金曜日, 8月 28, 2026
ホームスポーツ「不足していた糧が満ちてきた」土浦日大 小菅監督【高校野球'21】

「不足していた糧が満ちてきた」土浦日大 小菅監督【高校野球’21】

土浦日大はこの夏をどう迎えるのか。秋はまさかの県大会初戦で敗退、春は準優勝の常磐大高に準々決勝でタイブレークの末に惜しくも敗退した。小菅勲監督(54)に大会への意気込みやコロナ禍がチームづくりにどう影響したかなどを語ってもらった。

厳しいゾーン、身が引き締まる

ー組み合わせですが、常総学院ゾーンに入り、霞ケ浦も同じゾーンになりました。そのほかに好投手を擁する多賀や水戸葵陵などの中堅私学が入っています。まず、このゾーンに入った所感をお聞かせ願います。

小菅 厳しいゾーンです。非常に身の引き締まる思いがします。私は毎年、何回戦でどこと当たるといったことはほとんど見ないで大会に臨みます。勝ち上がりの予測が外れることも少なくありません。初戦、もし多賀高校さんが勝ち上がってきますと、神永耀生投手(3年)と対決することになります。去年常総学院に投げ勝った良いピッチャーです。そのほかに川井虹投手(3年)も良いボールを放っています。

ー右の好投手2枚に対して何か対策は考えていますか。

小菅 県内の好投手の情報は、年間を通してチーム内で共有し、対策を練っています。当然その中に神永君も入っていました。それを確認し直したいと思います。昨今はカット系、チェンジアップなどの特殊球を多投する投手が多いので、練習試合の中で対応してきました。選手はそういうピッチャーに対応しなければ勝てないということはよく分かっていますので、それをもう一回おさらいし、再認識するということだと思います。

負けに不思議の負けなし

ー秋の県大会初戦の敗戦から冬場はどのように過ごしてきましたか。

小菅 秋に初戦で負けたことは絶対にその原因がある。“負けに不思議の負けなし”で、時間をかけて修正をしてきました。ようやくこの春になって、こちらが感じている以上に自分を「重くして」しまう選手が多くて、逆境の時に見せる姿が分かるようになってきました。逆境をはね除ける糧が、昨年からのコロナ禍で足りないと思っています。これまで、去年1年の真剣勝負の積み重ねが欠落していました。春の大会の戦績は満足できるものではありませんでしたが、ようやくここに来て不足していた糧が満ちてきた感があります。チームにもまとまりが出てきました。全員で、大会の時ももっと良い声掛け、あるいは結束が出来ると思っています。チーム力としては、十分に優勝の可能性があると信じています。特に野手は能力の高い選手がいます。“大会を通して成長を果たしていく”のが優勝チームだと思います。1イニング1イニング、一戦一戦で成長していきたいです。その姿を見ることが楽しみです。

エース左腕の小谷野=J:COMスタジアム土浦

エースは小谷野、3人で回す想定

ー戦力について伺います。夏はどのような布陣になりそうでしょうか。

小菅 昨秋にベンチ入りしていなかった小谷野奨大(3年)がエースナンバーを着けます。2番手、3番手の山田奏太と河野智輝は2年生です。秋からはレギュラーが2~3名入れ替わり、背番号二桁の選手も秋から4~5名入れ替わりました。チーム全体で「切磋琢磨」ができました。

ー小谷野投手はどんなタイプの投手ですか。

小菅 左投げで180センチです。大柄な割に制球力がよくて,ストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップを満遍なく操れるピッチャーです。

ー秋に1番をつけていた山田投手はどんな調子でしょうか。

小菅 ここ3カ月くらいでかなり成長してきました。彼もボールの勢いで勝負するタイプではなく、コントロールや試合をつくる能力と、強気なピッチャーなのでピンチでも向かっていける要素を持っています。ベストな状態で臨めると思います。身長も伸びて170センチ後半になったと思います。以前は少しぽっちゃり系だったのですが、この3カ月くらいで体脂肪もコントロール出来てきて、その分ボールのキレも増したように思います。

ー河野投手はどのようなタイプの投手ですか。

小菅 右サイドスローです。落ち着いていて淡々としたピッチャーです。大体この3人で回す想定ですが、4人目には、この数週間でいちばん調子の良いピッチャーを入れたいと思います。

ー秋はたくさん下級生がベンチ入りしていましたが、夏は3年生が入ってくるのでしょうか。

小菅 やはり3年生が巻き返し、夏は3年生が増えました。20人中15~16人くらいが3年生になるのではないでしょうか。

キャプテンの芹澤。昨年の独自大会=ノーブルホームスタジアム水戸

去年秋は衝突、産みの苦しみを経験

ー野手陣について伺います。下級生の時から中心選手であった菅野と芹澤、1年夏からスタメンを張っている吉次悠真が春の大会では2番、3番、4番と上位を打っていました。3選手が特に注目を浴びていますが、各選手の状態を具体的な数字などを交えて教えてください。

小菅 正確な本数を把握していませんが、菅野と芹澤は通算本塁打が20本弱で同じくらいの数字だと思います。吉次は一桁台です。トーナメントで求められるのは“勝負強さ”です。“一球入魂”の精神です。あまり本塁打数などは求めていません。本人の励みにしてもらう程度です。まずけがなくここまで来ているというのが良い材料です。菅野と芹澤の2人でチームを引っ張っています。去年の秋にはお互いに衝突したり、冬の間は口論したりと産みの苦しみを経験しました。それだけ2人でチーム作りを真剣にやっているという証拠です。今は同じ方向に向かっています。非常に頭の良い子たちなので、2人でしっかりと考えてチーム作りをやってきたと感じています。後は責任を背負いすぎないようにして欲しいなと思います。今のところは心身ともに充実していると思います。

ー菅野は何球団かスカウトがチェックしに来たという話があります。

小菅 巨人と楽天、中日が来ました。菅野は183センチで90キロと恵まれた体格でありながら100メートル走を12秒切るスピードがあります。そういうデータを知っているので追っているのでしょう。現状では大学経由などワンクッション置いた方がいいでしょうとスカウトも言っていますし、私もそう思います。本人もその辺は理解しています。補強ポイントとして見に来るチームもいるということです。

プロが注目する菅野。昨年の独自大会=ノーブルホームスタジアムk水戸

ー春の大会で1番を打っていた武田優輝と5番の荻原康誠はどのような選手ですか。

小菅 武田は非常にガッツマンでチームのリードオフマンにふさわしい人間です。2年生ですけれども、よく声が出て元気がある。芹澤と二遊間でコンビを組んでいますが、いい「化学反応」を起こしています。時には芹澤が武田に引っ張られながらやっている感じもあります。荻原は学習成績もトップクラスで、練習も一番やる模範中の模範の選手です。自分の真面目さを貫き通して自己を確立してきました。この3カ月くらい試合でも打っていますし、荻原が打って助かった、救世主となった試合が数多くあります。

ーそれでは5番は荻原で決まりですか。

小菅 候補の一人ではありますが固定はしません。警戒される芹澤・菅野の後を打つ重要な役割でありますから、候補は何人かいます。ケースバイケースで決めます。

ーほかに調子が上向きの選手はいますか。

小菅 去年から出場していましたが、中村陸人(3年)です。足も速いです。紆余曲折あって自己が確立できていない時期もありましたが、最近ようやく夏の大会に勝つんだという気持ちが見えるようになってきました。後は高内大翔(3年)ですね。この選手も気持ちの浮き沈みがありました。自分の路線、役割、あるべき姿を確立するのに時間がかかったのですが、ここ2週間ほど非常に良い状態でして期待しています。また大島優太朗(3年)という選手も調子が上がってきました。うちの選手はみんな真面目なんですが、彼は大らかなタイプです。チームの中に一人や二人、考えすぎないような選手がいると良いスパイスになるので期待しています。

ー1年生はどのような状況ですか。

小菅 1年生は促成栽培せずにゆっくりつくっています。秋に照準を合わせてじっくりと仕上げようと話しています。コンセプトも理解してくれて、主体的に練習に取り組んでいます。

土浦日大出島グラウンドにて

感謝の気持ちあふれてる

ーコロナを経験してチームの取り組みとして変化はありましたか。

小菅 まず3年生は「今年は選手権ができて本当にありがたい」という気持ちがあふれています。やはり去年の3年生を目の当たりにしていますから。この間保護者会の壮行会があって、保護者の前でキャプテンの芹澤があいさつをしていました。「本当に大会が開催されることに感謝しています」と言っていました。本音だと思います。後は、このチーム、この世代は仲が良い。3年生のチームワークが非常に良い。皆で頑張って甲子園に行こうよという感じは出ています。なおさらいろいろと制約された中で練習や練習試合をやってきました。本当に練習試合が厳しかったんです。うちはよくても相手がキャンセルを申し出る。直前の金曜日にお互いにやっぱり行けない。本当にいろいろなところと情報交換しながらも、毎週欠かさずになんとか練習試合ができました。有り難かったです。

心は熱く、頭は冷静に

ー最近見た試合で、選手同士が「おおらかに、おおらかに」と声を掛け合っていました。何かきっかけというか、こういう声掛けをするようになった理由はあるのでしょうか。

小菅 私は常日頃から野球はガツガツとやるものではないと言っています。人によっては野球を格闘技に例えたりしますよね。一瞬一瞬のプレーではボルテージが上がりますが、特にバッティングなんかではおおらかさを忘れてしまうとがっついてしまうので、頭は常に冷静にすることを大事にしています。そういったことでおおらかにという声掛けが出るのかもしれません。心は熱く、頭は冷静に、一言で言うとおおらかにとなると思います。

ーこれをチームのテーマとして取り組んでいるのでしょうか。

小菅 自然とテーゼとして流れています。ゲームの時も、選手だけで集まってピッチャーのこと、配球のことを言い合っています。頭は冷静でおおらかさを失うと実のある打ち合わせはできないですから。相手を分析する面など、野球偏差値もかなり良い感じに高まってきています。

ー去年のインタビューでは球速を上げたり投球を改善するために一貫して取り組んでいることがあるということでした。現在でもこの点は変更がありませんか。

小菅 一貫して取り組んでおります。毎月ラプソードを借りて回転数や変化球の精度を計測して「ピッチトンネル」を測っていますし、成果があったと確信しております。

ーピッチトンネルとはどのようなものですか。

小菅 同じ球筋、同じトンネルを通過してから変化させるのが有効という考えのもとにボールの軌道を修正する作業です。当然カーブのように目線を上げる球種もあるのですが、力んだり抑えてやろうとなるとなかなか上手くはいきません。同じ球筋を通ってから変化するという、大きく曲がりすぎることがないように意識しながらやっております。

ー今大会は球数の制限はどのようになっているのでしょうか。

小菅 1週間500球で、試合日を起点として前1週間です。決勝戦を起点として4回戦からの4試合が問題になると思います。去年準々決勝までいった時に球数を見せられて(前1週間が)300球程度だったので、この調子でいくと決勝戦で球数制限を超えるんだなと感じました。高校野球はトーナメントです。勝たないと明日がありません。流れと試合展開をよく見ながら、500球ルールに対応していきたいと思います。

ー木内幸男監督が昨年11月にお亡くなりになりました。小菅監督は、甲子園を制覇を果たした1984年の取手二高の優勝メンバーでした。木内監督から受け継いだことや思いなどをお聞かせ願います。

小菅 最後に会ったのは亡くなられる1年ほど前でお元気でした。いつものようにずっと野球の話を興味深くされていました。木内監督から学ばせて頂いたことは1冊の本になると思います。お亡くなりになられてとても残念ですが、悲しい気持ちを決意に変えていきたいと思っています。大事なのは木内監督の遺志を継いで、次の世代の者が高校野球を発展させていくことです。木内監督の気概、「甲子園で勝つ事が教育になる」ーを胸に刻んで励んでいきたいと思います。(聞き手・伊達康)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho





spot_img

最新記事

電源ケーブル約20本盗難 新治第2排水機場 土浦

土浦市は27日、同市下坂田、新治第2排水機場で、窓ガラスが割られ、銅製のポンプ電源ケーブル約20本と、鋳鉄製パイプ2本が盗まれたと発表した。市は26日、土浦警察署に被害届を出した。 市農林水産課によると、25日午後6時ごろ、同機場電気工作物の保安管理をしている委託業者から通報があり、盗まれたことが分かった。 26日、同課が現地の状況を確認したところ、窓ガラスが割られ、かぎが開けられ、鋭利なものでケーブルを切断した形跡があった。盗まれた電源ケーブルは、分電盤とポンプ本体をつないでおり、長さ約6メートルのものと約4メートルのものがあった。同課は盗まれた本数や長さを調べている。盗まれたパイプ2本は、除砂装置のパイプだった。 同排水機場は桜川近くの田んぼに囲まれたところにあり、普段、人通りはなく、防犯カメラも設置されていなかったため、いつ盗まれたのかは不明という。 同排水機場は、大雨で田んぼに水がたまった時などに、田んぼから水を汲み出し桜川に排水する施設で、現在、稼働できない状態になっている。市は今後、修理をする予定だが、いつごろ使えるようになるかは現時点で未定という。

地籍調査で土地所有者48人の個人情報を紛失 つくば市

つくば市は26日、市発注の地籍測量調査で、請負業者が現地調査を実施した際、市内の土地所有者48人の個人情報が書かれた図面を紛失してしまったと発表した。紛失したのはA1サイズ(84センチ×59センチ)の図面2枚で、土地の境界や地番、田畑など土地の用途(地目)が書かれた地図上に、それぞれの土地所有者48人の氏名が書かれていた。 市道路計画課によると、地籍調査を請け負った事業者が19日、旧谷田部地区の田畑や雑種地で、48人の個人情報が記されたA1サイズの図面2枚を画板に取り付けて、一筆ごとの土地の地目、境界の位置、面積などを測量する現地調査を行い、午後5時ごろ、社有車で会社に戻って車内を確認したところ、紛失に気付いた。 同課によると、現地調査をした社員は「図面を車に積み込んだ記憶はあるが、帰社して車内を確認したら無かった、現地に戻って探したが見つからなかった」などと説明しているという。翌20日午前9時ごろ、事業者から市に紛失の連絡があった。 この事業者は、今年7月から来年3月までの期間、地籍の未調査地区である旧谷田部地区計約29ヘクタールの地籍調査を請け負っていた。市は事業者に対し、調査資料の適切な管理と取り扱いを徹底するよう強く指導したとしている。 土地所有者48人に対しては、直接自宅を訪問したり電話するなどして41人に謝罪したとし、連絡が取れなかった残り7人についてはお詫びの通知を出すとしている。

天皇賜杯、全日本、国体出場選手・監督が決意 筑波銀行で壮行会

天皇賜杯に出場する筑波銀行軟式野球部員と、全日本選手権水泳飛び込み競技に出場する同行石岡支店勤務の北村夢選手、国民スポーツ大会(国体)セーリング競技に監督として出場する同行リテールソリューション部勤務の木村俊介さんの壮行会が25日、つくば市竹園の筑波銀行本部ビルで開かれ、生田雅彦頭取と役員らを前に意気込みを語った。いずれも9月に開催される。 天皇賜杯で初勝利目指す 軟式野球部 軟式野球部は7月に行われた全日本軟式野球茨城大会決勝戦で常陽銀行を13ー1(6回コールド)で破り、3年ぶり3度目の出場を果たした。小松祐輔監督は「毎週土日、厳しい練習を積み重ねた結果、全国大会出場の切符を手にすることが出来た。全国大会では茨城県の代表、筑波銀行の代表として、プライドを持って一戦必勝で頑張る」と意気込みを話し、星駿斗主将は「3年振りの全国大会で、選手も入れ替わり若い選手が多くなっている中で、勢いのあるチームになっている。まずは天皇賜杯で初勝利し、ベスト8を目指し全力で勝ち抜く」と力強く語った。 野球部部長の岡野信裕常務は「天皇賜杯では勝ったことがないので、初勝利を目指し、筑波銀行の看板を背負って野球をやっていることを肝に銘じてしっかり戦う」と話した。天皇賜杯は9月18〜23日、奈良県で開催される。 ナショナルチーム入り目指す 水泳 北村夢選手 水泳飛び込み競技に出場する北村夢選手は、関西選手権と関東選手権の両方に出場し、基準となる200点を突破、見事に全日本選手権の切符を手に入れた。 「3メートルと1メートルの飛び板競技に出場する。255点を目標に、ナショナルチーム入りと、最終的には表彰台に立ちたい」と意気込みを語った。全日本選手権は9月2〜6日、滋賀県草津市で開催される。  国体の表彰台に セーリング 木村俊介監督 セーリング競技の木村俊介監督は、監督としては4回目の出場。選手として現役最後の2022年に団体優勝し、日本一を経験している。「次は監督として表彰台に上りたい。選手のほとんどは霞ケ浦高校出身者が多く、霞ケ浦高校で日本一になって、大学に進学してセーリングの部活を続け、県代表選手として起用しているので、知っている選手ばかり。コミュニケーション、チームワークが出来ているのでとても良い環境。日本一を目標に頑張る」と決意表明した。 国体セーリング競技は9月4〜7日、青森県むつ市で開催される。 「悔いなくやり切って」 生田雅彦頭取は「筑波銀行の名を背負い、自覚と誇りを胸にこれまで頑張って培ってきた実力を、平常心で存分に発揮して、健康と安全を第一に、競技を楽しむ気持ちを忘れずに頑張っていただきたい。皆さんがそれぞれの舞台で悔いなくやり切ったと胸を張って言えることが、我々の最大の喜び。勝っても負けても、その過程で得た経験や成長が皆さんの財産になり、職場、銀行全体の力にもなって、職員たちの良い刺激になってくれる」と激励の言葉を伝えた。(高橋浩一)

見える人、見えない人 《短いおはなし》54

【ノベル・伊東葎花】 我が家はいわゆる「見える」家系だ。パパもママも私も、生まれたときから幽霊が見える。ただ、どういう訳かお姉ちゃんだけは「見えない」人だ。霊感が全くない。だからといって困ることなど何ひとつない。霊なんて、見えないに越したことはないのだ。そんな我が家に、ちょっと困ったことが起きた。お姉ちゃんが、幽霊を連れてきてしまったのだ。青白い顔の男の霊が、お姉ちゃんの肩に乗っている。「どうする? パパ、ママ、教えてあげた方がいいかな?」 「あの子は怖がりだから、きっとパニックになるよ」 「悪い霊じゃなさそうだし、明日にはいなくなるでしょ」お姉ちゃんはまるで気づかない。 「ああ、肩が重い。誰かもんでくれない?」 「お姉ちゃん、もんだくらいじゃ治らないよ」 「そうか。疲れがたまってるのかな。明日マッサージ行こう」 (マッサージでも治らないけどね)翌日、お姉ちゃんに取りついた霊は、いなくなるどころか2人に増えた。しかもまた男の霊だ。そして日を追うごとに、男の霊が増えていく。 「お姉ちゃん、会社で何かあった?」 「何かって?」 「男の人がいっぱい死んだとか」 「あるわけないでしょ」 「じゃあ、最近変わったことは?」 「何もないわよ。占いでモテ期到来って言われたけど全然だめよ。婚活はハズレばかり。私のモテ期はいつ来るの?」 いつもの愚痴が始まっちゃった。退散しよう。とはいえ、放ってはおけないので、知り合いの霊媒師に来てもらった。 「おばば様、うちの長女はものすごい怖がりなんです。霊がついたと知ったら大騒ぎです。どうか寝ているうちに除霊してください」 「ふむ、見える家系に生まれたのに、見えない上に怖がりとは、ふびんなことじゃ」お姉ちゃんの部屋に行くと、ベッドの周りに霊たちがふわふわ浮いている。何も感じないお姉ちゃんは、すやすやと寝ている。 「悪い霊ではないな。どれ、話を聞こう」 おばばが、霊たちひとりひとりに話しかけた。私たちには霊は見えるけど、声は聞こえない。ここはおばばに任せて、隣の部屋で除霊が終わるのを待った。30分後、おばばがお姉ちゃんの部屋から出てきた。 「終わったぞ。もう大丈夫じゃ」 「なぜ、あんなにたくさんの霊が姉に?」 「恋じゃ。あの霊たちは、あの子に恋をしたそうじゃ。しかし、しょせん、幽霊と人間の恋。かなわないと知って、みんな離れた。切ないのう。罪な女じゃ」翌日、お姉ちゃんはすっきりした顔で起きてきた。 「今日は肩が軽いわ~」 「よかったね」 「次の婚活はうまくいくような気がする。私にもやっとモテ期が来るかも」 …お姉ちゃん、モテ期、来たよ。生きてる男じゃないけどね。 (作家)