日本で唯一の視覚障害者・聴覚障害者のための大学である筑波技術大学に2月、新しく手話通訳スタジオが設置された。昨年からのコロナ禍により、学内の会議のほとんどがオンラインになり、手話で発言する参加者がいる会議に配置していた手話通訳もオンラインに移行した。スタジオ設置により、これらの会議で手話通訳の負担が軽減した。
手話通訳専用の大型モニター
現在、同大学の天久保キャンパスには、約200人の聴覚障害学生に加えて、聴覚障害のある教職員も 9 人在籍している。大学の授業では、基本的に担当教員が手話で話したり、スライドなどの視覚的にわかる教材を使用し、学生と直接やり取りする。一方、大学には手話がわからない教職員もいるため、聴覚障害のある参加者がいる職員会議や職員研修などには手話通訳を付けている。
オンライン会議で手話での発言を音声言語に通訳する場合、分割された小さい画面上で手話を読み取る必要があるため、ノートパソコンのモニターでは通訳者の目に負担がかかる。そのため、当初は手話通訳が必要な会議の際は、大型モニターのある部屋を使用し、モニターで会議の様子を見ながら通訳ができるよう、部屋のレイアウトを変えていた。しかし、その都度空いている部屋を探していたため、各部屋の機材に対応する必要があり、準備に時間が必要だった。また、一般の大型モニターを使用していたため、視線が上向きになり、長時間画面を見ていると通訳者の首に負担がかかった。
スタジオができたことで、毎回同じ環境でできるようになり、準備の負担が軽減し、問題点が出てきても、すぐに改善できるようになった。また、手話通訳専用に大型モニターを通常よりも低めに設置し、通訳者が椅子に座った状態でも自然な視線で画面を見られるようにした。
学内の職員研修等で使用するオンデマンド動画に付与する手話通訳も録画できるよう、グリーンバックや撮影用照明、ビデオカメラ等も整備した。
通訳環境が安定し会議がスムーズに
対面の会議でも、手話通訳が話の流れについていけないことがある。会議の担当者と通訳者が別の部屋にいるオンライン会議では、さらに通訳者が会議の様子を把握しづらくなり、通訳が困難になる時も多かった。新しいスタジオは、担当者と通訳者が十分な距離をとりつつ同席することが可能な広さだ。同じ部屋にいることで、担当者も手話通訳の存在を意識しながらゆっくり話すようになり、通訳者もわからない部分を担当者に直接確認することができる。
しかし、同じ部屋で複数のパソコンから参加すると、ハウリングが起きてしまう。それを防止するため、スタジオではそれぞれのパソコンにスピーカーマイクを接続し、機器同士を連結させることで、ひとつのマイクとして認識させるようにした。両手で手話をしていても、ボタン 1 つでオン・オフが操作できるスピーカーマイクを常設している。
大学に手話通訳者として勤務する小貫美奈さんは「手話通訳の環境が安定したことで、発言に対する聞き返しが減少し、会議全体がスムーズに進行できるようになった」と話している。(川端舞)