水曜日, 8月 19, 2026
ホームスポーツ「不足していた糧が満ちてきた」土浦日大 小菅監督【高校野球'21】

「不足していた糧が満ちてきた」土浦日大 小菅監督【高校野球’21】

土浦日大はこの夏をどう迎えるのか。秋はまさかの県大会初戦で敗退、春は準優勝の常磐大高に準々決勝でタイブレークの末に惜しくも敗退した。小菅勲監督(54)に大会への意気込みやコロナ禍がチームづくりにどう影響したかなどを語ってもらった。

厳しいゾーン、身が引き締まる

ー組み合わせですが、常総学院ゾーンに入り、霞ケ浦も同じゾーンになりました。そのほかに好投手を擁する多賀や水戸葵陵などの中堅私学が入っています。まず、このゾーンに入った所感をお聞かせ願います。

小菅 厳しいゾーンです。非常に身の引き締まる思いがします。私は毎年、何回戦でどこと当たるといったことはほとんど見ないで大会に臨みます。勝ち上がりの予測が外れることも少なくありません。初戦、もし多賀高校さんが勝ち上がってきますと、神永耀生投手(3年)と対決することになります。去年常総学院に投げ勝った良いピッチャーです。そのほかに川井虹投手(3年)も良いボールを放っています。

ー右の好投手2枚に対して何か対策は考えていますか。

小菅 県内の好投手の情報は、年間を通してチーム内で共有し、対策を練っています。当然その中に神永君も入っていました。それを確認し直したいと思います。昨今はカット系、チェンジアップなどの特殊球を多投する投手が多いので、練習試合の中で対応してきました。選手はそういうピッチャーに対応しなければ勝てないということはよく分かっていますので、それをもう一回おさらいし、再認識するということだと思います。

負けに不思議の負けなし

ー秋の県大会初戦の敗戦から冬場はどのように過ごしてきましたか。

小菅 秋に初戦で負けたことは絶対にその原因がある。“負けに不思議の負けなし”で、時間をかけて修正をしてきました。ようやくこの春になって、こちらが感じている以上に自分を「重くして」しまう選手が多くて、逆境の時に見せる姿が分かるようになってきました。逆境をはね除ける糧が、昨年からのコロナ禍で足りないと思っています。これまで、去年1年の真剣勝負の積み重ねが欠落していました。春の大会の戦績は満足できるものではありませんでしたが、ようやくここに来て不足していた糧が満ちてきた感があります。チームにもまとまりが出てきました。全員で、大会の時ももっと良い声掛け、あるいは結束が出来ると思っています。チーム力としては、十分に優勝の可能性があると信じています。特に野手は能力の高い選手がいます。“大会を通して成長を果たしていく”のが優勝チームだと思います。1イニング1イニング、一戦一戦で成長していきたいです。その姿を見ることが楽しみです。

エース左腕の小谷野=J:COMスタジアム土浦

エースは小谷野、3人で回す想定

ー戦力について伺います。夏はどのような布陣になりそうでしょうか。

小菅 昨秋にベンチ入りしていなかった小谷野奨大(3年)がエースナンバーを着けます。2番手、3番手の山田奏太と河野智輝は2年生です。秋からはレギュラーが2~3名入れ替わり、背番号二桁の選手も秋から4~5名入れ替わりました。チーム全体で「切磋琢磨」ができました。

ー小谷野投手はどんなタイプの投手ですか。

小菅 左投げで180センチです。大柄な割に制球力がよくて,ストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップを満遍なく操れるピッチャーです。

ー秋に1番をつけていた山田投手はどんな調子でしょうか。

小菅 ここ3カ月くらいでかなり成長してきました。彼もボールの勢いで勝負するタイプではなく、コントロールや試合をつくる能力と、強気なピッチャーなのでピンチでも向かっていける要素を持っています。ベストな状態で臨めると思います。身長も伸びて170センチ後半になったと思います。以前は少しぽっちゃり系だったのですが、この3カ月くらいで体脂肪もコントロール出来てきて、その分ボールのキレも増したように思います。

ー河野投手はどのようなタイプの投手ですか。

小菅 右サイドスローです。落ち着いていて淡々としたピッチャーです。大体この3人で回す想定ですが、4人目には、この数週間でいちばん調子の良いピッチャーを入れたいと思います。

ー秋はたくさん下級生がベンチ入りしていましたが、夏は3年生が入ってくるのでしょうか。

小菅 やはり3年生が巻き返し、夏は3年生が増えました。20人中15~16人くらいが3年生になるのではないでしょうか。

キャプテンの芹澤。昨年の独自大会=ノーブルホームスタジアム水戸

去年秋は衝突、産みの苦しみを経験

ー野手陣について伺います。下級生の時から中心選手であった菅野と芹澤、1年夏からスタメンを張っている吉次悠真が春の大会では2番、3番、4番と上位を打っていました。3選手が特に注目を浴びていますが、各選手の状態を具体的な数字などを交えて教えてください。

小菅 正確な本数を把握していませんが、菅野と芹澤は通算本塁打が20本弱で同じくらいの数字だと思います。吉次は一桁台です。トーナメントで求められるのは“勝負強さ”です。“一球入魂”の精神です。あまり本塁打数などは求めていません。本人の励みにしてもらう程度です。まずけがなくここまで来ているというのが良い材料です。菅野と芹澤の2人でチームを引っ張っています。去年の秋にはお互いに衝突したり、冬の間は口論したりと産みの苦しみを経験しました。それだけ2人でチーム作りを真剣にやっているという証拠です。今は同じ方向に向かっています。非常に頭の良い子たちなので、2人でしっかりと考えてチーム作りをやってきたと感じています。後は責任を背負いすぎないようにして欲しいなと思います。今のところは心身ともに充実していると思います。

ー菅野は何球団かスカウトがチェックしに来たという話があります。

小菅 巨人と楽天、中日が来ました。菅野は183センチで90キロと恵まれた体格でありながら100メートル走を12秒切るスピードがあります。そういうデータを知っているので追っているのでしょう。現状では大学経由などワンクッション置いた方がいいでしょうとスカウトも言っていますし、私もそう思います。本人もその辺は理解しています。補強ポイントとして見に来るチームもいるということです。

プロが注目する菅野。昨年の独自大会=ノーブルホームスタジアムk水戸

ー春の大会で1番を打っていた武田優輝と5番の荻原康誠はどのような選手ですか。

小菅 武田は非常にガッツマンでチームのリードオフマンにふさわしい人間です。2年生ですけれども、よく声が出て元気がある。芹澤と二遊間でコンビを組んでいますが、いい「化学反応」を起こしています。時には芹澤が武田に引っ張られながらやっている感じもあります。荻原は学習成績もトップクラスで、練習も一番やる模範中の模範の選手です。自分の真面目さを貫き通して自己を確立してきました。この3カ月くらい試合でも打っていますし、荻原が打って助かった、救世主となった試合が数多くあります。

ーそれでは5番は荻原で決まりですか。

小菅 候補の一人ではありますが固定はしません。警戒される芹澤・菅野の後を打つ重要な役割でありますから、候補は何人かいます。ケースバイケースで決めます。

ーほかに調子が上向きの選手はいますか。

小菅 去年から出場していましたが、中村陸人(3年)です。足も速いです。紆余曲折あって自己が確立できていない時期もありましたが、最近ようやく夏の大会に勝つんだという気持ちが見えるようになってきました。後は高内大翔(3年)ですね。この選手も気持ちの浮き沈みがありました。自分の路線、役割、あるべき姿を確立するのに時間がかかったのですが、ここ2週間ほど非常に良い状態でして期待しています。また大島優太朗(3年)という選手も調子が上がってきました。うちの選手はみんな真面目なんですが、彼は大らかなタイプです。チームの中に一人や二人、考えすぎないような選手がいると良いスパイスになるので期待しています。

ー1年生はどのような状況ですか。

小菅 1年生は促成栽培せずにゆっくりつくっています。秋に照準を合わせてじっくりと仕上げようと話しています。コンセプトも理解してくれて、主体的に練習に取り組んでいます。

土浦日大出島グラウンドにて

感謝の気持ちあふれてる

ーコロナを経験してチームの取り組みとして変化はありましたか。

小菅 まず3年生は「今年は選手権ができて本当にありがたい」という気持ちがあふれています。やはり去年の3年生を目の当たりにしていますから。この間保護者会の壮行会があって、保護者の前でキャプテンの芹澤があいさつをしていました。「本当に大会が開催されることに感謝しています」と言っていました。本音だと思います。後は、このチーム、この世代は仲が良い。3年生のチームワークが非常に良い。皆で頑張って甲子園に行こうよという感じは出ています。なおさらいろいろと制約された中で練習や練習試合をやってきました。本当に練習試合が厳しかったんです。うちはよくても相手がキャンセルを申し出る。直前の金曜日にお互いにやっぱり行けない。本当にいろいろなところと情報交換しながらも、毎週欠かさずになんとか練習試合ができました。有り難かったです。

心は熱く、頭は冷静に

ー最近見た試合で、選手同士が「おおらかに、おおらかに」と声を掛け合っていました。何かきっかけというか、こういう声掛けをするようになった理由はあるのでしょうか。

小菅 私は常日頃から野球はガツガツとやるものではないと言っています。人によっては野球を格闘技に例えたりしますよね。一瞬一瞬のプレーではボルテージが上がりますが、特にバッティングなんかではおおらかさを忘れてしまうとがっついてしまうので、頭は常に冷静にすることを大事にしています。そういったことでおおらかにという声掛けが出るのかもしれません。心は熱く、頭は冷静に、一言で言うとおおらかにとなると思います。

ーこれをチームのテーマとして取り組んでいるのでしょうか。

小菅 自然とテーゼとして流れています。ゲームの時も、選手だけで集まってピッチャーのこと、配球のことを言い合っています。頭は冷静でおおらかさを失うと実のある打ち合わせはできないですから。相手を分析する面など、野球偏差値もかなり良い感じに高まってきています。

ー去年のインタビューでは球速を上げたり投球を改善するために一貫して取り組んでいることがあるということでした。現在でもこの点は変更がありませんか。

小菅 一貫して取り組んでおります。毎月ラプソードを借りて回転数や変化球の精度を計測して「ピッチトンネル」を測っていますし、成果があったと確信しております。

ーピッチトンネルとはどのようなものですか。

小菅 同じ球筋、同じトンネルを通過してから変化させるのが有効という考えのもとにボールの軌道を修正する作業です。当然カーブのように目線を上げる球種もあるのですが、力んだり抑えてやろうとなるとなかなか上手くはいきません。同じ球筋を通ってから変化するという、大きく曲がりすぎることがないように意識しながらやっております。

ー今大会は球数の制限はどのようになっているのでしょうか。

小菅 1週間500球で、試合日を起点として前1週間です。決勝戦を起点として4回戦からの4試合が問題になると思います。去年準々決勝までいった時に球数を見せられて(前1週間が)300球程度だったので、この調子でいくと決勝戦で球数制限を超えるんだなと感じました。高校野球はトーナメントです。勝たないと明日がありません。流れと試合展開をよく見ながら、500球ルールに対応していきたいと思います。

ー木内幸男監督が昨年11月にお亡くなりになりました。小菅監督は、甲子園を制覇を果たした1984年の取手二高の優勝メンバーでした。木内監督から受け継いだことや思いなどをお聞かせ願います。

小菅 最後に会ったのは亡くなられる1年ほど前でお元気でした。いつものようにずっと野球の話を興味深くされていました。木内監督から学ばせて頂いたことは1冊の本になると思います。お亡くなりになられてとても残念ですが、悲しい気持ちを決意に変えていきたいと思っています。大事なのは木内監督の遺志を継いで、次の世代の者が高校野球を発展させていくことです。木内監督の気概、「甲子園で勝つ事が教育になる」ーを胸に刻んで励んでいきたいと思います。(聞き手・伊達康)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

大切な行事と「森の薬膳coco Tea」《ご飯は世界を救う》74

【コラム・川浪せつ子】年齢を重ねると、食べ物や昔からの行事(お盆)などが大切に感じるようになります。今年1月、義理の妹が病気で亡くなり、初盆です。私より少し上でしたが、本当によくしてもらいました。 また我が家は、これからのお墓のことでいろいろ検討中です。そんな中、7月に掲載した「牛久沼泊岬」(7月16日付)に行く途中、大きな墓地があるのに気がつきました。 近所の友人に話したら、10年前、お父さんをその墓地に埋葬したそうです。「そこには見晴らし台があって、牛久沼がよく見えるから、スケッチしたら」と、案内してもらいました。なかなかよい感じのところです。ですが、やぶ蚊が多く、とってもスケッチはできず、写真に収めて家で描くことに…。 お墓参りした後、友人が連れて行ってくれたのが「森の薬膳 coco Tea」(つくば市学園の森)というお店でした。お参りしてから、洋食料理より薬膳料理って、なんだかよい感じです。心も体もいたわる感じで…。 薬膳には興味はありませんでしたが、今回食したカボチャは体を温め、胃腸の働きを高めるそうです。山芋はスーパーフードで、滋養強壮にもいろいろな効果があるそうです。これからの食生活にも、少しずつ取り入れたいものですね。 風景に癒やされ、食事からは元気をもらい、大好きな友人とおしゃべり。そして、これからのご先祖様と私の行く末を考えながら、前向きの気持ちになった一日でした。(イラストレーター)

TX土浦延伸期成同盟会を設立 県内6市町長と議長

つくばエクスプレス(TX)の土浦延伸と茨城空港延伸を目指して、県内の関係6市町長と議会議長が17日、TX土浦延伸期成同盟会を立ち上げ、会長に安藤真理子土浦市長を選出した。TX東京駅延伸を図る沿線首長らによる期成同盟はすでに存在しているが、土浦駅延伸を目指す団体が結成されたことで、双方向延伸実現に向けた政治関係組織ができた。同日、土浦市内の結婚式場「ローブ」で設立総会が催された。 交通政策審での位置付けが課題 メンバーは、土浦、石岡、牛久、かすみがうら、小美玉市、阿見町の市長・町長と、これら6市・町の議会議長の計12人で構成される。土浦駅に近い常磐線沿線の首長のほか、土浦延伸が実現したあと茨城空港(小美玉市)への再延伸を目指して、その経路に当たると想定されるかすみがうら市長も加わった。 採択された設立趣意書では ①TX土浦延伸、さらに茨城空港延伸は、沿線地域の利便性を向上させ、県南・県央・県北と首都圏、さらに諸外国を結ぶ交通ネットワークを強化する ②延伸は交流人口の拡大や産業の活性化、大規模災害時の代替輸送路確保に寄与する ③次期(国土交通省)交通政策審議会答申で、必要路線と位置付けられることが重要課題 ④関係自治体が連携し、強力な推進体制を構築し、関係機関に強く訴える―とうたっている。 土浦延伸と県南50万都市はセット 設立総会には大井川和彦知事、関係市町が選挙区の県会・国会議員、地元土浦の市会議員も出席した。土浦市長や来賓あいさつでは、TX土浦延伸と県南50万都市形成をセットで構想する発言が相次いだ。 会長に選出された安藤土浦市長は「(最近)知事からTX延伸を機に県南に50万都市を建設するとの話があったが、TX延伸はその都市づくりの重要な要素になる。そのために地域がひとつになることが重要」だと述べた。大井川知事は「TXは土浦とつくばを中心とした50万都市づくりの大きな契機になる。そのためには地元自治体の延伸活動が大事」だとし、地元選挙区選出の国光あやの衆院議員は「高市政権の成長戦略では鉄道も重視されている。TX土浦・東京延伸は費用対効果を考えると十分ペイする。50万都市形成を目指す県南でTXが充実することは国の戦略と合致する」などと話した。 常磐線不通の際は替輸送経路 総会後、県の木名瀬貴久政策企画部長が「TX延伸による茨城の未来」という演題で講演、いろいろな視点から延伸がもたらす効果を説明した。この中でも「つくばなど県南・県西と水戸など県央、さらには県北がより近くなることで、県内の大きな経済圏の連携強化につながる」と、県全体に及ぼす経済効果に言及した、 また延伸区間(つくば駅~土浦駅、約10キロ、約9分)のポテンシャルについて「つくばー土浦間の利用者は平日・休日ともに7~8万人もの流動性がある」とし、「これにより一部区間で発生している交通渋滞は鉄道利用が増えることで緩和される」「延伸区間は高架構造を想定しており、河川氾濫などの災害リスクや輸送障害を軽減できる」などと説明。特に、常磐線が不通になった際、TXが代替輸送経路になることを強調した。(坂本栄)

竹園に残る未来の遺跡《デザインを考える》35

【コラム・三橋俊雄】つくば市の竹園地区は、1970年代に研究学園都市の中でいち早く整備された地域の一つです。そのため、この地区には学園都市建設当時の理想や期待が色濃く刻み込まれています。公務員宿舎や公共施設もそうした構想のもとで整備されました。 しかし半世紀近くが過ぎた現在、社会の姿は大きく変わりました。人口構造や働き方、住まい方が変化し、かつて重要な役割を担っていた施設の一部は、その役割を終えています。その結果、閉鎖されたままの公務員宿舎や使われなくなった設備の一部は、街の中に残されることになりました。 毎週水曜・日曜のラジオ体操の際に気になっているのが、竹園ショッピングセンター広場に設置されていた水飲み場(写真右下の2枚)です。もともと、ショッピングセンターと交流センターの間には、3基の水飲み場がありました、しかし5年以上前から、金属製の蛇口は取り外され、石造の基部だけが残されています。かつては夏の日に子どもたちや買い物客の喉をうるおし、まちのやさしさを感じさせる存在だったことでしょう。 それだけではありません。つくば市誕生当初から設置されている案内地図板(写真左の2枚)も今は色あせ、機能していません。研究学園都市として新しい未来を切り開こうとしていたころの期待や希望を映し出していたはずの地図板も、今では静かに時の流れを物語るだけの存在となっています。それらが適切な手入れもされないまま残されている姿は、歴史的景観というよりも、むしろ「廃墟」のような印象を受けます。 さらに昨年から、管理者によって使用が禁止されたままとなっている郵便局脇の掲示板(写真右上)も、そのまま使用できずに残されたままです。子どもたちの通学路でもあるこの広場は、長年にわたり多くの人々が行き交い、掲示板は地域の情報を共有する場として親しまれてきました。掲示板には地域のイベントや活動のお知らせが貼られ、そこには日々の息づかいが感じられていました。その掲示板だけがポツンと残されている光景に、私は一抹の寂しさを覚えています。 「廃墟」と「現在」が同居 使えない水飲み場や、色あせた案内地図板、使用できない掲示板が放置されたまま、この広場には「廃墟」と「現在」が同居しているのです。そうした風景を眺めていると、研究学園都市として船出したころに抱いていた理想や、市民とともにまちを育てていこうとしていた熱意は、どこへ行ってしまったのだろうか?と思わずにはいられません。 まちの魅力は、新しい施設だけによって生まれるものではありません。人々が集い、情報を共にし、地域への愛着を育む場所であってこそ、まちは生き続けることができるのです。水飲み場も、案内地図板も、掲示板も、一見するとささやかな存在かもしれません。しかし、そうした身近な施設にどう向き合っていくかということこそ、そのまちのありようが表れているのではないでしょうか。 今こそ、つくばが研究学園都市として歩み始めたころの志に立ち返り、まちの記憶と誇りを次世代へ受け継ぐための「まちのデザイン」が必要ではないでしょうか。(ソーシャルデザイナー)

検査を「特別なこと」にしない 筑波大教員ら、土浦で無料の性感染症検査

性感染症の検査を、後ろめたさや怖さを伴う「特別なこと」ではなく、誰もが受ける健康管理の一つにしたい―。筑波大学医学医療系准教授の堀愛さん、助教の井坂ゆかりさんらが土浦市内で、HIVや性感染症を無料・匿名で調べる「ゆるっと大人の性感染症検査」に取り組んでいる。 指定のサイトから事前予約が必要で、手続きを終えると受診会場の案内がメールで届く。尿・血液検査でHIV、梅毒、淋菌、クラミジアの感染を調べることができる。結果は当日、知ることができる。8月10日、6回目の検査会が開かれた。 堀さんらが問題視するのは、検査を必要としながら、受ける機会を持てない人が少なくないことだ。HIV感染に気付かないまま、エイズを発症して初めて受診する患者もいる。現在は治療が大きく進歩し、感染を早く知り治療を続ければ、発症を防ぎながら生活することができる。「もっと早く分かっていればと思ったこともある。大人になって性的なパートナーができたら、誰でも一度は検査を受けた方がいい。そんなメッセージをもっと伝えたい」と堀さんは言う。 記者も受けてみた 8月10日、実際に検査の様子を知ろうと、記者も検査を受けてみた。会場は、JR土浦駅近くの建物内に設けられた特設スペース。具体的な場所は、検査を受ける人への配慮から非公開にしている。会場にはポスターなどの掲示もない。 受け付け開始は午前10時。取材を兼ねる記者は一般受け付けが始まる15分前から手続きを始め、10時前には検査を終えた。早ければ5分ほどで終えることもできる。予約時に本名を伝える必要はなく、会場でも事前に伝えていたニックネームと予約番号を確認するだけで受け付けは済んだ。尿検査用の採尿キットを受け取ると、案内に立っていたのはポロシャツを着た関係者だった。白衣を着ないのも、受診者の心理的な負担を軽くするためだという。入り口と出口も別々に設けられ、受信者同士が顔を合わせないよう配慮されていた。 採尿を終えると、パーテーションで一人ひとりの空間が区切られた待合室に案内された。3メートルほどの間隔でパイプ椅子が3脚並び、ここでも受診者同士が顔を合わせることはない。椅子に座って待つ間に、壁に貼られたQRコードをスマートフォンで読み込み、検査への同意と簡単なアンケートに回答する。まもなく係員に案内され、隣接の検査スペースで採血を受けた。担当するのは、筑波大学附属病院に勤務する看護師2人だ。 会場から少し離れた駅直結の複合施設ウララには、筑波大で看護を学ぶ学生2人が啓発ブースを設け、行き交う人に企画のチラシ入りポケットティッシュや、企業の寄付による無料コンドームを配りながら周知していた。関心を持って足を止めた人には、予約状況を確認しながらその場で当日受け付けも行うという。 この日は22人が検査を受けた。予約は過去最高となる27人。当日受け付けを含めれば最大40人まで対応できるといい、これは検査結果をその日のうちに通知できる上限の人数だという。「検査を希望する人は、何かしらの心配事を抱えている場合もある。時間を置かずに結果を伝えることが大切」と井坂さんは説明する。検査結果では、「陰性」か「要受診」がメールで通知される。「要受診」の際はオンライン上で、プロジェクトに賛同する近隣医療機関への紹介状をダウンロードすることができ、電話予約の上、紹介状を持参することができる。 尿・血液検査自体は一般的な健康診断と変わらない。むしろ採血に必要な血液量はより少なく、かかる時間も短かった。待ち時間を含めても、10分以内で終えることができる。採血と検尿だけであれば、通常の健康診断でも行われる検査方法だ。一部の健診機関では希望すれば定期健診に組み込める仕組みもあるようだが、より一般的になるとよいのではないかと感じた。検査結果は、その日の午後5時にメールで届いた。 「関心はあるが、機会がない」 取り組みは2025年度に始まった。堀さんや井坂さんら筑波大医学医療系の教員が中心となる3年間の研究プロジェクトの一環だ。最初の検査は同年11月、筑波大学の学園祭で実施した。2日間で85人が受検し、アンケートでは76%が性感染症の検査を初めて受けたと答えた。「関心はあっても、機会がなければ受けない人がほとんどだったのだと思う」と堀さん。予想を上回る人数に、検査を生活圏に持ち込む意味を実感した。「地方では、アクセスがとにかく問題になる。これまで、本来受けてほしい人の目線に立てた検査を提供できていなかった」と堀さんは言う。 大都市ではNPOや医療機関による検査イベントがある一方、茨城などでは無料検査の機会が保健所に限られがちだ。会場が駅から遠い、実施曜日と仕事の都合が合わないなど、受けたくても利用しにくい人がいる。そこで、土浦駅周辺を会場に選んだ。市内の歓楽街で働く人やその利用者、決まった店に所属せず各地を移動して働く人などは、専門機関での検査につながりにくい可能性がある。「実態が分からないからこそ、まず土浦でやってみよう」と考えた。 今年1月から土浦市内で検査をはじめ、8月10日で6回目を数えた。学園祭を含めたこれまでの受検者は延べ200人近くにのぼる。最近は土浦会場を繰り返し利用する人も現れている。「定期的に、気軽に検査を受けてほしいという目的でやっているので、リピーターが来てくれるのはうれしい」と堀さんは話す。 「自分の体を知れてよかった」と思える検査に 堀さんらが検査と同じくらい力を入れているのが、性感染症にまつわるイメージを変えることだ。性感染症には、感染した人の行動や生き方を責めるような偏見がつきまとう。後ろめたさを感じ、結果を知ることを恐れて検査から遠ざかれば、治療の開始が遅れ、他の人に感染を広げる可能性もある。 「偏見に対処するには、ポジティブなメッセージを出すことが大事」。目指すのは「自分の体のことを知れてよかった」「思ったより簡単に受けられた」という前向きな受け止め方を広げることだ。「後ろめたい気持ちを抱えて、自分から検査を遠ざけてしまうのは、すごくもったいない。そういうことを気にせず来てほしい」と堀さんは話す。 検査は、感染を疑われる人だけが受けるものではない。感染していないと分かって安心するためにも、自分自身やパートナーを守るためにも利用できる。学園祭や商業施設の会場では、カップルで一緒に受ける人もいたという。 受検への心理的なハードルを下げるため、会場運営では細部にまで工夫が重ねられている。受け付けでも検査を受ける理由をあえて詳しく聞かない。「普通の健康診断や献血に行くのと同じように」必要な案内だけを淡々と行うという。 広報の手法も工夫を凝らす。若者向けにはゲームのキャラクターのような「ドット絵」を用い、歓楽街を訪れる人向けにはあえて目をひく金色を配色し「無料」と書き込み「お得感」を演出する。その他に、SNSやマッチングアプリにも広告を出す。性産業で働く人の支援団体や事業者からも意見を聞き「誰が、どのような情報なら目を向けるのか」を探っている。 「茨城モデル」を定着させたい 全国のHIV検査数は、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年と比べて大きく減り、その後も増え方が鈍い。感染が早期に分からないまま、エイズを発症して初めて感染が判明する人も、報告される陽性者の約3分の1に上ると、堀さんは説明する。一方、治療は大きく進歩している。感染が早く分かり薬を飲み続ければ、発症を防ぎながら通常の生活を送ることができる。それでも「エイズは怖い病気」「検査を受けるのも怖い」という過去のイメージは根強く残る。「私たちが検査を受けてほしいと考えている人と、実際に検査を受けたい人が同じとは限らない。本当の声を聞かなければいけない」と堀さんは言う。 2026年度で2年目を迎えた。今後は実施する時間帯や場所を広げ、外国人を含め、これまで検査につながりにくかった人のもとへ出向くことも検討している。研究期間の終了後も資金を確保し、仕組みを県内各地に広げ、地域で感染を早期に見つけ、治療につなげたい。土浦での検査を「茨城モデル」として地域に定着させたいと考えている。今後は月1回の頻度で、引き続き土浦での開催を予定している。次回は9月に行う。(柴田大輔) ◆「ゆるっと大人の性感染症検査」の詳しい情報は特設サイトへ。 ◆保健所が実施している無料の性感染症・肝炎検査の情報はこちら。