つくば市在住の画家、上渕翔さんの展覧会「木に描く」が水戸市備前町の常陽史料館で開催中だ。板や丸太などさまざまな木に、ウッドバーニングやアクリル絵の具、金箔などで描いた58点の作品を展示しており、白いキャンバスを離れて自由なアプローチを目指した、この10年間の集大成と言える内容になっている。
上渕さんは熊本県出身。筑波大学で油絵を学び、卒業後ウッドバーニングを始めた。電熱ペンを使って木を焦がし描く技法で、木と絵の一体感が強く出るという。「木自体の色や存在感が好きで、それを見て何を描くか考えるのが面白い。例えば木目が風のそよぎにも、降り注ぐ雨にも、水の流れにもなる。木の力を借りて作品が生まれていて、同じものは2つとない」
生活に入り込めるアートを作りたいという思いもあった。絵を買って部屋に飾るのは、特に若い人にはハードルが高い。より手にしやすいよう小さな升や桐箱などに絵付けした作品を発表し、そこから桐下駄、羽子板、曲げわっぱなど日本の伝統的な木製品にも目が向いていった。
製材所で見付けた古材や、骨董市で出合った建具などからも「描けそう」とインスピレーションを得て、その素材ならではの雰囲気や存在感が生かせる画題や手法を選んでいる。
「古色を帯びた木だとウッドバーニングよりも、絵の具で白を入れた方が引き立つ。アクリル絵の具は以前から影付けなどで補助的に使っていたが、積極的に取り入れることで、いっそう木を生かせるようになった。黒に金の取り合わせも好きで、最近はよく使っている」
ここ数年は暗い中にもロマンチックな雰囲気のある作品づくりを目指しているそうで、和と東洋や西洋が溶け合ったようなイメージが広がる。神話やマザーグースなど、物語の世界からヒントを得ることが多いという。「導く者」と題した2枚の作品では、中国の伝説で太陽に棲む3本足のカラス「日烏」と、月に棲むウサギ「月兎」に、星座のからす座やうさぎ座、植物の桜や菊を組み合わせた。
「日本神話では八咫烏(やたがらす)や因幡の白兎が神々を導いたが、この絵では神話以前から人を導いてきた星々や植物が真の主役。私の絵には、ぱっと見には分からないところにダブルミーニングや暗喩などが込めてあり、謎があった方が面白い」
最近は活動の幅がさらに広がり、土浦を拠点に活動する石原之壽さんの創作紙芝居の作画も担当。土浦港岸壁の競作壁画の一つ、ハスの葉陰に遊ぶコイの絵や、土浦市中村西根のラスク工房「美・Sekiyama」の外壁に描かれた、天使の羽根の絵も上渕さんの作品だ。「絵の技術が社会の中でどう生きるのかが若いときは見えていなかった。今こうして求められることがうれしい」と話す。(池田充雄)