【鴨志田隆之】つくば市内の、特につくばエクスプレス(TX)沿線で開発された住宅地は、個々の商品企画はあるものの、ニュータウン開発を各地で見てきた目には「なんだか大筋は何処も変わらない」印象が強い。それでも居住人口は伸びている上、つくばでも高層マンション住まいがもてはやされるのは、都心への移動手段があり、近隣に良好な自然環境があるという要素があればそれで良いのかもしれない。
TX沿線整備事業で最も北の中根・金田台地区(地区面積189ヘクタール)は現在、春風台、流星台と名付けられ、宅地分譲が急ピッチで進む。同地区にほど近いつくば市大(旧桜村)の農村集落で、「中ノ条プロジェクト」という小さな売り建て分譲に出会った。
牛久市在住の建築家、長尾景司さんがつくば市の不動産業、ケンライズ社と取り組む農地の有効活用で、わずか3棟の分譲だ。土地の提供者は、なんと「もん泊プロジェクト」にかかわっている塚本康彦さんだった。
「塚本さんは、もともと自宅母屋の利活用を考えており、以前はコーポラティブハウス新築の提案もされていました。もん泊はそこから発している事業です。中ノ条プロジェクトは塚本さん所有の農地を使わせていただき、住宅とセットで農地も借り受け、入居者が家庭菜園より少し本格的な野良仕事で遊べるというコンセプトを立ち上げました」
長尾さんは、3区画の分譲で建築する住宅には建築条件を付けず、自由設計とし、シェアファーム構想による自然と共にある日常を求め、増加傾向の空き家現象に対して持続可能な建築空間を提案し、ユーザー本位の住まいを実現しようとしている。つくばの農地に住むという環境を肌で体験してもらい、土地の伝統集落が有する文化との交流をアピールする考えだ。
「母屋は、この住居にお住いの方々に、たとえば親戚や友人を招く際のゲストハウスとして活用していただいても良い」塚本さんも農地や母屋の利活用に積極的な展望を持っている。その需要については、コロナ禍の影響もあり、東京から移住を検討しているという問い合わせ電話が増えている。
「私どもが提供した住宅地のひとつに、お父さんの会が発足していて、野菜や料理などの交換や焚火(たきび)を囲んだバーベキューといった交流が実現しています。中ノ条地区でも同じような地域コミュニティーが生まれることを願っています」
つくばという巨大な都市の開発は、鉄道沿線の大規模宅地にばかり目がとまっていたが、かつてミニ開発は乱開発と呼ばれた時代は変わっているようだ。周辺地域の魅力をどのように活かすかを真剣に考え、街づくりに携わる人々は、つくばらしさを常に大切にしている。(おわり)