タマネギに多く含まれる「ケルセチン」が、認知機能の維持や前向きな気分の維持に役立つことを、農研機構食品研究部門(つくば市観音台)の小堀真珠子食品健康機能研究領域長らの研究グループが明らかにし、5月の学会誌オンライン版で公表した。成果を元に、ケルセチンを関与成分とする、タマネギの機能性表示食品の届出を目指すという。
ケルセチンに着目して研究を進めてきたのは、農研機構と北海道情報大学、岐阜大学の研究グループ。農研機構が試験食品の設計などを行い、岐阜大学が認知機能維持・改善に関わる作用を見出してメカニズムの検討を進め、北海道情報大学では健康な人を対象とした試験を実施した。
ケルセチンは黄色くやや苦みがある物質で、黄タマネギと呼ばれる一般的なタマネギには可食部100グラムあたり約10~50入りグラム含まれる。今回のヒト介入試験は、60~80歳の健康な男女計70人を2群に分け、約5か月間摂取してもらい、一般的な認知機能検査を行った。2群の一方は黄タマネギ粉末を1日1回11グラム(ケルセチン50ミリグラム)、他方はケルセチンを全く含まない白タマネギ粉末を食べてもらった。
その結果、認知機能については、ケルセチンを含むタマネギを食べた人は、一般的な認知機能検査(ミニメンタルステート検査)の点数が、対照群のケルセチンを含まないタマネギを食べた人に比べて、摂取24週間後により大きく増加し、タマネギのケルセチンが認知機能の維持に役立つことが示された。
また、抑うつ状態については、ケルセチン高含有タマネギを食べた人の脳機能評価点数が、対照群に比べて、摂取24週間後により大きく低下した。タマネギのケルセチンが前向きな気分の維持にも役立つことが示された。

これらの結果から、日常の食事の中で摂取するタマネギが、加齢に伴い低下する認知機能の維持や前向きな気持ちの維持に役立つ可能性が示されたという。
厚生労働省が策定した「健康日本21」では、野菜はカリウム、食物繊維、抗酸化ビタミンなど、循環器疾患やがんの予防に効果的な成分を多く含んでいるので、通常の食事として1日当たり350グラム以上の摂取を目標とするとしている。しかし国民健康・栄養調査の結果では野菜摂取量の平均値は280グラムで、目標に届いていない状態が続いている。
タマネギ研究10年以上の小堀研究領域長によれば、ケルセチンは加熱しても構造が壊れにくく調理してもほとんど壊れない。タマネギはケルセチンの摂取に適しているだけでなく、炒め物や煮物などで他の野菜とともに調理されることが多い。その成分が機能性表示されれば、野菜全体の摂取量増加も期待できると考えた。研究成果は、ケルセチン高含有タマネギを使った食品の機能性表示に根拠を与える。
農研機構ではケルセチンを高濃度に含むタマネギを開発するとともに、野菜消費増加に向けて、生産者による機能性表示の届け出を支援するサイトも運営している(農水水産物の研究レビュー)

小堀領域長は、「これまでは個々の野菜の健康機能に着目してきたが、今後は普段食べている食事で健康を維持できる食生活とはどういうものかを探求したい。ひとりひとりの体質や、その時々の体調に合った食事やレシピを提案するシステムの開発を目指します」と話す。タマネギについては既にレシピ本「The たまねぎ料理」がネットで公開されている。(如月啓)