【鈴木宏子】つくば駅周辺、つくばセンタービルリニューアル基本計画策定費や中心市街地エリアマネジメント団体の出資金などが予算化され、市民説明会が開かれないまま、中心市街地をイノベーション拠点にしようという取り組みが始まっている。これに対し市民は、中心市街地に何を求めているのか。
市は2017年から居住者や働く人の意向調査、オープンハウス、アンケートなどで市民の意見をたびたび求めてきた。
市民意向調査結果の方はホームぺージなどで公開されている。調査の一つ、中心市街地居住者580人の意向調査結果では、住民は中心市街地に「商業や滞在型施設などが多く立地し活気にあふれている街」「文化施設や公共施設が多く立地する公的機能が中心の街」を求め、「インキュベーション(創業支援)施設」がほしいとの回答は14番目だった。
市民は生活者として中心市街地に、にぎわいや都市機能、文化を求めている。昨年12月に出された市議会の「今後のつくば中心市街地まちづくりについての提言」も市民の意向に沿ったものだ。
今年3月策定の「中心市街地エリアマネジメント検討業務委託報告書」にも市民の意向について「文化・運動施設、商業施設、子育て施設を望む意見が多い。その他高齢者、子供の居場所、市の窓口、業務機能、ホテル」などと記されており、市は市民の意向を把握した上で、今回のリニューアル案を出したことが分かる。
市の計画は民意と乖離(かいり)してないか。3年半前の前回の市長選でも、中心市街地という場所は別にして、つくばに集積する研究機関のさまざまな資源を活用して科学産業をつくり雇用を増やす科学産業都市づくりを訴えたのは大泉博子候補だったが、市民が選んだのは、総合運動公園問題の完全解決を訴えた五十嵐現市長だった。
市民の意向を市長がどう考えたかは議事録が不存在で、「市長・副市長報告案件指示事項」と題した簡単なメモの一覧表しかなく、意思形成過程を検証できなかった。
「市の顔つくば駅が効果的」
なぜセンタービルに2カ所目のイノベーション拠点をつくるかについて「つくばセンタービルリニューアルの方向性案」では「(つくばセンタービルは)店舗自体を外から視認できないこと等により不特定多数を集客する商業等の入居は難しい」などと消去法で商業機能を省いている。さらに区分所有者の意向として「ホテルオークラ(ホテル日航つくば)から、ホテル運営が厳しい状況であるため相乗効果を生むオフィス機能となることが望ましい、オフィス機能であれば相乗効果が見込めるため連携した取り組みも可能」との意見があるとも説明している。
情報開示された「中心市街地エリアマネジメント検討業務委託報告書」には、つくば市は研究機関のさまざまな資源を活用した小さなビジネスは起こっているが市に根付く企業が少ないと課題を挙げ、「市の顔となるつくば駅周辺で、資源を活用したまちづくりを表現していくことが効果的」とある。
総合運動公園の教訓どこに
「総合運動公園問題の完全解決」を最大の公約に掲げた五十嵐市長が就任直後、著名な弁護士による総合運動公園事業検証委員会を設置した。総合運動公園がなぜ白紙撤回に至ったかについて同委員会は第1に民意との乖離を指摘し、7つの提言をまとめた。①大規模事業は民意の把握を適切に行い、市民の直接的な要請に基づくものでない事業は市民への説明を十分行うこと②事業計画、基礎的検討の段階で議会への適切な報告を行うこと③財源、市の財政負担の程度について確実な財源と見通しを区別して説明することーなどだ。
同検証委の提言を受け、市は18年9月「大規模事業の進め方に関する基本方針」を策定し、市が主体となる総事業費10億円以上の施設整備事業について、①事業の進め方、必要性や効果、課題、将来への影響など市民に必要な情報提供を十分に行うなど、民意を適切に把握する②事業の客観性を高め市民ニーズに即したものとし、意思形成過程の透明性を図るーなどの手続きを定めた。
「つくばセンタービルリニューアルの方向性案」によると、センタービルの改修費用は、すべての整備を市が実施した場合は約13億6280万円、市が出資する法人が運営整備した場合は約9億8960万円かかるとある。これはセンター広場に設置が検討されている屋根や、エリアマネジメント団体が担うことが検討されている中心市街地全体のまちづくりを含まない。
事業費は全体でいくらになるのか。エリアマネジメント団体の収支見通しをどう見積もっているのか。つくばには創業支援組織が多くあり多くの取り組みを行っているが、これまでやってきたことの分析はされ、課題を明確にしているのか。なぜ民意と乖離してでも中心市街地でなくてはならないのかー。市は総合運動公園の教訓を生かし市民に説明すべきだ。(つづく)