水曜日, 10月 27, 2021
ホーム つくば 【震災10年】3 止まった時間がやっと動き出した 森田光明さん・智美さん

【震災10年】3 止まった時間がやっと動き出した 森田光明さん・智美さん

【柴田大輔】つくば市で整体院を営む森田光明さん(53)は、趣味のバイクで時折、福島を走る。県境を超え、見上げる空や、流れる風景に目をやり、こう思う。

「地続きなので、そんなに他県と変わらないはずなんです。でも、福島に入るとなんだかいいなって。福島って、やっぱいいよなって思うんです」

父が独立した年齢を意識した

福島県双葉町の自宅は未だ、帰宅困難区域の中にある。49歳で勤務先の企業を退職し、避難先のつくば市東で2019年、妻・智美さん(46)とフォレスト整体院をオープンさせた。

10年前、父を津波で亡くした。悩んだときに背中をそっと押してくれる父だった。実直に働き家族を養ってきた父を「すごく大好きで、尊敬していた」と言い、「目標だった」と話す。光明さんは父の背中を見て生きてきた。51歳での開業は、造園業を営んだ父が独立した年齢を意識してのことだった。

光明さんは震災当時、福島第2原発に勤務していた。「泣きながら働いていた」というほど仕事に追われる日々だった。発電所内で揺れに遭い、避難所だった自宅近くの小学校で家族と落ち合った。だが、そこに父はいなかった。「100歳まで間違いなく生きる」と誰もが疑わないほど身体が強い人だったから「生きていれば、どんな状態でも帰ってくるはず」と思っていた。

父が見つかったのは、原発事故により止まっていた捜索が再開された4月のことだった。警察から連絡があったその日、外は雪が降っていたという。

「無念でした。長生きしてもらいたかった。ただ、ご遺体が見つからない方もいる中で、ありがたくも思いました」

家族で暮らすのがいい

地震翌日、避難指示が出た自宅を離れて内陸の避難所に移動した。爆発する原発をテレビで見た光明さんは「二度と家に帰れない」とつぶやき沈黙した。

母親と妻、長男らと栃木の親族を頼り、紆余曲折を経てつくば市に転居する。その間、家族と離れ、福島県内の会社寮にひとりで暮らし、第1原発での事故後処理に当たった時期もある。勤務のない日に数時間かけて家族のもとに帰る生活を続けた。

離れた土地で、智美さんが義母と長男の面倒を見た。つくばで長女を出産したとき、智美さんが体調を崩した。光明さんは半年休職し、家事と育児を手伝った。「単身赴任は限界。家族で一緒に暮らすのがいい」と思った。仕事の合間に、整体技術を学び始めたのもこの頃だ。

「原発の仕事もだんだん厳しくなって、いつまで続けられるかわからないという時期でもありました」

心のバランスを保つのも難しかった

整体院で光明さんと施術にあたる智美さんは「女性でも気軽に来てもらいたい」という思いから、つくばに転居したのちに技術を習得した。自身も経験した出産や、その後の経験から産後の骨盤調整や体調不良など女性目線のアドバイスを心がける。

明るく「今」を話す智美さんだが、震災後は家族の被災、避難先を転々とするなど、突然訪れた非日常的な生活に体調を崩してしまう。心のバランスを保つのも難しかった。そんな自分に歯がゆさを覚えていた。

「私はだいぶ、他の人より(新しい生活を始めることが)遅かったと思うんです。日常生活は動いているのに、そこにうまく乗れなくて」

光明さんを手伝うために整体技術を学び始めたのは、こうした不安の中でのことだった。だが、踏み出した新たな一歩が智美さんの中で「止まっていた時間」を動かすきっかけになった。

「震災後は体調不良もあって、時間が止まっていたんです。それが、人より時間がかかりましたけど、やっと自分の身体と気持ちが近づいてきたように思います。(双葉町には)帰りたいけど帰れないのはわかっています。この気持ちも、現実とすり合わせなくてはいけないと思っています」

光明さんはつくばを「新しい故郷」だと話す。

「つくばで知り合った方にもお世話になって、少しずつお客さんも増えてきました。コロナで大変な時期ですが、真面目に長くやり続けたいです」

父親譲りの真面目さで、仕事に向き合う光明さんに智美さんが言葉をかける。

「変に格好つけないでやってもらいたいと思っています。身体を見てもらうってことは、緊張しているとうまく見れないんですよね。お客さんにリラックスしてもらうためにも、私もそうありたいと思います」

初めての患者さんには、時間をかけてカウンセリングを施す。丁寧に、一人一人の状態に合わせた施術を心掛ける。

施術をする光明さん

いつか福島で

つくば生まれの長女は5歳になり、福島で生まれた長男は中学1年生。寂しいのは、家の中で子どもたちが福島弁を話さないことだと光明さんが苦笑いを浮かべる。それを聞いた智美さんがフォローを入れる。

「でも私が福島弁で(息子に)話しかけたら、ちゃんと返事したんですよ。聞くのはわかるけど、話せないんだなぁって」

「いやぁ、でもなんか寂しいよなぁ」と言う光明さんが、胸のうちにあった故郷への想いをこう話した。

「昔は双葉がそんなに好きじゃなかったんですよね、小さな街だし。どこどこの息子は誰だってすぐわかっちゃうし。でも、やっぱり自分は福島県民だなって思うんですよね。双葉で生まれ育って、『双葉愛』があるわけでもないんですけどね。今は人の縁を大切にしながら、コツコツ頑張っていきたいです。それで、いつか福島にも出店できる日がきたらいいなと思うんです」

落ち着いた住宅街にフォレスト整体院がある=つくば市東2丁目5ー13

2 コメント

衆院選にあたり、当選させない目的で候補者に関する虚偽の事実の投稿、あるいは名誉毀損や侮辱等に当たる投稿を行った場合には、法令違反となり刑事罰に問われる場合があります。

2 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
名無しの市民
7 months ago

似顔絵可愛いです。

名無しの市民
7 months ago

読んでいて涙が出ました

スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

バドミントン女子団体で日大中等が優勝 土浦市中学校新人大会  

2021年度土浦市中学校新人体育大会が26日から4日間の日程で開催されている。バドミントン競技は26日、土浦六中体育館で女子の団体戦と個人戦が行われ、団体戦では土浦日大中等教育学校が初優勝を果たした。個人戦シングルスは矢吹優来さん(日大中等2年)、ダブルスは久家悠里さん・秋元優菜さん(新治学園2年)が優勝した。 団体戦は土浦四中、土浦六中、日大中等の3校がリーグ戦を行い、日大中等が2勝を挙げて優勝を決めた。「毎年最下位だったので一つでも上の順位が取りたかった。コロナ禍で全く練習できず、一発本番でむちゃくちゃ緊張した」と主将の矢吹さん。「2試合とも相手チームの方が人数が多く、応援のパワーに押されそうになった。また団体戦は初めての子もいて、最初はみんなに迷惑をかけたくないと緊張していたようだが、だんだん自分の力を出せてきた」と話す。 チームの自慢は、中高一貫校なので高校年代の先輩と一緒にハードな練習に取り組んでいること。「シャトルランやフットワークなど、みんなが嫌いなトレーニングをみっちりやる。技術面はノックを中心に基本を徹底的に反復。初心者が多いが練習についてきてくれれば上の大会を目指せる」と顧問教諭の佐藤創一さん。 団体戦優勝の土浦日大中等チーム 個人戦は3校および新治学園からシングルス22人、ダブルス20チームが出場。予選リーグおよび決勝トーナメントで勝敗を競った。シングルス優勝の矢吹さんは「今年がチャンスと思い練習を続けてきたので、優勝できてめちゃくちゃうれしい。緊張で震えが止まらず精神統一できなかったが、よく動けたし凡ミスも少なかった」と振り返った。 市中体連バドミントン専門委員長の張替浩明さんによると、ここ数年バドミントンの人気は高まり、入部者の数も年々増えているという。(池田充雄)

吾妻70街区にイノベーション拠点など誘導 財務省とつくば市が土地活用意向調査

つくば駅近くの、つくば市吾妻2丁目70街区の国家公務員宿舎跡地約5.7ヘクタールの土地利用について、土地所有者の財務省関東財務局は26日、つくば市と共同で、70街区全体を対象とした民間事業者の意向調査(サウンディング型市場調査)を実施すると発表した。市学園地区市街地振興課によると、市内の公務員宿舎跡地の売却でサウンディング調査を実施するのは初めて。 市内で公務員宿舎跡地の処分が進む中、70街区はつくば駅に近接する大街区であることから、つくば市は中心市街地まちづくり戦略で、住宅だけでない複合的な都市機能の誘導を目指し「研究学園都市の研究成果や人材の集積を生かした交流の場や、新モビリティサービス、住民サービスのデジタル化など最先端の技術を街区単位で実現できる社会実装の場となるようなイノベーション拠点の形成など、様々な誘導施策を検討する」と位置付けている。 イノベーション拠点などを70街区に誘導することを検討するにあたって、民間事業者から意見を聞き、意向を把握した上で、民間のアイデアやノウハウを生かして事業化を目指す。 今回の調査は、土地活用の実施主体となる意向がある事業者または事業者グループを対象に実施する。つくば市の計画ではイノベーション拠点の整備を検討すると位置付けているが、市の計画にとらわれず広くアイデアを募集する。 70街区の土地処分の方法は、売却、定期借地いずれの場合も、今回の意向調査結果をもとに開発の条件をあらかじめ設定する。さらに入札参加者から土地利用の企画提案書を提出してもらい、国が設置する審査委員会で開発条件との適合性を審査した上で、審査通過者による価格競争で落札者を決定する「二段階一般競争入札」とするという。ただし意向調査結果によっては入札方法を変更する場合もある。 意向調査の参加申し込み受け付けは26日から12月10日まで。土地活用の方針、活用方策、事業者が参加しやすい仕組みなどについてアイデアを受け付ける。その後、12月13日から22日まで参加事業者から直接聞き取りなどを実施し、来年2月から3月に調査結果を公表する。土地売却をいつ実施するかなど、その後のスケジュールは現時点で未定という。

岸田首相がつくば駅前で応援演説 衆院選

自民党総裁の岸田文雄首相が26日、接戦が伝えられている衆院選茨城6区の自民党候補者の応援のためつくば市を訪れた。つくば駅隣接の商業施設クレオ前で演説し、集まった支持者らにコロナ対策や経済政策などを訴えた。 岸田首相は「日本の未来を選ぶ選挙。皆さんの信任をいただき日本の明日を切り開いていきたい」と述べ、コロナ対策について「皆さんの協力のお陰で今(感染者数が)低く抑えられているが、引き続き最悪の事態を想定しながら準備しておかなくてはいけない。病床数を用意し、ワクチン接種の拡大、検査体制の充実、治療薬の開発を進めていく」と述べた。 ワクチン接種については「2回目接種率が70%に乗った。アメリカ、フランス、ドイツに比べても上回っている。12月から3回目の接種をスタートさせる」とした。検査体制は、無料のPCR検査体制をつくり、薬局で検査キットを購入できるようにするなどと述べた。治療薬については「自宅で飲める治療薬をつくる体制を、年内の実用化を目指して努力していきたい。自宅で飲める治療薬が実用化されたら、検査で陽性が分かったらすぐ薬が飲める、不安に思ったらどんどん検査しようと思う、重症化を防ぐことにつながる、平時の社会を取り戻す一歩になる」と強調し、「治療薬が実用化されるまでは皆さんに協力をお願いするが、皆さんの仕事を守るための大型の経済対策を用意させていただく」と話した。 経済対策については「平時の生活を取り戻した先に再び経済を動かしていかなくてはならない」とした上で、「新しい時代の経済は、競争や市場原理に任せると強い者がどんどん強くなって、大きな企業、大きな都市がどんどん強くなる、成長の果実を強い者が独占するのではなく、一人一人の給料を引き上げる経済政策を進めていきたい」などと訴え、支持を求めた。

アリガトウ サイトウギャラリー《続・平熱日記》96

【コラム・斉藤裕之】昨年から作品を入れる箱型の額を自作し始めた。手頃な角材とアクリル板を使って作る簡単な大工仕事は、ステイホームの1日などにはピッタリの単純作業だ。だからというわけでもないが、調子に乗って来年の分まで収納できるくらいの数は作ってしまった。 作った額に、今年描いた小さな絵を入れていく。今年も恒例の個展「平熱日記」展が近づいてきたのだ。相も変わらず同じような絵を描いていると思えば、今年我が家にやって来た白い犬や初孫の絵もある。 こんな絵を描いたっけ?というのもあるし、描きかけのものもたくさんあって加筆をして仕上げていく。それから、描きはしたものの長年ほったらかしになっていた絵も、この際作った額に入れていくことにした。一番古いのは、17年前の長女が中学入学する時の制服姿のものだった。 絵描きというのは、人前には出たくないくせに描いたものは見せたいというあまのじゃくなところがある。それから、描いたっきり誰にも見せないというのでは絵としての役目も意味もない。かといって、ぜひ飾ってくれという話もないのだが、唯一我が町のサイトウギャラリーで個展を開かせてもらっている。 しかし残念なことに、今年いっぱいでこのギャラリーを閉めるという。20年もの間、多くの作家や作品が行き交った場がなくなるのは寂しいが、これも時の流れ。メインのコーヒー屋さんに専念なさるそうだ。 11月2日から「平熱日記展 Vol.11」