木曜日, 12月 8, 2022
ホーム 土浦 《霞月楼コレクション》12 ツェッペリン伯号霞ケ浦飛来と熱烈歓迎

《霞月楼コレクション》12 ツェッペリン伯号霞ケ浦飛来と熱烈歓迎

【池田充雄】1929(昭和4)年8月19日、風が止まったような夏の午後、土浦の町が突然薄暗くなり、見上げると巨大な銀色の葉巻のようなものが浮かんでいた。大空の巨鯨と形容されたドイツの飛行船LZ-127、愛称を「グラーフ(伯爵)ツェッペリン号」という。

大空を行くツェッペリン伯号の雄姿

ツェッペリン伯爵と後継者フーゴ・エッケナー博士は、1937年までに130機の飛行船を建造。軍事、旅客、航空郵便・貨物などに活用された。1928年に完成したLZ-127は全長236.6メートル、最大直径30.5メートルの偉容を誇り、マイバッハ社530馬力エンジン5基を搭載。燃料は重量軽減のため主にブラウガス(石油気化ガス)を用い、最高速度は128キロ。巡航速度の117キロでは1万2000キロの航続距離があった。

ツェッペリン伯爵(左)とエッケナー博士ら、1911年ごろ

幹部乗員らを霞月楼に迎える

エッケナー博士はこの最新機による世界一周飛行を計画。1929(昭和4)年8月7日深夜に米国東海岸レイクハーストを出発した飛行船は19日午後4時過ぎに土浦を通過し、東京の北東上空に姿を現した。

合図のサイレンが市内各所から鳴り響く中、千住、上野、日本橋、丸の内と進み、屋上という屋上、窓という窓には黒山の人だかりができたという。品川からは京浜方面へ向かい、横浜上空を一周して霞ケ浦海軍航空隊飛行場には午後6時過ぎに到着。トロッコを使って飛行場の格納庫へ収められた。

着陸後、エッケナー博士ほか幹部乗員11人は、自動車で霞月楼へ移動、霞ケ浦航空隊司令・枝原百合一少将主催の歓迎会に出席した。このときの献立表が残っている。

[霞月楼に残る献立帳]
椀盛 花車海老 火どりきす 三つ葉 椎茸
刺身 梶木 木うり 花山葵 雪おろし
取り肴 玉子吹き寄せ 車海老塩焼 大葉百合うま煮
焼物 鮎塩やき 酢取り生姜
甘煮 新いも 新はす とうがん寿司 鴨くわ煮
小丼 鮑 塩蒸し
茶椀 すっぽん仕立 三つ葉 しぼり生姜
水菓子 まくわうり ぶどう

後にエッケナー博士が「ことに貝がよかった」と話したのはアワビのことか。当時は冷蔵技術が未発達で、土浦で海産物を仕入れるのは難しかった。だがこの日ばかりは海軍の接待とあって、銚子港から軍用船で運び込んだのだそうだ。

一方、下士官以下の乗員には飛行場で海軍伝統のカレーが振る舞われた。当時の土浦町右籾では糖度の高い良質なジャガイモが産出された。ドイツの人には故郷の味だろうと、ジャガイモ入りのカレーを作って喜ばれたという。これが現在の土浦ツェッペリンカレーや土浦カレーフェスティバルの起源となった。

飛行船に乗った少年の物語

ツェ伯号を一目見ようという群衆は引きも切らず、海軍航空隊周辺に詰めかけた。上野-土浦間には何本もの臨時列車が増発され、停泊期間中の合計来訪者数は30万人とも40万人とも言われる。土浦-阿見間を走る常南電車や乗合バスはフル回転で鈴なりの乗客を運んだ。

霞ケ浦に駐機中のLZ-127。キャビン右舷にタラップが下りている

着陸の翌朝から見学が許され、格納庫に殺到した群衆は、10メートルほど開けられた扉の隙間から「空の怪物」の偉容を見上げた。このとき、LZ-127の内部見学を許された子どもが一人だけいた。後の霞月楼4代目会長、故・堀越恒二さんだ。

「私が満7歳で小学校二年生のとき、菊の間でツェッペリン伯号来日の歓迎会があった。夜9時ごろ、士官連中が25人ほど集まっていて覗きに行くと、出てきた顔見知りの副官に『坊主、ツェッペリン飛行船に乗りたいか?』と言われた。それで翌日、店の板前にリヤカーで連れて行ってもらった」

驚きの物語は、「飛行船に乗った少年/堀越恒二氏インタビュー」(2007年、土浦ツェッペリン倶楽部、土浦ツェッペリン協議会)に詳しい。漫画家うるの拓也さんによるコミック「ツェッペリンが舞い降りた日」にもなっている。

乗客でにぎわうラウンジ。ここで恒二少年は写真を撮られた

60年後の1989(平成元)年11月18日、ツェッペリン伯爵の孫イーザ・フォン・ブランデンシュタイン女史と、LZ-127の元乗員ら計5人が来日。土浦市役所や着陸地跡の陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地を訪問後、霞月楼でもてなしを受けた。恒二会長がかつて同機に乗った話をしたところ、「坊主頭で半ズボンをはいた日本人の男の子の写真があった。複写して送ってあげる」と言われた。だがその後イーザさんは亡くなり、写真の所在も分からずじまいとなった。

2000年5月、市民有志が飛行船によるまちづくりを掲げ、霞月楼を事務局として「土浦ツェッペリン倶楽部」を結成。亀城プラザ(土浦市中央2丁目)にある1/20スケールのLZ-127模型を製作したほか、2005年には現代のドイツに蘇った「ツェッペリンNT号」を土浦に招致、翌年には子ども向けの体験飛行も実現させた。

今月、扉を塗り替え新装成った「土浦ツェッペリン伯号展示館」(円内写真は故・堀越恒二会長)

同倶楽部は今もLZ-127飛来の歴史を貴重な地域資産として活用すべく、資料館「土浦ツェッペリン伯号展示館」(土浦市中央、土浦まちかど蔵「野村」文庫蔵)の運営などに当たっている。(シリーズ全12回おわり)

  • 取材協力・参考資料 陸上自衛隊武器学校▽陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地▽土浦市立博物館▽圓地與四松「空の驚異ツェッペリン」(1929年、先進社)▽廣岡幽峯「霞空十年史」(1931)▽大谷芳夫「グラーフ・ツェッペリン飛行船訪日資料」(1970年)▽「霞月楼百年」(1988年、霞月楼)▽図録「夢の空へ」(1990年、土浦市立博物館)▽柘植久慶「ツェッペリン飛行船」(1998年、中央公論社)▽天沼春樹「夢みる飛行船」(2000年、時事通信社)▽「阿見と予科練」(2002年、阿見町)▽「阿見原に来た飛行船ツェッペリン伯号」(2004年、阿見町教育委員会生涯学習課)▽「ようこそツェッペリンNT号」(2005年、飛行船ツェッペリン号再来歓迎実行委員会)▽うるのクリエイティブ事務所「ツェッペリンが舞い降りた日」(2010年、土浦ツェッペリン倶楽部)▽東京朝日新聞1929年8月19日~30日付▽東京朝日新聞・大阪朝日新聞・大阪毎日新聞1929年8月19日号外▽常陽新聞1989年11月19日付・2000年10月20日付▽Newsつくば2019年11月21日付▽土浦ツェッペリン倶楽部ウェブサイト

シリーズ協賛 土浦ロータリークラブ 土浦中央ロータリークラブ

2 コメント

特定候補や特定政党等をおとしめたり誹謗中傷するコメントは公選法や刑法に抵触する恐れがあり、削除します。

2 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最近のコメント

最新記事

無償譲渡受け市管理も選択肢の一つ 洞峰公園問題でつくば市長

つくば市長定例会見が8日開かれ、同市二の宮にある県営の都市公園、洞峰公園(約20ヘクタール)にグランピング施設をつくるなどのパークPFI事業について、五十嵐立青市長は「グランピング施設とバーベキュー施設は望ましくないという考えに変わりはない」と述べ、県から無償で公園の譲渡を受け市が管理することも選択肢の一つだとする考えを述べた。 洞峰公園のパークPFI事業をめぐっては、大井川和彦知事が1日の定例会見で、年明けにもグランピング施設などの建設許可の事前協議を開始したいと発言し、さらに、つくば市が自ら管理するのであれば洞峰公園を無償で市に移管したいなどと述べている(12月2日付)。8日の市長会見では、知事発言について記者から質問が出て、五十嵐市長が答えた。 一方で五十嵐市長は、無償譲渡について「簡単に『はい』と言えるものではない」とも述べ「(市として維持管理費などを)精査しているわけではないので、そもそも維持管理費がいくらかかるか分からない。市の他の公園規模と比べてどうかなど、検討するにしても細かい情報は必要になる。無償移管を検討するのであれば(県から)細かいデータをいただかないと市民にも議会にも説明できないし、今の段階で何をどうするかはまだまだ分からない」とも話した。 県は8月の説明会などで、洞峰公園の維持管理費用として、指定管理料が年約1億5000万円、来年度から2027年度までの大規模修繕費用として3億5600万円かかるとしている。 五十嵐市長はさらに、プールやテニスコートなどの利用料金値上げ要望に対し、大井川知事が1日の会見で「利用者の中の一部にだけ負担を押し付けるやり方でバランスが非常に悪い」と否定し、さらに協議会設置要望についても「協議会の位置付けや性格が不透明」だと市の要望をいずれも否定したことについて、「値上げ案は県が当初より代替案として示していたもの。そういう代替案に対して『バランスが悪い案だ』というのは、いささかとまどっている」と不快感を示し、さらに「(県は)『協議会の必要性が分からない』という話だが、(協議会は)話し合っていく素地を作るためには必要なものと思っている」と反論した。 その上で五十嵐市長は「つくば市への回答をちゃんと文書で示していただいた方が、お互いのミスコミュニケーションはないと思っている。はっきりと県の方向性が決まったら文書でお示しいただいて、それをもとに県と協議していきたい。協議が整わない中で(グランピング施設建設の事前協議が)申請されることはないと思っている」と改めて述べた。

「5時に夢中」の岩下さんの見せる「文化」《遊民通信》54

【コラム・田口哲郎】 前略 東京メトロポリタンテレビジョンの月~金曜日夕方5時からの番組「5時に夢中」を楽しく視聴していることは、以前書きました。「5時に夢中」は東京ローカルのワイドショーという感じですが、コメンテーターが多彩で、サブカルチャーの殿堂のようです。 私が好きなのは、木曜日の中瀬ゆかりさんと火曜日の岩下尚史さんです。中瀬さんは新潮社出版部部長で、文壇のこぼれ話を巧みな話術で披露して笑わせてくれます。岩下さんは新橋演舞場勤務から作家になった方で、東京のいわゆるハイ・カルチャーをよくご存じの方で、こちらも話術が巧みで笑わせてくれますが、ひとつひとつのお話に含蓄があるというか、うなずくことが多いです。 岩下さんの小説『見出された恋 「金閣寺」への船出』の文体は流麗で、引き込まれます。岩下さんは國學院大学ご出身ですが、國學院の偉大な民俗学者にして作家の折口信夫の小説『死者の書』などの文体を思わせる傑作だと思います。 さて、岩下さんのインスタグラムの話題が出ていて、美食家としての一面が見られるというので、見てみました。岩下さんらしい、ハイソな生活を垣間見られるのでおすすめです。シティ・ホテルでのパーティーや会食、料亭とおぼしきところでの高級料理など、きらびやかな世界が広がっています。

TX県内延伸に賛成?反対?【県議選’22つくば候補者アンケート】3

県議選候補者アンケート最終回は、つくばエクスプレス(TX)県内延伸構想の是非と、旧統一教会と接点をもったことはあるかについて、つくば市区の立候補者8人に聞いた。 TX東京延伸については11月25日、東京都が「都心部・臨海地域地下鉄構想」の事業計画案を発表。まず臨海地下鉄を単独で整備し、将来的に、TX東京延伸(秋葉原-東京)との接続や、羽田空港との接続を今後検討すると発表したばかり。 一方、県内延伸をめぐっては、県が今年度、初めて調査費を計上し、今年度中に①筑波山方面②水戸方面③茨城空港方面④土浦駅方面-の4方面案の中から1本に絞り込むと発表し、県内各地で誘致合戦が繰り広げられた。延伸に必要な事業費、需要予測、費用対効果も調査が行われている。一方つくば市は東京延伸を優先するとし、県内延伸の誘致合戦には加わらなかった。 NEWSつくばは告示前、8候補者に対し「TX県内延伸ルートを絞り込む調査費を県が計上し、県内延伸を求める運動がつくば市以外で盛り上がっています。県内延伸計画に賛成ですか、反対ですか」と質問した。賛成、反対、どちらでもないの3つのいずれかに〇を付けてもらい、50字程度で理由を書いてもらった。 各候補者の回答は以下の通り。 ▽佐々木里加氏 賛成「県内延伸には反対しないが、土浦ではなく、本来はつくばエクスプレスの名の通り筑波山を経由し県庁のある水戸へ、あるいは空の玄関茨城空港を経由し水戸へ伸ばすべき」

筑波山が初冠雪

筑波山頂に6日朝、この冬初めて雪が降り、初冠雪となった。標高877メートルの山頂付近は午前中、雲に覆われたが、雲が薄くなったところは、雪が薄く積もっているのが麓からも見えた。 山麓の住民によると、平均的な初冠雪は12月中旬頃で、例年より少し早い初冠雪となる。 昨晩、南岸低気圧が通過、冷たい空気が大陸から流れ込み、気温が低い山頂は雪になったとみられる。この気圧配置は関東地方に雪を降らす典型的なパターンだ。 つくば市館野の6日の最低気温は11月下旬並みの3.1度。筑波山頂近くの御幸ケ原の気温は午前6時半時点でマイナス0.1度だった。気温は標高が100メートル上がるごとに0.6度下がるといわれており、標高877メートルの筑波山は、地上より約5度低いことになる。 南岸低気圧は2~3月によく発生し、大雪になることもある。雪の降る範囲は標高500メートル辺りまでのことが多い。「逆転層」という中腹付近の気温が高くなる独特の気象現象があるからだといわれる。(榎田智司) ◆筑波山の気象状況はライブカメラで確認することが出来る。