筑波メディカルセンター病院(つくば市天久保)に、新型コロナウイルス感染症患者を病院外で初期診断するエックス線診療車(ICXCU)が導入される。PCR検査で陽性判定された患者と非接触で放射線技師が胸部エックス線撮影を行い、遠隔診療の医師が診断を下す設備を整えている。17日、車両の技術開発に当たった産業技術総合研究所(産総研、つくば市)の研究グループが会見し、車両のお披露目をした。
エックス線診療車は、胸部エックス線撮影装置を搭載した車両に、感染防護のための換気機能、オンライン診療できる医療情報伝送システム、初期診療に必要な医療機器を搭載している。産総研健康医工学研究部門などがシステムを組み上げた。
車内にはオンライン診療を監視するオペレーターと、エックス線撮影を行う診療放射線技師が待機する。患者は体温測定後、後部入り口から搭乗し、血圧測定後、中央部のエックス線撮影室で胸部エックス線撮影を行い、車両後部の診察エリアで診断結果を聞く。
インターネットに接続された医療情報伝送用のオンライン診療システムは、医療関係者間コミュニケーションアプリを介して、病院内の診察室にいる専門医に胸部エックス線画像を転送する。医師はモニターを介し患者に問診し、画像から肺炎の程度を判定するなどして、保健所に伝える仕組み。
患者が車両に乗っている時間は10分程度。この間非接触を保つため、十分な換気を行い、ゾーニングにも工夫した。車内を区画分離し、前方から外気を取り込み、診察エリアへの一方向の気流を発生させ、後部診察室の天井から排気する換気システムを構築した。低濃度オゾン発生器やUV照射による空気の清浄化など、二次感染を防止する仕組みとしている。
PCR検査で陽性が確定した患者の療養先(自宅か宿泊か入院か)は、保健所が決めている。この判定のために必要なのが初期診断(メディカルチェック)。茨城県では胸部エックス線一般撮影(レントゲン撮影)、血圧、酸素飽和度、体温測定の4項目が推奨されている。これまでは患者が乗ってきたマイカーの窓越しに看護師が近づき体温などを測定した上で、エックス線撮影は病院の外に装置を持ち出して減圧テントの中などで行ってきた。
クラスターや二次感染の発生を避けるための措置だが、テント設置は、外気温や天候の影響を受けやすく、悪天候や照明が不十分な夜間時には診察できないなどの問題があった。初期診断の効率化は、医療従事者の二次感染防止と保健所負担軽減につながる取り組みとなった。
診療車は乗り合いバスのサイズで、従来も検診用に使われてきた車両を約7000万円かけて改造した。今後、オンライン診療システムの通信テストなどを行い、早ければ7月初めには筑波メディカルセンターに“納車”される予定。同センターでは減圧テントでのエックス線撮影と併用する構えだが、患者が宿泊するホテルなどへ“出張”しての利用も想定している。
車両を使った実証実験は、2021年度の茨城県DX(デジタルトランスフォーメーション)イノベーション推進プロジェクト事業に採択されている。地震や水害などで、医療機関が被害を受けた場合の一時的な救護施設支援としての機能検証なども県域対象に予定している。(相澤冬樹)