【川端舞】高齢者に電動車いすを貸し出し、効果や課題などを把握する経産省の実証事業がつくば市内で実施された。「のろーよ!デンドー車いすプロジェクト」で、電動車いすの普及促進と安全性の周知を行うことも目的。実際に利用してみた高齢者からは「移動に便利」という声が上がる一方、「歩道が狭い」など普及促進における問題点も明らかになった。
電動車いすの利用促進は、高齢者の活動を促すだけでなく、免許の返納などにもつながる。しかし障害者や要介護度の高い高齢者による利用が一般的とされており、社会の理解が普及に向けた課題となっている。
そこで経産省は、地域の高齢者に電動車いす(シニアカーを含む)を3週間貸与し、高齢者の活動に与える効果や、地域で活用する上での課題を把握するとともに、安全な利用に関する周知を行っている。
つくば市は今回の事業に応募。事業終了後も電動車いすを用いた取り組みが具体的に検討されている点などから、全国の他の4市とともに実証地域として採択された。
「一人で服を買いに行きたい」
10月12日~11月1日の3週間、同市千現と宝陽台地区に住む13人に電動車いすが貸与された。参加者には要介護認定を受けていないが、長距離歩行等に不安を持つ高齢者も含まれる。
片手で運転するタイプの電動車いすを借りた80代男性は、以前は自分で車を運転していたが、1年ほど前に息子に説得され、免許を返納した。妻と2人暮らしで、普段は杖を使って歩くか、バスに乗ることが多い。日用品の買い物や病院に行くにも歩いて片道20~30分かかり、なかなか気軽に出掛けられない。「親戚などが近くにいないため車での送迎を頼める人もいない。自分で車いすを買おうと思っていた。電動車いすの運転にもう少し慣れてきたら買い物や通院に使ってみたい」と話す。
両手で運転するシニアカー型の電動車いすを借りた70代女性は、以前は自分で車を運転していたが、今は体調を崩し、運転を止めている。普段は買い物や通院など週2回の外出時は、夫の運転する車で行っている。「夫と一緒だと食料品しか買えない。電動車いすに乗って、1人で外出できるようになったら、服なども買いに行きたい」と語った。
他にも「買い物やごみ出しなど大きな荷物を運ぶ時に便利」「いつもより遠くまで行けた」「自分で歩くよりも安定しているため、周りの景色を楽しめた」などの感想が聞かれた。
一方、参加者からは「歩道が狭くて通れないところがある」「店に入るとき、特にシニアカー型は車いすのまま入店できず、駐輪場に止めるスペースもない」など、今後普及させる上での課題も上げられた。「便利だけど、自分の足で歩けるうちは歩きたい」という声も多数あった。
経産省、普及の後押し検討
経産省の担当者は「『電動車いすが便利だと分かる』と『実際に電動車いすを使う』の間にはギャップがある。それを解決するのが、電動車いすのシェアリングサービスなのか、個人所有を後押しする購入補助なのか、様々な方法を視野に入れて、検討していきたい」と話す。
現在、高齢者が電動車いすを使いたい場合、介護保険制度を利用し、1割負担で借りることができる。今年8月時点で同制度を利用し、つくば市内で電動車いすを借りている高齢者は63人。
つくば市未来構想では「ライフスタイルに合わせた多様な移動手段の構築」を掲げている。市科学技術振興課の担当者は「未来構想に基づいて、高齢者に電動車いすを普及させることも今後検討していきたい」と話している。