多いです。 岩下さんの小説『見出された恋 「金閣寺」への船出』の文体は流麗で、引き込まれます。岩下さんは國學院大学ご出身ですが、國學院の偉大な民俗学者にして作家の折口信夫の小説『死者の書』などの文体を思わせる傑作だと思います。 さて、岩下さんのインスタグラムの話題が出ていて、美食家としての一面が見られるというので、見てみました。岩下さんらしい、ハイソな生活を垣間見られるのでおすすめです。シティ・ホテルでのパーティーや会食、料亭とおぼしきところでの高級料理など、きらびやかな世界が広がっています。

TX県内延伸に賛成?反対?【県議選’22つくば候補者アンケート】3

県議選候補者アンケート最終回は、つくばエクスプレス(TX)県内延伸構想の是非と、旧統一教会と接点をもったことはあるかについて、つくば市区の立候補者8人に聞いた。 TX東京延伸については11月25日、東京都が「都心部・臨海地域地下鉄構想」の事業計画案を発表。まず臨海地下鉄を単独で整備し、将来的に、TX東京延伸(秋葉原-東京)との接続や、羽田空港との接続を今後検討すると発表したばかり。 一方、県内延伸をめぐっては、県が今年度、初めて調査費を計上し、今年度中に①筑波山方面②水戸方面③茨城空港方面④土浦駅方面-の4方面案の中から1本に絞り込むと発表し、県内各地で誘致合戦が繰り広げられた。延伸に必要な事業費、需要予測、費用対効果も調査が行われている。一方つくば市は東京延伸を優先するとし、県内延伸の誘致合戦には加わらなかった。 NEWSつくばは告示前、8候補者に対し「TX県内延伸ルートを絞り込む調査費を県が計上し、県内延伸を求める運動がつくば市以外で盛り上がっています。県内延伸計画に賛成ですか、反対ですか」と質問した。賛成、反対、どちらでもないの3つのいずれかに〇を付けてもらい、50字程度で理由を書いてもらった。 各候補者の回答は以下の通り。 ▽佐々木里加氏 賛成「県内延伸には反対しないが、土浦ではなく、本来はつくばエクスプレスの名の通り筑波山を経由し県庁のある水戸へ、あるいは空の玄関茨城空港を経由し水戸へ伸ばすべき」