【コラム・浅井和幸】私がボランティアに参加している保護犬のシェルター。そこには、殺処分をギリギリ免れた犬、虐待で人にたたかれ続けた犬、短いひもでつながれて雨にぬれていた犬、車上生活であまりエサを与えられなかった犬、人とほとんど接したことのない野犬など、様々な生い立ちの犬たちがいます。
人が近づくと震えて固まる犬、ほえる犬、かむ犬、ずっと人にくっついていたい犬など、人に対する態度も様々です。人間は好きだけれど犬が嫌いな犬もいます。
その中に、食べ物に執着し、エサを飲み込むように食べる犬Hがいます。下手に空いた餌箱を取り上げると、エサを取られると勘違いしてかみつかれた人もいます。エサを持っていくと、喜んでいるのか必死に奪い取ろうとしているのか、分からない態度を取ります。それなりに慣れた人でも、怖いと感じてしまうほどです。
エサを持っていくときは、焦らせずにさっと置いてくることが大事と言われるぐらいです。シェルターに来る前に飢えていた時期が忘れられないのかもしれません。
しかし、その食いしん坊犬Hに、私が待てと言うと、餌箱を置いても食べずに我慢します。皆さんに見せると、あのHがと、かなり驚かれます。自分のときは餌箱を見ただけで飛びかかってくるのに、頑張って、よだれを垂らしながら待っているのですから。
犬は一生懸命に考え工夫している
そこで出てくる言葉は、浅井のことは信頼しているから待てるけれど、自分はHにバカにされているから、待たずに飛びかかってくるのだ、と。だから、犬になめられないようにするには、どうしたらいいかと質問されます。質問する人はましな方で、もともと自分は犬になめられる人間なんだと諦めている方もいることでしょう。
もちろん相性もありますし、それぞれの時間がありますから、諦めることは悪いことではありません。無理をしてかまれてしまう方がよほどまずいことです。食いしん坊犬Hに、かむことを覚えさせてしまうからです。
私の解釈ですが、Hは食いしん坊だから待つことができるのです。というのも、私は、飛びついてきたり、「よし」という前に、食べようとしたりしたらエサを取り上げます。(よしと言ってエサを与えるイメージで、取り上げたらかまれるでしょうね)
Hにとっては、浅井の場合は待った方が早くエサを食べられると考えるから待つのでしょう。
他の方は、飛びついて怖がらせた方が早くエサを食べられると、Hに思わせるような接し方を繰り返したのでしょうね。バカにするかしないかではなく、いかに早くエサを食べるかに対して、Hは一生懸命に考え工夫しているのだと私は考えています。
もちろん、それをうまく行うにはちょっとしたコツが要りますので、無理は禁物です。慣れた人の支持を仰ぐのをお勧めします。もちろん、人間に対しても同じことが当てはまるので、お試しあれ。(精神保健福祉士)