土曜日, 5月 15, 2021
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たゆたう歌物語① 都鳥 《遊民通信》15

【コラム・田口哲郎】
前略

コロナ禍になる前は、本郷キャンパスに通うのに、JR上野駅から上野公園、不忍池の弁天堂を通って、池之端門から構内に入っていました。東大病院の裏手にその門はあり、坂を登ると安田講堂の裏に出ます。さらに坂を登ると法文1号館という建物があり、文学部の講義は主にそこで行われているのです。

さて、不忍池の鳥の話です。池にはハトやスズメ、カモが集まり、さながら鳥の集会所のようですが、その中でひと際目を引く鳥がいます。ユリカモメです。東京は臨海都市ですが、上野辺りに海沿い感はありません。

でも、カモメがいる。吉本ばななが銀座に行くと潮の香りがする、とどこかに書いていましたが、カモメを見ると淡水の不忍池にも潮の香りが漂ってくるようです。ユリカモメは東京都の鳥になっていますから、特段珍しい鳥ではないのでしょう。少し釣り上がった目が愛らしく、立ち止まって眺めていました。ふと、口をついて出たのは、

名にし負はば いざ言問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと

という和歌です。これは『伊勢物語』第九段「東下り」と『古今和歌集』に収録されている在原業平の歌で、京都から下った業平が隅田川沿いで都に残してきた恋人に想いをはせて詠んだ歌です。

郷愁を誘う鳥?!

そういえば都鳥ってどんな鳥なんだろう、とスマホで検索してみると、ユリカモメだと分かりました。都鳥は郷愁を誘う鳥なんでしょうか。なんだかしみじみしてきて、私の故郷はどこなんだろう? と考え始めました。

当時、宗教学の講義を受けていたのだと思います。人はどこから来て、どこへ向かうのだろうか? 人間には霊魂というものがあるんだろうか? あるとしたら死後どこへ行くのだろう? もし霊魂などなくて、死んだら体が原子に分解されるだけだとしたら…。

あらゆる宗教は死後の生命を前提に成り立っています。死んでも「わたし」は「わたし」なのです。人はそう思いたいのです。はかない命は終わらない、と。でも、死んでも「わたし」が存続することが本当に幸福なんでしょうか? 死んだら、超新星爆発した星の欠片が宇宙空間に飛び散るように、我々の体も原子になって地球上を風に乗ってさまようのだとしたら。それはそれで救いのあることなんじゃないか?

いや待てよ、やっぱり「わたし」は「わたし」でいたいんだな…。揺れ動く心で、都鳥ことユリカモメを見ていると、1首浮かびました。

都鳥 告げて鳴くのは わたつみの 果てにあるらむ 極楽のさま

やはり、どこか遠くに、霊魂が帰ってゆく楽園があってほしいと思います。愛らしい都鳥はキョトンとしていますが、ちゃんと楽園を知っていて、我々に知らせているのかもしれません。不思議な鳥です。

ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)

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